第1話 敗戦の足音と不穏の国
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『世の人の内に宿りし力は
目覚めのその時 天から授かる
神は我らの頭を撫で 祝福をお与えくださる
神の祝福を受けたものは
その力を持たざる民へと捧げ
世に祝福をもたらすことこそ使命である』
――聖典 序章より
人は生まれながらに魔力が備わっている。
その総量は個人によって異なるが、一度決まった量は変化することがない。一生を通して成長も衰退もしない、不変の力である。
そして、その魔力は「髪の毛の色」となって可視化される。
髪が黒ければ黒いほど、その力は強大で膨大となり、逆に色が薄いほどに、力は微弱になっていく。
かつて、漆黒の髪を持って生まれた一人の青年がいた。
彼はその強大な力で人々を守り、助けながら暮らしていた。やがて青年は、同じく黒髪の美しい女性と結ばれて子を成した。
生まれたのは、親よりもさらに濃く、深い黒髪を持つ子供だった。
ーーそれが、我が祖国『ルベリオン王国』の初代国王である。
以来、王族や貴族たちは、黒い髪を持つもの同士で「交配」を重ねてきた。
より黒く、より強い力を持つ子供を作り出すために。
力を持つ者は高い身分を得て、富を独占する。
ルベリオン王国に留まらず、この世界のほとんどの国がそうした階級制度を取っていた。
髪が黒ければ黒いほど、高い身分をもち、支配者として君臨することができる。
それが、この世界の絶対の真理だった。
その「黒髪による支配」の極致に至った国が、海の向こうにあった。
『ヴァランシエンヌ帝国』。
ルベリオン王国が「交配」という生ぬるい手段で魔力を保ってきたのに対し、その帝国は、血塗られた弱肉強食の果てに、ただ一人の『漆黒の怪物』を皇帝として戴くに至った軍事大国である。
事の発端は、ルベリオン王国の同盟国である『オーリィ公国』が、帝国の領土へ侵攻したことだった。
公国もまた、強力な黒髪の騎士団を擁する強国であり、ルベリオンとは密約を結んでいた。
「帝国が動けば、我がルベリオンも背後から突く。挟撃すれば、いかに帝国とてひとたまりもあるまい」
それが、傲慢な王族たちの算段だった。
だが、その政治的緊張感は、わずか三日で木端微塵に打ち砕かれる。
戦争にすら、ならなかったのだ。
前線からの報告に、ルベリオンの王宮は凍りついた。
出陣したヴァランシエンヌ帝国の若き皇帝、アルチュール・ノワール。彼が単身で戦場に現れ、その有り余る漆黒の魔力を解き放った瞬間、公国の誇る魔導騎士団は一歩も動けぬまま、その精神を恐怖で焼き切られたという。
鋼の城塞は影のように溶け、大地は焦土と化した。
同盟国は、牙を剥く暇さえ与えられずに敗戦国となった。
そして今、その『死神の軍勢』が、密約の露呈したルベリオン王国の国境へと押し寄せていた。




