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婚約破棄されたので、もう王太子に魔力は渡しません  作者: 凪乃
2章 半分の力で

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返すものと返さないもの

調査の終わりが近づいていた。


記録庫の巻物と石板は、すべて目を通した。ナディアが翻訳を終えたものは四十点。未翻訳のものがまだ二十点ほど残っているが、主要な内容は把握できた。十日間の集中作業。ナディアの目の下に隈ができている。それでも目は輝いている。


ブランシュ家の魔力の本来の役割。ロストリアとの古い契約。王家による取り込みの経緯。そして、門の守護者としてのブランシュ家の本来の位置づけ。点が線になり、線が面になった。


すべてが繋がった。ペンダントの紋章は鍵であり、契約の証であり、母から私への道標だった。母の書簡にあった四つの分類——「返すもの」「預かるもの」「渡さないもの」「守るもの」——が、今、私の中で明確な輪郭を持った。


テラスで、ハーリドと向かい合った。砂漠の午後の風がテラスを通り抜ける。ハーリドはいつもの平服。マリアが茶を出した。今日のハーリドは、茶を受け取ってすぐに口をつけた。交渉の席ではなく、結論の席だ。


「調査は十分ですか」


「ええ。主要な記録は確認しました」


「それで、どうなさいますか」


ハーリドの笑みは、いつもの計算の笑みだった。しかし、今日は少しだけ温度が違う。結果を見守った人間の、控えめな期待。


「整理させてください。返すものと、返さないものがあります」


「聞きましょう」


母の書簡にあった四つの分類を、自分なりに更新した。母が書いたものと全く同じではない。二十三年の時間が間にある。状況が違う。でも骨格は同じだ。ノートに書き出したものを、声に出した。


「返すもの。ロストリアの記録へのアクセス権は、もともとロストリアのものです。門の管理権も。これらは、ブランシュ家が保持する理由がありません。ロストリアに返します」


ハーリドが頷いた。予想通りの内容だったのだろう。茶を一口飲んだ。


「預かるもの。ブランシュ家の魔力系統の管理は、引き続き私が行います。ロストリアに渡すのでも、王家に渡すのでもなく、私自身が管理者です。門の開閉に協力することはできますが、それは対等な取り決めとして」


「もちろん」


「渡さないもの。王家への一方的な供給義務の根拠を、どこにも渡しません。記録庫の石板はここに残します。写しは持ち帰りますが、それはブランシュ家の権利を守るためであり、王家に提出するためではありません。これは私の判断であり、ブランシュ家の当主としての決定です」


ハーリドが目を細めた。笑みの奥で、計算が回っている。しかし同時に、敬意のようなものが見えた。整理された提案を、正面から受け取っている。


「守るもの」


最後の項目。母の書簡にあった言葉。


「次の世代がこの情報に辿り着くための道筋を守ります。私に子供ができるかは分かりません。でも、この記録が失われないようにすることは、私の責任です」


ハーリドは数秒、黙った。それから、茶のカップを持ち上げた。初めて、マリアの茶を飲んだ。一口。味を確かめるように。


「おいしい」


「マリアに伝えます」


「リゼロッテ殿。あなたのお母様と、あなたは似ていますが、違いますね」


「どう違いますか」


「イザベラ殿は、情報を持ち帰って守りました。あなたは、整理して配分しようとしている。守るだけでなく、使おうとしている。それは——良い違いです」


ハーリドが立ち上がった。手を差し出した。握手。商人の握手ではなく、対等な者同士の。


「協力しましょう。ロストリアの門の管理と、ブランシュ家の権利の保全。両方を、対等に」


手を握った。ハーリドの手は乾いていて、温かかった。砂漠の人の手だ。力加減は正確で、必要以上に握り込まない。数秒。それから手を離した。


ルーカスがテラスの柱に背を預けて見ていた。腕は組んでいない。今日は警戒の姿勢ではなかった。ハーリドが去った後、テラスに来た。


「良い交渉だったな」


「交渉ではないです。整理です」


「どう違うんだ」


「交渉は相手の利益を計算する。整理は自分の基準を明確にする。今日は後者です」


ルーカスは黙って考えた。それから、パンの切れ端を齧った。考えながら食べる。この人の思考は、口が動いている時に進む。


「分かった。じゃあ、良い整理だった」


夕日がテラスを橙に染めていた。ハーリドとの握手の感触が、まだ手のひらに残っていた。乾いて温かい。対等な温度だった。

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