返すものと返さないもの
調査の終わりが近づいていた。
記録庫の巻物と石板は、すべて目を通した。ナディアが翻訳を終えたものは四十点。未翻訳のものがまだ二十点ほど残っているが、主要な内容は把握できた。十日間の集中作業。ナディアの目の下に隈ができている。それでも目は輝いている。
ブランシュ家の魔力の本来の役割。ロストリアとの古い契約。王家による取り込みの経緯。そして、門の守護者としてのブランシュ家の本来の位置づけ。点が線になり、線が面になった。
すべてが繋がった。ペンダントの紋章は鍵であり、契約の証であり、母から私への道標だった。母の書簡にあった四つの分類——「返すもの」「預かるもの」「渡さないもの」「守るもの」——が、今、私の中で明確な輪郭を持った。
テラスで、ハーリドと向かい合った。砂漠の午後の風がテラスを通り抜ける。ハーリドはいつもの平服。マリアが茶を出した。今日のハーリドは、茶を受け取ってすぐに口をつけた。交渉の席ではなく、結論の席だ。
「調査は十分ですか」
「ええ。主要な記録は確認しました」
「それで、どうなさいますか」
ハーリドの笑みは、いつもの計算の笑みだった。しかし、今日は少しだけ温度が違う。結果を見守った人間の、控えめな期待。
「整理させてください。返すものと、返さないものがあります」
「聞きましょう」
母の書簡にあった四つの分類を、自分なりに更新した。母が書いたものと全く同じではない。二十三年の時間が間にある。状況が違う。でも骨格は同じだ。ノートに書き出したものを、声に出した。
「返すもの。ロストリアの記録へのアクセス権は、もともとロストリアのものです。門の管理権も。これらは、ブランシュ家が保持する理由がありません。ロストリアに返します」
ハーリドが頷いた。予想通りの内容だったのだろう。茶を一口飲んだ。
「預かるもの。ブランシュ家の魔力系統の管理は、引き続き私が行います。ロストリアに渡すのでも、王家に渡すのでもなく、私自身が管理者です。門の開閉に協力することはできますが、それは対等な取り決めとして」
「もちろん」
「渡さないもの。王家への一方的な供給義務の根拠を、どこにも渡しません。記録庫の石板はここに残します。写しは持ち帰りますが、それはブランシュ家の権利を守るためであり、王家に提出するためではありません。これは私の判断であり、ブランシュ家の当主としての決定です」
ハーリドが目を細めた。笑みの奥で、計算が回っている。しかし同時に、敬意のようなものが見えた。整理された提案を、正面から受け取っている。
「守るもの」
最後の項目。母の書簡にあった言葉。
「次の世代がこの情報に辿り着くための道筋を守ります。私に子供ができるかは分かりません。でも、この記録が失われないようにすることは、私の責任です」
ハーリドは数秒、黙った。それから、茶のカップを持ち上げた。初めて、マリアの茶を飲んだ。一口。味を確かめるように。
「おいしい」
「マリアに伝えます」
「リゼロッテ殿。あなたのお母様と、あなたは似ていますが、違いますね」
「どう違いますか」
「イザベラ殿は、情報を持ち帰って守りました。あなたは、整理して配分しようとしている。守るだけでなく、使おうとしている。それは——良い違いです」
ハーリドが立ち上がった。手を差し出した。握手。商人の握手ではなく、対等な者同士の。
「協力しましょう。ロストリアの門の管理と、ブランシュ家の権利の保全。両方を、対等に」
手を握った。ハーリドの手は乾いていて、温かかった。砂漠の人の手だ。力加減は正確で、必要以上に握り込まない。数秒。それから手を離した。
ルーカスがテラスの柱に背を預けて見ていた。腕は組んでいない。今日は警戒の姿勢ではなかった。ハーリドが去った後、テラスに来た。
「良い交渉だったな」
「交渉ではないです。整理です」
「どう違うんだ」
「交渉は相手の利益を計算する。整理は自分の基準を明確にする。今日は後者です」
ルーカスは黙って考えた。それから、パンの切れ端を齧った。考えながら食べる。この人の思考は、口が動いている時に進む。
「分かった。じゃあ、良い整理だった」
夕日がテラスを橙に染めていた。ハーリドとの握手の感触が、まだ手のひらに残っていた。乾いて温かい。対等な温度だった。




