兵器の言葉
朝の茶を飲んでいる時に、書簡が届いた。
マリアが受け取って、封蝋を確認した。灰色ではない。セレンからではない。赤い蝋に、ガルディア王国の小紋が押されている。結界管理局の公式便。カイル・ヴォルフハルトからだ。
封を切った。便箋は二枚。字は硬く、角張っている。カイルの字だ。感情を排除した、報告書のような筆跡。
『リゼロッテ・ブランシュ殿。ロストリアの遺跡に関する調査の進展を聞いている。石門の魔力応答について、こちらでも分析を行った。結論として、全力の魔力を門に供給すれば、完全な開門が可能と判断する。現状の半分の力では、門の構造に過負荷がかかり、長期的に損傷するリスクがある。以下の提案を検討されたい。一、結界管理局の魔力増幅装置を遠隔で送付する。二、装置を用いて、一時的に全力に近い出力を得る。三、門を完全に開門し、内部の記録を回収する。装置の安全性は局で保証する。カイル・ヴォルフハルト』
書簡を置いた。手が震えている。怒りではない。もっと冷たい感情。記憶だ。身体の記憶。
魔力増幅装置。以前の私なら、その名前を聞くだけで身体が硬くなっただろう。婚約していた頃、王家の結界維持のために、私の魔力は増幅されて使われていた。装置に手を置くと、身体の奥から魔力が引きずり出される感覚。腕の中を何かが逆流するような、不自然な流れ。身体を搾り取るような感覚。翌日は起き上がれなかった。三日間、熱が出たこともある。
カイルはそれを知っている。知った上で「安全性を保証する」と書いている。安全なのは装置であって、使う人間の身体ではない。装置は壊れない。壊れるのは人間の方だ。
「兵器の言葉だ」
ルーカスが言った。テラスの柱に寄りかかって、書簡を読んだ後だ。パンの切れ端を持ったまま、食べるのを忘れている。声は低く、平坦。怒っているのではない。事実を述べている。この人は、怒る代わりに正確になる。
「全力を取り戻せば石門は開く。正しい。でも、お前を道具として使う前提の提案だ」
「ええ。分かっています」
「断るのか」
「当然です」
返事は即座に出た。考える必要がなかった。この提案は、王宮にいた頃と同じ構造だ。私の身体を、目的のための手段として計算している。力があるから使え。全力が出せるなら出せ。身体の負担は、目的の重要性に比べれば小さい。そう考える人間が、「安全性を保証する」と書く。保証しているのは装置の安全性であって、私の安全性ではない。その区別をわざと曖昧にしている。
そういう計算を、私はもう受け入れない。
何のために力を使うか。それは私が決める。カイルでも、王家でも、ハーリドでもない。
マリアが新しい茶を淹れてくれた。ミントが強めだ。私の顔色を見て、刺激の強い配合にしたのだろう。一口飲む。喉の奥がすっとする。冷たい感情が、ミントの清涼感と混ざって、少しだけ和らぐ。カップを持つ手が、まだわずかに震えている。怒りではない。拒否の反射だ。身体が覚えている。増幅装置の感触を。
ルーカスがパンの切れ端を食べた。ようやく思い出したのだろう。咀嚼しながら、窓の外を見ている。何も言わなかった。断ると分かっていたのだろう。あるいは、何を言っても私の判断は変わらないと分かっていたのか。この人の沈黙は、いつも正しい場所にある。
午後、返書を書いた。テーブルの上にインク壺と羊皮紙を広げて、ペンを取る。
『カイル・ヴォルフハルト殿。ご提案に感謝します。ただし、魔力増幅装置の使用は辞退します。門の調査は、現在の私の力の範囲で行います。結界管理局の支援は不要です。リゼロッテ・ブランシュ』
簡潔に書いた。理由は書かなかった。理由を書けば、交渉の余地を与えることになる。「なぜ」と聞かれれば「こうだから」と答えなければならない。そこに隙が生まれる。断るときは、断る事実だけを伝えればいい。母の書簡にあった分類を思い出す。「渡さないもの:王家への一方的な供給義務の根拠」。これは渡さない。私の身体は、私のものだ。
返書を封じて、マリアに預けた。蝋を溶かして、印を押す。ブランシュ家の紋章ではなく、個人の印を使った。家の名前ではなく、私個人として断る。
ペンダントが首元で揺れた。金属は体温に馴染んで、温かかった。窓の外で、砂漠の風が白い壁を撫でていた。乾いた音。遠くの市場から、売り子の声がかすかに聞こえる。日常の音。私を道具にしようとする手紙が届いた日でも、日常は続いている。




