桜は嘆息した。
「終わったんですか?」
桜がそう言うと、サマーが答える。
「ええ、おそらく。
……えっ⁉︎ 危ない、ジナード、ツタン‼︎」
切羽詰まった大声を、サマーがあげた。
その言葉で反射的にジナードとツタンは飛びのくが、そのまま倒れていく。
「どうしたんですか⁉︎」
桜には何が起きたかわからなかった。
「まだ、残党がいたみたい。
ダメね、完全に2人とも気絶しているわ」
サマーが首筋に手をあてて、ジナードとツタンの様子を確かめた、
「一体どこから?」
「うん、気絶しているわね。
……ごめんなさい、桜ちゃん。
嘘なの」
サマーは申し訳なさそうに、桜に謝った。
「何がですか?」
「私が眠らせたのよ。
迷宮結晶を採取しないといけないから」
「そういえばそうでしたね。
忘れかけてました。でも、いいんですか? あとで面倒なことになりそうですけど」
「私としては、ジナードたちとエリザベートが相討ちになって欲しかったんだけど、上手くいかないものね。
まあ、予定通りではあるけど」
サマーが手を振ると、コロコロとジナードとツタンが転がる。そして、散らばっている人形の残骸にぶつかって止まった。
「痛そう……。
最初からこうするつもりだったんですか?」
「ええ、見られたくないもの。
でもジナードたちは、私を警戒して本気を出してなかったわ。
私も桜ちゃんも、エリザベートも本気ではなかったし、すごい時間の無駄ね」
「本気じゃなかったんですか?」
「私を見張る人材よ?
それなりに切り札を持っているはずなのに、使っていなかったわ。
エリザベートの方も、仲間を呼ばなかったでしょ?
本体じゃなかったからか、途中から入れ替わったからなのかは、わからないけど、本気では戦わなかった証拠よ」
「そう考えると、茶番、は言い過ぎかもしれないですけど、意味のない戦いだったんですね。たぶん、メロスも本気じゃなかったと思いますし」
「メロス、あれでも本気じゃなかったのね……。まあいいわ。
話を戻すけど、迷宮結晶は大体、500年くらいかけて自然発生するのが普通よ。でも、期待はしないでね。たぶんここでは見つからないから」
「えっ⁉︎」
桜が目を見開いた。
それなら何をしに、ここに来たのかわからない。
「エリザベートがここにいた理由は、たぶん、迷宮結晶を取ることだと思うわ」
サマーは端に折り重なっている人形の残骸を見ながら、呟くようにいった。
「どうしてわかるんですか?」
「この迷宮は出来てから、1万年くらい経っているの。
その間、一度も迷宮結晶は見つかっていないわ。
そのうえ、この階層も未到達。
だとしたら、エリザベート達が継続して取っていた可能性が高いでしょう。
そう考えれば、エリザベートがここにいた理由や、高ランク冒険者がよく消える理由も説明がつくわ」
「そんな、それじゃあ、無駄骨だったってことですね……」
桜は肉体的には疲れてはいなかったが、精神的にはだいぶ疲れた。
そこそこ面倒な状況だ。
「大丈夫よ。
これだけ長い時間をかけてできた迷宮なら、迷宮結晶を作れるだけのエネルギーは溜まっているはず。
全てのエネルギーが結晶化するわけじゃないから、私なら迷宮結晶を作れるわ」
「本当ですか⁉︎ よかった」
桜の顔が明るくなった。
それを見ながら、サマーは予防線を引く。
「エリザベートが余計なことをしてなければ、だけど。
たぶん私が空間魔法で、エネルギーを一箇所に集めれば、理論的には作り出せるわ。
まずはやってみましょう。
メロス、ジナードたちの監視をお願いしてもいいかしら?
起きそうになったら、眠らせて」
メロスは黙って頷き、ジナードたちの元へと移動し、流れるようにジナードの頭を踏みつけた。
「何してんの⁉︎」
桜は驚愕しつつ、メロスにツッコミを入れた。
「起きそうになっていたからな。
寝かしつけた」
「大丈夫?
ジナードさん死んでない?」
桜は本当に心配そうに、ジナードを見つめた。
「我がそんなヘマをするわけがなかろう。
我が筋肉は、安眠にも効く。
ぐっすり眠れ、起きた時には、寝る前より元気になっているはずだ」
メロスは胸を張る。
桜も、落ち着いて考えれば、メロスが無意味に人を傷つけるわけはない。
「結構強めに寝かしつけたつもりだったけど、流石ジナードね。
丈夫だわ」
サマーは桜たちのやりとりを見ながら、ジナードに対する評価を上げた。今度からは、もう少し力を込めて寝かそう。そんな機会が訪れないことを願うが。
「大丈夫ならいいっか。
えっと、サマーさん。
それじゃあ、よろしくお願いします」
桜は頭を下げた。
サマーはそれに、優しく微笑んで頷く。
サマーが手を正面に伸ばし、手のひらを上に向けた。
「出来たわ」
サマーの手のひらに、1センチ程度の大きさの黒光る石が現れた。
「速いですね……。
これなら、エリザベートとの戦いの最中でも作れそう……」
桜の呟きに、サマーが微笑んだ。
「む、気がつかなかったか?
エリザベートとの戦い中に、同じ気配を放っていたぞ。
何をしているかまではわからなかったが、迷宮結晶を作っていたのだな」
メロスが得心したように言った。
桜は、どいつもこいつも緊張感のない戦いしやがってと、少し残念な気持ちになる。
異世界最初の、The 悪役みたいな奴と戦ったのに、全く締まらない。
まあ、そんなにシリアスであってほしいわけじゃないけど。
「さあ、ジナードたちを起こして。
帰りましょう」
その言葉と同時に、メロスがジナードとツタンの背を蹴飛ばした。
「かはっ」「ぐほっ」
2人がゴホゴホいいながら、目を覚ます。
「酷い」
桜は首を振った。
「一体、何が?」
「……」
ジナードとツタンが体を起こしながら、辺りを見渡す。
「油断したわね、ジナード、ツタン。
エリザベートの置き土産を喰らうなんて」
「面目無い」
「……」
ジナードとツタンが頭を下げた。
「安心しろ、我がもう片付けた」
桜は、信用ならない奴らしかいないなぁ、と嘆息した。
お読みいただきありがとうございます。
毎日投稿するつもりだったんですが、なかなか難しいです……。
ホラーを執筆中で、ちょっとこの小説を書く気力が足りませんでした。
とりあえず、毎週4回以上投稿を目標に、執筆していきたいと思います。




