桜は恐怖した。
「先生、どうやって帰りましょうか?
エリザベートに通路を塞がれましたけど」
ジナードが困ったようにサマーを見る。
「あなたがなんとかして」
その言葉と同時に、端に積まれていた人形の残骸がサマー目掛けて飛んでくる。
「これ以上情けない姿は見せられないんでね」
その呟いてジナードが銃を振り抜いた。
すると全ての人形が消し飛んだ。
「なんですか、今の?」
桜が目を開いて驚く。
「バラバラにした程度では、すぐ直るということでしょう。
エリザベートは厄介な力を持っていますね」
ジナードが首を振った。
「じゃあ、その調子で通路も作ってくれる?」
サマーがジナードに命じた。
情けない顔でジナードは首を振る。
「そんなの無理ですよ。
迷宮に干渉できるのは、時空間系の力だけですから。普通は」
メロスをちらりと見ながら、ジナードは困ったように笑った。
「ええそうね。だからあなたに頼んでいるんじゃない」
「いやいや、無理ですよ。
俺にはこの銃しかないんですから」
「そう、ならここから出られないわね」
サマーは挑発するように言い放った。
ジナードは困ったように笑うと、メロスと桜を見る。
「メロスさんは迷宮を少し壊してましたよね?
どうにかできませんか」
「残念ね。
メロスはさっきのエリザベートとの戦いで、力を使い果たしたわ」
サマーがメロスに目配せをして答えた。
「うむ、我が筋肉は休息が必要なようだ」
すかさずメロスも乗った。
ジナードは頭を掻くと、真顔になる。
「どこまで掴んでいるやら。
俺の切り札もご存知のようですね」
「最高任命官殿からもらった道具、持っているんでしょ?」
ジナードが懐から取り出した黒い球を、通路があった場所に投げつけた。
すると、ゴッソリと迷宮を削り取った。
通路が先ほどより広く空いている。
ツタンが仮面の奥から、鋭くジナードを見ていた。
「……」
「仕方ないだろ。サマー先生は、意地でも使わせるつもりだったんだ。
遅いか早いかの違いなら、時間をかけるだけ無駄ってもんだ。
ですよね、先生」
「あら、なんのことかしら。
でもとりあえず、ありがとうって言っておくわね。
これで帰れるわ」
サマーはジナードに笑いかけた。
未だにジナードを睨みつけるツタンに、ジナードはため息をついて説明する。
「あのな、俺たちの敵役なんて、サマー先生にとっては役不足もいいところなんたよ」
そう言いながら、ジナードは銃の引き金を引く。その瞬間、光が3つ、鞭のように伸び、メロスとサマー、桜へ一気に迫る。
桜は魔法で衝撃波を作り吹き飛ばした。
サマーは空間ごと捻じ曲げて破壊した。
メロスは全く気にせず無視した。
光の鞭はメロスに巻きつく。
「あれ、1番捕まらなさそうな人が捕まった……、いや、捕まってないのか?」
メロスは平然と歩いていた。
ただ光の縄がくっついているだけで、動きに全く支障はない。
「どういうつもりですか?」
桜が掌をジナードに向けて詰問する。
「いえ、どうしようかなって感じなんですが、とりあえず、この光の鞭を防ぐことが、勇者の認定に必要なんですよ。
だから、そんな怖い顔をしないでください。
サマー先生が俺たちに攻撃したことは忘れるので」
ジナードはにこやかに言い放った。
その瞬間、ツタンが殺気を放つ。
「……」
「ああ、そうでした。
ツタンは若干、沸点が低いんですよ。
おーい、やーめーとーけ」
ジナードが、手をメガホンのように使って、適当に言った。
「……」
ツタンがナイフを構えた。
「ああ、すみません。
止めても聞かないので、力技で止めてください。
あっ、間違っても殺さないでくださいね」
ニヤニヤと笑うジナードとツタンを、メロスが抱えあげた。。そして、そのまま10回転ほど回る。
この間、0.01秒にも満たない。
2人の意識は完全に落ちた。
「本当に凄いわね。
どうなってるのかしら?
やっぱり、全く風が起きていない」
「それで、どうするんですか?
2人とも寝ちゃいましたけど」
桜はサマーのつぶやきを無視して聞いた。
「ジナードの持っている道具は見れたし、もう用済みよ。ここに捨てて行きましょう」
メロスは抱えていた2人をポイと投げ捨てた。
サマーはそれを見て、少し頷く。
「それじゃあ帰りましょうか」
「えっ、本当にここに置いていくんですか?」
驚いて声を上げた桜を、サマーはじっと桜を見つめた。
「思ったより優しいのね」
「私、そんなに冷たく見えますか?」
桜は心外だとばかりに、サマーに聞いた。
「いえ、エリザベートの人形に、躊躇なく攻撃していたじゃない?
敵対したら、どんなことでもするタイプかと思っていたわ」
「それは、人形でしたし」
桜が若干目をそらしながら言う。
「深くは追求しないわ」
サマーは含むように笑った。
「そんなことより、なんで、ジナードさんの、あの通路を作った道具を知っていたんですか?」
桜は露骨に話をそらす。
「ストーカーが近くにいたら、それなりに調べるでしょう?」
「普通、警察に届けると思いますけど。……なんか怖いんで、詳しくは聞かないことにします。
そういえばサマーさんには、この通路を作れなかったんですか?
たしか、できないって言い切ってましたけど」
桜が不思議そうに聞いた。
「できなくはないけど、面倒なの。
前に言ったでしょ?
空間が歪んでいる迷宮内で、広範囲に空間魔法を使うのは少し疲れるわ。
それになにより、ジナードの持っているの道具のデータを取りたかったしね」
「そうですか。
……ところで、やっぱりメロスでも、壁を壊すことはできましたよね?」
桜がサマーに聞くと、サマーより先に、メロスが静かに頷いた。
「我が筋肉を前にすれば、壁など紙と変わらん。桜が望むなら、破壊してみせよう」
「そうね。メロスなら破壊できたでしょう。なんで破壊できるのかは、さっぱり分からないけど」
サマーは大きくため息をついた。
「ああ、行けた気がする。
いや、我が筋肉なら余裕だ。
筋肉に不可能はない。
できないのであれば、筋トレが足りていないのだろう」
メロスが軽く拳を握ると、上腕二頭筋が盛り上がる。
「待って。もう壊さなくていいから」
「む。
我が筋肉は見なくて良いのか?」
メロスが少し残念そうな顔をしながら、筋肉をピクピクと動かす。
「メロスの力は、この先いくらでも確かめられそうでしょう?
今はいいわ」
「あのさ、1つ気になったんだけど」
「どうした?」
メロスが尋ねる。
「なんか、ジナードさんたちに対して厳しくない?」
桜が首を傾げた。
「その話は帰りながらしましょう。
ジナードたちが起きても面倒だから」
通路をサマーが歩き出した。
桜やメロスもそれに続く。
「それで?」
「ああ、ジナードたちからは、良からなぬものを感じる」
「良からぬもの、ね」
サマーが呟くように言った。
「どういう意味?」
桜が尋ねた。
「我らに対して、強い憎しみを抱いている」
「えっ、それは、サマーさんが色々やってそうだからね……」
桜が少しジナードを可哀想に思った。
「私、そこまで酷いことはしていないわよ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって言うでしょ?
詳しいことは話さないけど、そういうことよ」
「心の内まで知ってるんですね……。サマーさんの方がストーカーみたい」
ボソッと呟いた桜を、サマーが凄みを持った笑顔で見つめた。
それを見て、桜は誤魔化すように笑った。
お読みいただきありがとうございます。
次回はもう少し、話が進む予定です。




