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エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。  作者: 青桐
1章 筋肉エルフと少女勇者、時々、学者

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桜は恐怖した。

「先生、どうやって帰りましょうか?

エリザベートに通路を塞がれましたけど」


ジナードが困ったようにサマーを見る。


「あなたがなんとかして」


その言葉と同時に、端に積まれていた人形の残骸がサマー目掛けて飛んでくる。


「これ以上情けない姿は見せられないんでね」


その呟いてジナードが銃を振り抜いた。

すると全ての人形が消し飛んだ。


「なんですか、今の?」


桜が目を開いて驚く。


「バラバラにした程度では、すぐ直るということでしょう。

エリザベートは厄介な力を持っていますね」


ジナードが首を振った。


「じゃあ、その調子で通路も作ってくれる?」


サマーがジナードに命じた。

情けない顔でジナードは首を振る。


「そんなの無理ですよ。

迷宮に干渉できるのは、時空間系の力だけですから。普通は」


メロスをちらりと見ながら、ジナードは困ったように笑った。


「ええそうね。だからあなたに頼んでいるんじゃない」


「いやいや、無理ですよ。

俺にはこの銃しかないんですから」


「そう、ならここから出られないわね」


サマーは挑発するように言い放った。

ジナードは困ったように笑うと、メロスと桜を見る。


「メロスさんは迷宮を少し壊してましたよね?

どうにかできませんか」


「残念ね。

メロスはさっきのエリザベートとの戦いで、力を使い果たしたわ」


サマーがメロスに目配せをして答えた。


「うむ、我が筋肉は休息が必要なようだ」


すかさずメロスも乗った。

ジナードは頭を掻くと、真顔になる。


「どこまで掴んでいるやら。

俺の切り札もご存知のようですね」


「最高任命官殿からもらった道具、持っているんでしょ?」


ジナードが懐から取り出した黒い球を、通路があった場所に投げつけた。

すると、ゴッソリと迷宮を削り取った。

通路が先ほどより広く空いている。

ツタンが仮面の奥から、鋭くジナードを見ていた。


「……」


「仕方ないだろ。サマー先生は、意地でも使わせるつもりだったんだ。

遅いか早いかの違いなら、時間をかけるだけ無駄ってもんだ。

ですよね、先生」


「あら、なんのことかしら。

でもとりあえず、ありがとうって言っておくわね。

これで帰れるわ」


サマーはジナードに笑いかけた。

未だにジナードを睨みつけるツタンに、ジナードはため息をついて説明する。


「あのな、俺たちの敵役なんて、サマー先生にとっては役不足もいいところなんたよ」


そう言いながら、ジナードは銃の引き金を引く。その瞬間、光が3つ、鞭のように伸び、メロスとサマー、桜へ一気に迫る。

桜は魔法で衝撃波を作り吹き飛ばした。

サマーは空間ごと捻じ曲げて破壊した。

メロスは全く気にせず無視した。

光の鞭はメロスに巻きつく。


「あれ、1番捕まらなさそうな人が捕まった……、いや、捕まってないのか?」


メロスは平然と歩いていた。

ただ光の縄がくっついているだけで、動きに全く支障はない。


「どういうつもりですか?」


桜が掌をジナードに向けて詰問する。


「いえ、どうしようかなって感じなんですが、とりあえず、この光の鞭を防ぐことが、勇者の認定に必要なんですよ。

だから、そんな怖い顔をしないでください。

サマー先生が俺たちに攻撃したことは忘れるので」


ジナードはにこやかに言い放った。

その瞬間、ツタンが殺気を放つ。


「……」


「ああ、そうでした。

ツタンは若干、沸点が低いんですよ。

おーい、やーめーとーけ」


ジナードが、手をメガホンのように使って、適当に言った。


「……」


ツタンがナイフを構えた。


「ああ、すみません。

止めても聞かないので、力技で止めてください。

あっ、間違っても殺さないでくださいね」


ニヤニヤと笑うジナードとツタンを、メロスが抱えあげた。。そして、そのまま10回転ほど回る。

この間、0.01秒にも満たない。

2人の意識は完全に落ちた。


「本当に凄いわね。

どうなってるのかしら?

やっぱり、全く風が起きていない」


「それで、どうするんですか?

2人とも寝ちゃいましたけど」


桜はサマーのつぶやきを無視して聞いた。


「ジナードの持っている道具は見れたし、もう用済みよ。ここに捨てて行きましょう」


メロスは抱えていた2人をポイと投げ捨てた。

サマーはそれを見て、少し頷く。


「それじゃあ帰りましょうか」


「えっ、本当にここに置いていくんですか?」


驚いて声を上げた桜を、サマーはじっと桜を見つめた。


「思ったより優しいのね」


「私、そんなに冷たく見えますか?」


桜は心外だとばかりに、サマーに聞いた。


「いえ、エリザベートの人形に、躊躇なく攻撃していたじゃない?

敵対したら、どんなことでもするタイプかと思っていたわ」


「それは、人形でしたし」


桜が若干目をそらしながら言う。


「深くは追求しないわ」


サマーは含むように笑った。


「そんなことより、なんで、ジナードさんの、あの通路を作った道具を知っていたんですか?」


桜は露骨に話をそらす。


「ストーカーが近くにいたら、それなりに調べるでしょう?」


「普通、警察に届けると思いますけど。……なんか怖いんで、詳しくは聞かないことにします。

そういえばサマーさんには、この通路を作れなかったんですか?

たしか、できないって言い切ってましたけど」


桜が不思議そうに聞いた。


「できなくはないけど、面倒なの。

前に言ったでしょ?

空間が歪んでいる迷宮内で、広範囲に空間魔法を使うのは少し疲れるわ。

それになにより、ジナードの持っているの道具のデータを取りたかったしね」


「そうですか。

……ところで、やっぱりメロスでも、壁を壊すことはできましたよね?」


桜がサマーに聞くと、サマーより先に、メロスが静かに頷いた。


「我が筋肉を前にすれば、壁など紙と変わらん。桜が望むなら、破壊してみせよう」


「そうね。メロスなら破壊できたでしょう。なんで破壊できるのかは、さっぱり分からないけど」


サマーは大きくため息をついた。


「ああ、行けた気がする。

いや、我が筋肉なら余裕だ。

筋肉に不可能はない。

できないのであれば、筋トレが足りていないのだろう」


メロスが軽く拳を握ると、上腕二頭筋が盛り上がる。


「待って。もう壊さなくていいから」


「む。

我が筋肉は見なくて良いのか?」


メロスが少し残念そうな顔をしながら、筋肉をピクピクと動かす。


「メロスの力は、この先いくらでも確かめられそうでしょう?

今はいいわ」


「あのさ、1つ気になったんだけど」


「どうした?」


メロスが尋ねる。


「なんか、ジナードさんたちに対して厳しくない?」


桜が首を傾げた。


「その話は帰りながらしましょう。

ジナードたちが起きても面倒だから」


通路をサマーが歩き出した。

桜やメロスもそれに続く。


「それで?」


「ああ、ジナードたちからは、良からなぬものを感じる」


「良からぬもの、ね」


サマーが呟くように言った。


「どういう意味?」


桜が尋ねた。


「我らに対して、強い憎しみを抱いている」


「えっ、それは、サマーさんが色々やってそうだからね……」


桜が少しジナードを可哀想に思った。


「私、そこまで酷いことはしていないわよ。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって言うでしょ?

詳しいことは話さないけど、そういうことよ」


「心の内まで知ってるんですね……。サマーさんの方がストーカーみたい」


ボソッと呟いた桜を、サマーが凄みを持った笑顔で見つめた。

それを見て、桜は誤魔化すように笑った。

お読みいただきありがとうございます。


次回はもう少し、話が進む予定です。

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