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エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。  作者: 青桐
1章 筋肉エルフと少女勇者、時々、学者

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メロスは動き出した。

「逃げられると思う?

通路はもう塞いじゃったよ」


エリザベートの言葉通り、通路は消えいた。

しかも、光に覆われた元冒険者たちが邪魔で、通路があった場所にすら行けない。


「サマー先生。通路を作ることはできますか?」


「無理ね。

空間を歪める形じゃなく、壁そのものが通路を塞いでいるもの。

空間魔法でどうにかできる距離じゃないわ」


ジナードが一縷の望みをかけて尋ねたが、サマーの答えは芳しくない。

その会話を聞いて笑っていたエリザベートが、片手を上げた。


「1番最初に正体を見せるのは、私って決めてたんだ。

だからもう、隠す必要はないよね。

ふふふ、驚いてくれると嬉しいな。

人形たち、邪魔な光を吹き飛ばして」


エリザベートが命令すると、冒険者たちを覆っていた光が吹き飛んだ。

光の中から現れた人形たちは、原型を留めていなかった。

人形は、光を纏った短く太い、銀色の触手を生やしている。


「気持ち悪っ」


そう呟いて、桜が突風を放った。しかし、人形の触手が細長く伸びて地面に突き刺さり、ほとんどその場から動かない。

そして、人形の触手に、サボテンみたいな針が生えた。その針は、桜たち目掛けて、一斉に発射される。


「ではそろそろ、我が筋肉を見せる時か」


メロスが静かに呟くと、「ハッ」と気合を入れて筋肉をさらに膨らませた。

衝撃波が針と冒険者、エリザベートを吹き飛ばす。

根のように触手を張っている地面も一緒に吹き飛んでいて、爆発が起こったように地面がえぐれている。

砂埃が舞い、エリザベートや人形たちの姿は覆い隠された。


「やっぱりおかしいわね。

筋肉がそんな風に膨張するのもおかしいし、仮に、膨張する速度で衝撃波を起こせるとしても、私たちには影響がなくて、私たちの後ろにあった物は吹き飛ばすって、どういう理屈よ」


サマーが理解できないと、かぶりを振る。


「サマーさん。

学者は認めにくいかもしれませんけど、”メロスだから”で片付けた方が楽になると思いますよ」


桜が達観した目でサマーさんの肩に手を置いた。


「迷宮の壁や地面を傷つけるには、空間系の力か重力系の力が必要なはずなのよ。

それなのに、衝撃波で捲れるって、どういうこと?」


サマーは、未だに理解することを諦めず、桜に尋ねた。


「えっ、でも、人形たちは、触手で地面を貫いているじゃないですか?」


桜が不思議に思って聞く。


「エリザベートが、迷宮の壁を操ったでしょ。地面も同じように操ったとしたら、説明はつくわ。

でも、メロスは意味がわからない……」


「エルフの兄さん……。そんなことができるなら、早めにやってくれると助かったんですが」


ジナードが今までの努力は、なんだったんだと思って呟いた。


「うむ、だが少女にしか見えない奴を、我が殴るのは、良くない噂が立ちそうだろう?

布教活動に悪影響だと思ってな。

手を出すのは控えていたんだ」


メロスの言葉で、4人がイメージした映像は、悲惨だった。

少女にしか見えないエリザベートを、筋肉ダルマがタコ殴りするのは、たしかにヤバい。

かなりの凶悪犯罪のように思える。

そこまで想像して、4人はコメントをしなかった。


「しかし、そうも言ってられない状況のようだからな。

我がやる。

あれが気絶するのか、しないのか。

締め上げるのも、殴りかかるのも、イマイチではあるが」


メロスは、エリザベートの吹き飛んで行った先を見つめている。

いまだ、砂埃は舞い続けていた。


「その口ぶりからすると、エリザベートはまだ動けるんですかい?」


ジナードが尋ねた瞬間、砂埃の中から凄まじいエネルギー波が、メロス目掛けて飛んできた。


「ふんっ」


メロスが気合をいれて拳を突き出し、エネルギー波を迎え撃つ。

繰り出した拳から、衝撃波がエネルギー波を相殺した。

そして、砂埃の中から、エリザベートが現れる。

その両手は、4本の棒と赤い球体へ変形していた。


「うーん、手加減しすぎちゃったかな。

丈夫みたいだし、もう少し強く撃っても、どこかしら残るよね?

できれば、全身を人形にしてあげたいからさ。頑張ってね」


エリザベートがさっきよりもエネルギーを込めて、撃つ。

メロスは放たれたエネルギー波に、自分から突っ込んだ。

メロスは難なくエネルギーを消し飛ばし、そのまま、エリザベートへと肉薄する。

エリザベートは口を大きく開けた。その口の中から銃口が現れる。

メロスは銃口の発射口を、片手で塞ぎながら抑えた。

そして、そのまま上へと持ち上げる。

持ち上げられたエリザベートはびっくりしつつも、銃口から全力のエネルギー波を放った。


「効かんな」


メロスはかすり傷すら付かず、完全に手で防ぎきった。

メロスは掴んだ手を、グルグル回し出す。


「これで気絶してくれればいいのだが」


メロスはこの世を憂いるように、呟く。

腕やエリザベートが、ブンブン音を立て出した。


「あの回されてるの、エリザベートですよね。

俺の目には、ピンクと金色の何かがあることしかわからないんですが。

エルフの兄さんの手も、メチャクチャ太い、白い棒みたいになってますし」


ジナードがボソッと言った。


「そうよね、私にもそう見えるわ」


「私もです」


「……」


「道具って、気絶するんですか?」


桜が疑問を口にする。


「さあ? 意思ある道具そのものが、とてもレアだから。

私でもわからないわ」


「俺もわかりませんね。

なにせ、捕獲、いや、鹵獲したことがないもんで。

お答えしかねます」


「そうなんですか。

じゃあ、メロスはいつあれを止めるんですか?」


「1番付き合いの長い、桜ちゃんでもわからないなら、私にわかるわけないでしょ」


メロスは未だに回し続けていた。


「……そうだ、私の世界に、ブンブン独楽って言う玩具があるんですよ。

こう、グルグル回って、模様が変わるんです。

音がブンブンなって」


「何故か見たことない物なのに、すごく想像できるわ」


「俺もです」


メロスが回す速度はどんどん早くなり、バンっと大きな音を立てると、音が一切ならなくなった。


「死んだかな?」


「死んだ、ってのはおかしいですよ。

あれは道具ですから。そもそも生きてません」


「そうね、私もそう考えた方が幸せだと思うわ」


メロスが怪訝な顔をして、ぶん回す手を止めた。

力なく落ちてきたのは、よく見るとエリザベートではなかった。

エリザベートによく似た人形に入れ替わっていたようだ。

メロスが掴む銃口を噛み砕いて、人形が口を動かした。


「すごいね、エルフさん。

まさか、この体がダメになるとは思わなかったよ。

今回は退いてあげる。

また遊びましょう」


エリザベートの声が大きく響く。


「逃げたってこと?」


桜が驚いたように呟く。

桜の呟きには答えず、声は話し続ける。


「あっ、そうだ。

この層から出られなくても、必ず人形にするから、絶対遊べるよ。安心して。

もしもあなたたちがここから出れたら、もう少し楽しい人形を連れて遊びにいくね。だから、私の知らない所で死ぬのだけはダメだよ。

じゃあね」


不気味な言葉を残して、声は消えた。


お読みいただきありがとうございます。

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