少女が名乗った。
冒険者だった物が、バラバラ散らばって積もっていた。
桜は迷宮結晶って、どうやって手に入れるんだろうな、と考え始めた。
「人形が全部ダメになっちゃったなぁ。
すごいね。お姉さん。
ただの氷くらいなら、ビクともしないはずなんだけど」
桜たちの背後から、少女の声が聞こえた。
桜たちが振り返ると、少女が首を振っている。
桜は背後にも、氷のやいばを放っていた。
しかし少女は、全く変わりはない姿で立っている。
ドレスにすら破れた箇所はなかった。
「うわぁ。なんかメロスと同じ、何をしても無駄そうな気配を感じる……」
桜は呆れたように言った。
諦めるには早いかもしれないけど、この世界には怪物がいる。ダメそうなら、なんとかできそうな、メロスに丸投げするのが正解だろう。
「嬉しい誤算だけど、容赦ないのね。
桜ちゃんが予想以上に戦えてよかったわ。
さて、あれの相手は、ジナードに任せましょう」
そう言いながらも、ちょっとだけ期待を込めて、首を狙って魔法を放った。
「不意打ちはひどいなぁ。
お姉さん、嘘は罰ゲームだよ」
しかし、少女は一歩下がるだけで避ける。そして、手を叩いた。すると、桜にバラされた冒険者たちの体が繋がっていく。復活した冒険者たちが、サマーたちに飛びかかった。
また桜が、氷の刃でバラバラにするが、今度はすぐさま直って、そのまま突っ込んでくる。
それを桜が、突風を吹かせて吹き飛ばした。
「嫌な感じ」
吹き飛ばしされた冒険者たちは、すぐさま立ち上がると、また突っ込もうとしている。
「桜ちゃん。ジナードたちに任せましょう。今度は本当に」
サマーはサマーで、空間魔法の通じない相手と戦うのが嫌だった。
迷宮結晶を取るためにも、大きな魔法で魔力を消費したくない。
あと、できればジナードたちに迷宮結晶を取る場面を見せたくなかった。
出来るだけ、ジナードが疲れることを願って、ジナードたちに押し付けることにする。
「できれば、力を貸して欲しいんですが、これは一応俺たちの仕事ですからね。
ここは俺たちがやりましょう。人形の方は、俺がどうにかする。隙を見つけて、あの親玉をやれ、ツタン」
ジナードが、手振りを交えて指示を出した。
そして、銃を上に向けて撃つ。放たれた光弾が空中で細かく分裂し、冒険者たちへと降り注ぐ。
降り注いだ光弾は、冒険者たちの体に張り付いた。冒険者たちは、張り付いた小さな光弾に動きを阻害され、全く動けない。
少女は、その光弾をどこからか取り出した傘で受け止めていた。
「おじさんすごいね。
人形を全部ダメになっちゃったよ」
ツタンは、光弾に視線が向いている間に、少女の背後を取っていた。
ツタンが少女の後ろから、ナイフを突き出す。
キーンと金属音が響いた。
「そんなオモチャで、私は傷付けられないよ」
笑う少女をジナードが撃つ。
銃口から飛び出た光弾を、少女はさっと避けた。しかし光弾は、少女の側で破裂した。衝撃波が少女を吹き飛ばす。
一瞬で離れていたツタンが、すかさず少女にナイフを投げつけた。
「そんなの、何度投げられても」
今度は当たった瞬間、変形して有刺鉄線のようになり、少女を縛り上げた。
どんどん有刺鉄線は分裂していき、少女を繭のように包み込んだ。
「終わったの?」
桜が尋ねた。
「これで終わってくれれば、楽なんですがね」
ジナードが有刺鉄線の塊から目を離さず言う。
その言葉を言い終わると同時に、有刺鉄線が吹き飛んだ。
姿を見せた少女の腕が、4本の鉄の棒に変わっていた。その棒の中心には、赤い球体がある。
「うーん。あんまり好きな姿じゃないだよね、この姿。可愛くないし」
少女は自分の腕をチラリと見て呟いた。
「ロボット?」
その姿を見た桜が、思わず呟く。
「ガイノイドだよ。
昔は、ただの人形だったんだけどね。
私の所有者が、私をロボットに改造したんだ」
少女は桜に笑いかけた。
「さ、本当の私の正体がバレちゃったところで、自己紹介でもしようかな。
私は、”大罪の魔具”の1つ。
機械人形エリザベート。
よろしくね」
エリザベートの腕が一瞬にして人の手に変わる。
そして、ドレスを軽くつまんだ。そして軽く膝を曲げて、貴族のような礼を見せた。
「大罪の魔具?」
桜が不思議そうに繰り返した。
「最悪ね。
正直、今すぐ帰りたいわ」
サマーが嫌そうな顔をする。
「ええ、俺たちの手にも余りそうですね。
最高任命官の仕事かもしれません」
ジナードも諦めたように呟く。
メロスと桜は、何のことかがわからない。
「大罪の魔具ってなんですか?」
「我も知らん」
「そうよね。
ま、単純に言うと、人間に使われることを拒否した道具の集まりよ。
目的は、人間で支配することらしいわ。
タチの悪い自我と能力を持つ、危険な道具が徒党を組んでいるのよ。
しかも、相互扶助までしているから、関わらない方がいいわ」
サマーが軽く説明をした。
そして、その間、一瞬もエリザベートから目を離さなかった。
「1つあったら、最低でも2つ、3つ現れることを覚悟しないといけません。
しかも、奴らを追い詰めるとワラワラ出てくるんですよ。
最高任命官をもってしても、未だ1つしか壊せていません。
逃げた方がいいと思うんですが、どうですかね?」
ジナードが補足しつつ、逃げることを提案した。
エリザベートは、そんな相談をニコニコと見守っている。
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