桜は大規模殲滅魔法を放った。
坂道の先に待っていたのは、200人くらいの肌の青白い冒険者風の人たち。それと、その人たちに囲われた、10歳くらいの少女だった。
青白い肌をした人たちの中心で、柔らかそうな椅子に座った少女。
彼女だけは、やたらと血色が良かった。
お姫様のように鮮やかなピンクのドレスを着た少女は、人形のように整った顔と相まって、明らかに場違いな異様さを醸し出している。
それに加えて、少女に近い位置にいる6人は、執事服を着ていた。
執事を着た1人は、跪いて、ティーセットを差し出している。
広大な石造りの広場には似つかわしくない、不思議な世界に、桜が少し怯む。そして、メロスの裏に隠れた。
「生き物はいないんじゃなかったの?
あの子、どう見ても生きてるよ」
桜がメロスに、小さな声で尋ねる。
メロスは答えず、ただ少女を見ていた。
少女はサマーだけに微笑みかける。
「こんにちは、お姉さん。
1度招待した時は逃げ帰ったのに、今回は自分から来てくれたんだね。嬉しいよ」
少女が声を発した。とても愛らしい声だ。桜はアニメキャラクターのような声だと思った。
「あなたは何者かしら?
迷子、ではないわよね?」
サマーが少女に話しかける。
「ふふっ、もしかしたら、1番近いのは迷子かもしれないよ」
少女が楽しそうに笑う。
サマーは敵か味方か見極めようと、少女を観察する。
「あの少女。
生きているとは思えんな。
筋肉がない」
メロスが呟いた。
近くにいる桜たちにしか届かないほどの、小さな声で。
しかし少女はそれに返事をした。
「モリモリ筋肉のエルフさん。こんなに可愛い私に、筋肉なんていらないよ。
……ところで、エルフであってるの?
まるで、頭だけ付け替えたみたいに、顔と体が合ってないけど」
不思議そうに、少女が首を傾げた。
その仕草もとても愛らしい。
人口的なものを感じるくらい、様になっていた。
「エルフ以外に見えるか?」
メロスが言い放つ。
「エルフには見えないと思うわ」
「最初は、これがエルフ⁉︎
トー○キン先生に騙されたって思ったよ」
サマーと桜が口々に言った。
「まあ、異世界のエルフは、変わってますよね」
「はい」
ジナードと仮面の男も頷く。
「我はこの世界のエルフだが」
メロスは何を当然のことを、と真顔で言う。
「冗談はよしてくださいよ。
ただの建前でしょ」
「本当らしいわよ」
ジナードはだいぶ驚きながらも、少女から目を離さない。そのあたり、戦闘慣れしていることを示している。
それを聞きながら、少女が笑った。
「ちょっとだけ、シンパシーを感じるなぁ。
首を外せる人形は、そういう風に遊ばれることがあるからね。
大丈夫だよ、私はそういう遊びはしないから。
まあ、取り外せるようにはするけど」
「我を人形にするつもりか?」
「うん、この周りの人形たちが見えるでしょ。
この子たちの仲間にしてあげる」
ふふふ、と笑う少女。
「周りの顔色が悪い奴ら、やっぱり元は人間なんですか?」とジナードが聞いた。
「ここにもあるのは、全部そうだよ?」
その答えを聞いて、サマーが口を開く。
「目的は何かしら?」
「ん? どういう意味?
遊びの幅が広がるからに決まってるでしょ。
せっかく人形を増やせる機会なんだから。
それに、人形の良さも知ってほしいし」
「もしかして、あなたは人形なの?」
桜が、アニメ声から連想して、口に出した。
「ふふっ、どうかな。
元人形が正しい表現かもね。
大丈夫、エルフさんだけじゃなくて、あなた達も、人形にしてあげるよ。
あなたとあなたは綺麗だから、メイドに。
ムキムキのエルフさんは、護衛役ね。
それから、ずっと私を見ている、おじさんと仮面のお兄さんも、護衛にしてあげる」
少女は笑う。
その瞬間、ジナードが引き金を引いた。
光弾が放たれた。光弾は、少女に直撃すると、ネットのように広がり少女を拘束する。
「酷いよ。
いきなりこんなことするなんて」
少女が頬っぺたを膨らませる。
その瞬間、少女と執事服の男が一瞬で入れ替わっていた。
執事服の男が、代わりに縛られている。
メロスですらどうやったのかもわからない、早業だった。
「入れ替わったのか……。
空間魔法ですか?」
ジナードがサマーに尋ねた。
「違うと思うわ。
空間には何も変化がなかったから。
おそらく、特殊能力じゃないかしら」
その言葉を、少女は笑い飛ばした。
「お人形遊びは、気分で何役にするか決めるものでしょ。
遊んでいる人の気分次第で、お姫様にも召使いにでもなる。だから、それやっただけだよ」
そういった瞬間、青白い人たちが、メロスたちを囲んでいた。移動したのではない。一瞬にして現れた。
そして、一斉にナイフ抜いて投げつけてくる。
凄まじい数と速度でナイフが5人に迫った。
それを全てメロスがキャッチして、地面に捨てる。
少女はパチパチと手を叩いて喜んだ。
「すごいね。
まさか受け止められるとは思わなかったよ」
サマーが首を刎ねるつもりで、少女の首の周りの空間を捻った。
しかし、少女ではなく、入れ替わった冒険者の首が折れただけだ。
「うーん。どうしようかな。
あっ、そうだ。
お姉さん2人に朗報だよ。
私の人形になると、もれなく体重が減るんだ。
楽してダイエットできるから、大人しく人形になろうよ」
桜たちの背後から声が聞こえる。
桜たちが振り返ると、少女がいた。
メロスを持っても追えないスピードで、メロスたちの背後の冒険者と入れ替わった。
しかも、人形を追加している。
「なんで体重が減るのかしら?」
サマーが辺りの冒険者をまとめて、空間ごと捻った。
しかし、全員、後ろに逃げることで躱した。
サマーはそれを見て舌打ちする。魔法が読まれているようだ。一度見せた魔法は通じないらしい。
いくらなんでも、この広場全部を捻じ曲げることはできない。
空間魔法以外を使うことも考えながら、意識を逸らさせる意味と、単純な興味で質問をした。
「人間ってね。
血を抜くと結構軽くなるんだよ」
少女は、見たものを震え上がらせる不気味な笑みを浮かべた。
もっとも、この場にはそれで震え上がるような人物はいなかったが。
「無理なダイエットは体に悪いから、遠慮しておくよ。
あなたこそ、大人しく捕まってくれない?
迷子センターに届けてあげるから」
軽口をたたきながら、桜が小さな氷の刃を放った。大量に。
サマーやメロスたちがいる場所以外の空間全てを、氷の刃が襲う。
桜が放った氷の刃は、凄まじい速度で振動しており、表面はとても鋭い。
大概のものを切り裂く、ウォーターを超える強力な魔法は、冒険者風の人形を全てバラバラにした。
「サマーさん。
ちょっと派手に攻撃しちゃったけど、いいんですよね?」
あくまでメロスも桜も、迷宮結晶がどういうものなのかを、把握していないから、大きな攻撃をしなかったのだ。
その気になれば、人形など一蹴できる。
お読みいただきありがとうございます。
……テニスの試合を見ていたら、投稿が遅れました。




