おっさんが現れた。
「すみません、ちょっとお話しを聴かせてもらえませんか?」
メロス達の背後から、男の声が響く。
3人が振り返ると、おっさんがいた。
30代後半くらいの、普通のおっさんだ。
桜は驚いたが、メロスとサマーは平然としている。
サマーはいたずらっぽく、おっさんに笑いかけた。
「あら、覗き見はもうやめたの?」
その言葉で、おっさんは情けないほど困った顔をする。
「そんな意地悪を言わないでくださいよ。
俺だって、したくてしている仕事じゃないんですから」
桜がおっさんを、変質者を見る目で見つめる。そしてメロス後ろに、少し身を隠した。
「ああ、可愛いお嬢さんに誤解されるのは辛いなぁ。
俺は、ジナードって者です。
勇者任命官をやってるんで、失礼ながら、勇者と思しき貴方達をつけさせてもらいました。
よろしければ、お二人の名前を聞かせてくれませんか?」
ジナードは、コメディアンのようにバダバタと動いて取り繕うと、キメ顔を作った。明らかに冴えない三枚目のような雰囲気だ。
桜が呆れ、メロスが警戒したように見つめていると、サマーの冷たい声が響いた。
「茶番はやめてくれる。
2人の名前くらい、もう知っているんでしょう?」
おっさんは頭をガシガシと掻いた。
「いやいや、自己紹介から始まるのが、大人の人間関係ってやつでしょうに。
ええ、ええ。知ってますよ。
調べましたから。
桜さんとメロスさんでしょ。
本当に、サマー先生には敵わないな。
まあ、しょうがないですね。
おい、お前も顔を見せろ」
「はい」
スッと仮面をつけた男が現れた。
「すいませんね。
こいつはシャイな奴で、俺の前でも仮面を取ってくれねぇんですわ。俺も顔を見たことがねぇんです。
あ、こいつの名前は、ツタンっていいます。サマー先生と会うのも初めてでしたよね」
仮面の男が軽く頭を下げる。
おっさんはニコニコと、3人を見ていた。
「それで?」
サマーが、おっさんを鋭く見つめる。
「えっ?」
「そのふざけた擬態をやめなさい。
わざわざ姿を見せた、その理由を聞いているの」
サマーのその言葉に、おっさんは情けない雰囲気を吹き飛ばし、凄みを見せた。
「そいつは、こっちのセリフですよ。
この通路はなんですか?
我々としても、監視だけで終わらせたかったんですよ。だが、エルフの兄さんは勇者としての条件を満たしている。
そのうえ、こんなことをやられると、出て来ざるを得ないでしょう」
ジナードは腰から銃を抜いた。
仮面の男はナイフを抜く。
「あら、新しい通路の発見よ?
貴方達にとっても喜ばしいことでしょ」
サマーがにこやかに笑った。
ジナードは同じくらいにこやかに笑って言葉を返す。
「貴方達がこのまま帰ってくれるなら、なおさら喜ばしいんですがね」
「嫌よ」
「でしょうね。
ならせめて、目的くらい教えてくれませんか?」
ジナードが尋ねる。
「ついてくればわかるわ。
どうせ、そのつもりで姿を見せたんでしょう?」
「やれやれ、つくづく面倒な人だ。
こっちの思惑はお見通しって訳ですか」
桜がサマーの裾を引っ張った。
|(あの、いいんですか? 迷宮)
|(それ以上は言っちゃあダメよ。あのおじさん、すごく耳がいいから。
……心配しなくても大丈夫。
それに、あのおじさんたちでも、弾除けくらいにはなるわ。
未知の場所だし、様子見に使える人材がいるのはいいことよ)
「俺は、貴方よりも若いんですがね。
おじさん呼ばわりは、やめてくれませんか?」
「ね? すごい地獄耳でしょ」
サマーが笑う。
桜はただ驚いている。
「それじゃあ、ジナード、貴方達が先に行ってくれる?」
ジナードはかぶりを振った。
「最初からそのつもりでしたね?」
「なんのことかしら?」
「おい、ツタン。
行くぞ」
「はい」
ジナードとツタンが歩き出した。
それに続いて、3人も歩き出す。
「あっ、言うのを忘れていたけど、この通路、塞がっていないでしょ。
もう私は何もしていないのに。
どう考えても、私たちを歓迎してくれる何かがいるから、気をつけて」
「嬉しくない情報をありがとうございますね。
最初から、何かあるのはわかってますよ。
サマー先生が絡んで起きたことで、いい記憶がないんでね」
ジナードが坂道になっている暗めの通路を、愚痴りながら歩く。
そして、通路を抜けると、だだっ広い広場が現れた。
そしてそこには、迷宮には似つかわしくない光景が広がっている。
ジナードが腰から銃のようなものを抜いて構えた。
仮面の男も、ナイフを抜く。
サマーも桜も身構え、メロスだけは自然体だった。
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