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あめめといろはのおなか大冒険~弟が飲み込んだ魔法のアメ玉を取り戻せ!~  作者: しぐまみゅう
第二章 消化管大冒険

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1. 食道はウォータースライダー

 はるとの口の中で、まず大きな舌に出迎えられた。舌の上にはたくさんのいぼいぼがある。歯につぶされないようにまずは舌に乗った。そして、唾液と舌に勢いよく押し流されて、のどちんこのさらに奥へ押し込まれた。


 ごっくん。


 大きなうねりとともに、目の前の扉が開いて、さっきまで開いていた道とは別の道に流されていく。


 そういえば、空気の通る道と食べ物の通る道が分かれているって、昔ひなた兄ちゃんが言っていたっけ。通された道は、つるつるで、うにょううにょ動く。ウォータースライダーみたいだった。


「うわぁ~! 楽しい!」


 気持ちよく滑っていくと、出口がすぼまっていた。よく見ると肉の色も少し違う。えっと、この先私はどうなっちゃうんだろう?


 ――ポン!


 すぼまったところに差しかかると、勢いよく門を通り抜けた。私はヒダヒダの肉の壁の上に投げ出された。


 目の前にはうす黄色のプールがあった。酸っぱいにおいが部屋の中に充満している。さっき、はるとが食べたお昼ご飯だろうか。ドロドロになった食べ物が、あちこちに山積みになっている。


「うわぁ、ねばねばだ」


 ヒダヒダは、ねっとりしている。体についたねばねばを落としながら、柔らかな肉の壁の上に立った。


「いろはー! 大丈夫か」


 ひなた兄ちゃんとあめめが、近づいてくる。


「なんとか、大丈夫。けがはしてないよ。ひなた兄ちゃんとあめめも無事でよかった」


 みんな生きている。本当によかった。


 私は、ほっと胸をなでおろした。周りを見渡してみると、ここはさっき通ってきた道よりもだいぶ広い。ヒダヒダが、伸びたり縮んだりしている。


「ねえ、ひなた兄ちゃん、ここはどこなの?」


「はるとの『胃』の中だろうな」


「食べ物が入る袋だよね? ママがよくストレスがあると痛くなるって言っている」


「そうそう、食べ物を消化するための臓器。ここで時間をかけて、食べ物をドロドロにして吸収しやすくするんだ。授業だと病気の胃ばかり見るから、はるとの胃の中はピンク色でとても健康そうだ」


 確かに、ヒダはたくさんあるけど、傷とか変なイボは無さそう。


「そういえば、さっき通ってきた道と微妙に色が違うような」


「さっき通ってきた道は『食道』で、『胃』とは別の臓器だからね。あの門のところで、微妙に色が変わっただろう? 『胃』の入り口『噴門』だ。あそこで酸に強い壁に変わったんだ」


 ひなた兄ちゃんが指さしながら、説明してくれた。


「『食道』では消化しないの? 食べ物のただの通り道?」


「そうそう。口から胃までの通り道。さっきの分かれ道があったろう? 上に行く道が『気道』といって、空気が通る道。食べ物が通る道は下」


 さすがひなた兄ちゃん! 医者を志しているだけあって、よく体のことを知っている。


「はるとが『ごっくん』すると、道が変わるんだね」


 あめめも、興味津々といった様子で話に入ってきた。


「よく気づいたね、あめめ。あの『ごっくん』は『嚥下』っていうんだ。ごっくんすると、胃に向かう道が開く」


「へえ、そうなんだ」


「だからきっと、あめめの魔法のアメ玉も、この胃の中にあるはずだよ。見つけたら、あの噴門から帰ろう。小腸や大腸を通って外に出るのは遠いから」


「分かった。もしかして、あの食べ物の山を探すの?」


 あめめが遠い目をして言った。


「アメ玉を丸飲みしたなら、まあまあ大きいはずだし、すぐに見つかるんじゃないかなあ」


 私が食べ物の山に近づこうとすると、ひなた兄ちゃんが止めた。


「気を付けて。あの黄色い液体は『胃液』なんだ」


「いえき?」


 あめめと私は、顔を見合わせた。


「胃液は酸性で、『ペプシン』という酵素を含んでいる。『ペプシン』が食べ物を消化し、吸収しやすい形に小さく分けるんだよ」


「あめめも、あんなふうにドロドロになっちゃう?」


「長時間触れていると危ないね」


「じゃあどうして、胃はドロドロにならないの?」


 あめめが、不思議そうに聞いた。


「胃の表面にはバリアがあるんだ」


「バリア……そっかバリアか! あめめも、みんなにバリアをかけるね」


「あめめ、そんな魔法使えるの?」


 いつも変な魔法ばかり、私たちにかけているのに、そんなこともできるんだ!


「――私たちを守って!」


 あめめが杖を振ると、ピンクの光があふれ出す。あめめの魔法に包まれて、体がほわっと温かくなった。


「これで大丈夫。バリアが、みんなのことを守ってくれるよ」


「あめめ、すごい! ありがとう」


「えっへん!」


 あめめは、ほめられるとすぐに調子に乗る。誇らしげだ。


 それから、ドロドロになった食べ物を、みんなでかき分けて、あめめのアメ玉を探した。


 はるとの胃の中には、白くて大きい謎の縄状のものがたくさんあった。


「今日のお昼は何だったんだろう?」


 私が不思議そうにつぶやくと、ひなた兄ちゃんが言った。


「――うどんだ」


「あー、うどんか!!」


 言われてみれば、確かにうどんだ。1本1本、太くて大きくて、コシがある。どかすのがとっても大変だ。


「こりゃ、きりがないな」


「ねえ、ひなた。もう無理。あの黄色い液でうどんがドロドロになってからやろう」


 あめめは見るからに、バテている。一体誰のせいでこんなことになっていると思っているんだ。


「いや難しい。あの黄色い液は『たんぱく質』、えっと肉とか魚を『消化』する。本当は口の中で、細かく噛み砕かれて、『唾液』と混ざって、うどんはドロドロになるはずなんだけど、はるとが丸飲みしたから、元の形が残っているんだろうね」


「え、まさかあのうどんはずっとこのままなの? はるとのおしりから、うどんがそのまま出てくるの?」


 ひなた兄ちゃんが笑った。


「ははは。うどんは、次の部屋で胃液の『ペプシン』とは別の酵素が消化してくれるから、多分大丈夫だよ。でもよく噛んで食べないと、消化が進みにくいというのは確かだね」


「そっか、知らなかった。これからは私もたくさん噛んで食べる」


「それがいい。じゃあ、いろは、あめめ。こっちのうどんを動かすぞ」


「はーい」


 3人で協力してうどんを運んでいく。途中、野菜やお肉の破片もあった。


「あ!」


 あめめが叫んだ。指さした方向に、うどんに埋もれた虹色の光が見えた。


「もしかして、あれが――」


「うん! 魔法のアメ玉!」

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