3. 食べられちゃった
「うわぁ! 本当に小さくなっちゃった」
あめめが、もう一度杖を振り、自分にも魔法をかけて、私たちと同じくらいのサイズになった。いつもはちっちゃくて上目遣いのあめめと、ちゃんと視線を合わせて会話できるのが新鮮だった。
「テレビも、椅子も、テーブルも、そしてはるとも大きい」
ひなた兄ちゃんが、はるとを見上げて、不思議そうに言った。
確かに、はるとのお気に入りの積み木も、ティッシュを丸めたごみクズも、床に置いたままになっているリモコンも公園の遊具みたいに大きい。いつものリビングも、まるでジャングルみたい。別世界だ。
「きゃっきゃ」
はるとが笑うと、リビングの床が揺れた。普段は絶対に気づかない小さな振動が、今は地響きだ。
「はるとが怪獣みたいだね」
はるとは楽しそうに足をバタバタさせている。
はるとのあの小さい足も、この大きさだととても大きく見える。もし踏まれたら、ひとたまりもないだろう。そういえば、最近テレビで観た特撮ドラマで、怪獣が暴れ回って、市民を踏みつけたり、投げ飛ばしたりするシーンがあったのを思い出した。
「怪獣・はるとだな」
ひなた兄ちゃんがぼそっと言った。はるとは相変わらず、上機嫌だ。
「わーい、わーい」
「あ、危ない!」
さっき『おしろ』と呼んでいた積み木の山を勢いよく片手で崩した。そして――はるとはこちらに気づかず、三角の積み木を投げ飛ばした。
「きゃあああ!」
三角の積み木があめめの頭上をかすめ、窓の方に飛んでいった。その積み木を追って、はるとが突進してくる。今のはるとには積み木しか見えていない。
「あめめ、伏せて!」
私は慌てて、あめめを押し倒して、床に突っ伏した。
「どうしよう、どうしよう」
あめめは腰を抜かして、震えている。これはまずい。
「あめめ、まずは深呼吸」
パニックになったあめめを落ち着かせようと、一緒に大きく息を吸い込んだ。
「ふーはぁ。わあああ! いろは、はるとがまたこっち来た! 大きい! 怖い怖い怖い!」
あめめを野良猫から助けた時のように深呼吸させたが、今日は逆効果だった。
「ぎゃああ!」
私があめめを落ち着かせようと四苦八苦していると、今度はひなた兄ちゃんの叫び声がした。怪獣・はるとが、小さくなったひなた兄ちゃんをつかんで、不思議そうな顔をしている。
「はると、よーく聞くんだ。ゆっくり床におろそう。ゆっくりだぞ」
ひなた兄ちゃんは着ていたパーカーを、はるとにつままれて、青ざめている。
「なぁにこれ?」
このままでは、ひなた兄ちゃんが、さっきの積み木みたいに投げられてしまう。いや、うっかりはるとが手を離して、床に落としただけでも、大けがだ。
「あめめ、早く! 私たちみんなが元の大きさに戻る魔法をかけて」
「元に戻す魔法は……。大きくする魔法は大きくなり過ぎるからダメで。えっと、えっと、えええっと!」
困ったな。魔法はあめめしか使えないのに。そのあめめがパニックになっている。
はるとが思いもよらないことを言った。
「……おいしそう」
「え?」
そのまま、はるとは大きな口を開け、ぱくっとひなた兄ちゃんを口の中に入れた。はるとはよく噛まずに、ごくんとひなた兄ちゃんを飲み込んだ。
「ひなた!!」
「あめめ、ひなた兄ちゃんが、怪獣・はるとに食べられちゃった!」
「どうしよう、どうしよう」
怪獣・はるとの魔の手は、次に私たちにも忍び寄った。
「あめめ!」
「いろは~! 助けて!!」
あめめの羽がはるとにつままれて、そのままあめめもはるとの大きな口の中に投げ込まれた。ごくりと、今度も丸飲みだ。残るは私1人。怪獣・はるとの視線が、私をロックオンする。
――いや、待てよ?
もともと胃の中に入った魔法のアメ玉を回収しようとしていた。であれば、この状況は逆に好都合では? それに気づいた私は、はるとに大きく両手を振った。
「はるとー! こっちよー! 私が一番おいしいわよ。噛んじゃだめよ」
「わーい」
大きな丸っこい指が、うれしそうに私をつかみ上げ、一口で丸飲みにした。




