4. 家族えがお大作戦
その翌日から、あめめの『家族えがお大作戦』は始まった。朝はパパとひなた兄ちゃんのランニングに付き合い、昼間ははるとと遊び、夕飯を食べた後は皿洗いを頑張った。
「パパ、ひなた兄ちゃん、ランニングお疲れ様!」
「あめめが厳しいから、もうへとへとだよ」
ひなた兄ちゃんは見るからにバテている。
「でも、パパたち全然走ってない。ほとんど歩いていたよ」
あめめが腕組みをしながら言った。
「ははは。あめめは元気だね。朝でも暑いから、運動不足の2人がいきなり走ったら倒れちゃうよ」
パパが額の汗をぬぐいながら言った。
「確かにね。ママが朝ご飯を用意してくれているよ。卵焼きと鮭」
「ありがとう。パパはシャワーを浴びてから食べる。いろはたちは先に食べていて」
「はーい」
夏休みが始まると、あめめは私の夏休みの宿題も手伝ってくれた。一緒に図書館に行って、人の体について調べた。
「あめめ、今日はいっぱい本が借りられてよかったね」
リビングでは、はるととマカロが遊んでいた。はるとが積み木を宙に浮かせていたずらするのを、マカロが必死に止めていた。
「はると、マカロ、ただいま!」
「おねえたん。おかえりなさい」
早速リビングで借りてきた本を広げる。人体の絵は、リアルなものから、分かりやすく簡単にしてあるものまで、色々ある。そのうちの一つをあめめが指さした。
「いろは! いろは! この絵、はるとの口の中と一緒だ」
「うわぁ、本当だ。舌のつぶつぶの中には『味蕾』っていう味を感じる器官があるんだって」
本を広げて、2人できゃっきゃしながら、おなか大冒険を振り返った。
「食道と気道を分ける扉は『喉頭蓋』っていうらしいよ。はるとに丸飲みにされて怖かったよね」
「うん。それで、それで食道はまっすぐ」
あめめが楽しそうに次のページを開いた。
「『胃』って外側から見ると本当に袋なんだね」
「本当だ! つるっとしている」
「『肝臓』って胃袋より大きい! ねえねえ、いろは。肝臓はあめめより大きいかな?」
あめめが本の絵を見ながら、自分の大きさと比べっこしている。
「うーんと。大人の肝臓は、あめめより大きいんじゃない? 隣の小さな袋は、消化液を入れる袋かな」
「ひなたが言ってたよね。なんだっけ? 胆のうだっけ?」
「そうそう、正解。あめめ、よく覚えているね」
「えっへん。『小腸』は長くて、食べ物の消化と吸収をしている」
「わぁ! 『大腸』は本当に『コ』の字型だね」
一通り、冒険のおさらいをしたら、大きな紙に、あめめと一緒に絵を描いていく。24色入りの色鉛筆を広げた。まずは体全体を描いて、それから消化管を描く。
「あめめ、吹き出しを描くから、そこに消化管の内側の絵を描いてもらってもいい?」
「おっけー」
ポスターを広げていると、麦茶を取りに来たひなた兄ちゃんがのぞき込んだ。
「お! やっているな。いろは、よく描けているけど、肝臓はもっと赤黒いぞ」
「え、そうなの?」
「俺は解剖学実習で実物を見たからな」
「じゃあ、赤だけじゃなくて黒や紫も使って描いてみる」
私は肝臓の絵に色を足していった。ひなた兄ちゃんは、今度はあめめの絵を見た。
「あめめ、この絵は小腸の中?」
「そうだよ!」
「ピンクの絨毛がよく描けているね」
「そうでしょ! これははるとのうんち」
「まだ消化や吸収の途中だから正確に言うと、うんちではないけど。そうだ、いろは! 小腸の長さを実感してもらうために、ポスターに紐を付けたらどうだ?」
「いい考え!」
ひなた兄ちゃんがビニールの紐を切り取ってくれた。伸ばすとキッチンまで伸びるくらい長い。
「わー、長いね。ひなた兄ちゃん」
「大人だと6メートルあるなんて言われているよ。これがおなかの中に折りたたまれて入っているんだ」
「じゃあ絵でも、折りたたまれたみたいにうねうねに描こうっと」
「そうだね、それがいい」
私たちの様子を見て、マカロとはるとも近づいてきた。
「はるとも、おえかきする!」
「これは宿題だから、はるとはだめ」
あめめが自分で描いた胃の中の絵を指さして、はるとに言った。
「ほら、これはるとの胃の中! うどんがそのまま入っていたよ」
ピンクの胃袋の中に、もじゃもじゃと白い塊がたくさん描かれている。
「うどん?」
はるとが不思議そうに眺める。
「そう! はるとが噛まないから! うどんがそのまま入ってたの! 噛まなきゃだめだよ」
「ふーん」
あめめは怒っているけど、肝心のはるとはよく分かっていなさそう。
「あめめ、胃袋のうどんは描かなくていいよ」
「描いちゃダメなの、いろは?」
「あれは、はるとの胃袋の中だけの話だから」
「いや、そのうどん、よく描けているし、残してもいいんじゃないか。代わりに注意書きを付ければいい。よく噛まずに飲み込むとそのままの形で胃に行っちゃうよって」
確かに、ひなた兄ちゃんの言う通りかも知れない。




