3. その晩食卓で
パパが帰ってくると夕飯だ。今日はママが保護者会や小児科で忙しかったので、夕飯は野菜炒めになった。早速新しい我が家の一員、マカロをパパに紹介した。
「ねえ、パパ。この精霊さんはマカロンの精霊見習いのマカロだよ。精霊試験のために、あめめと一緒にうちに居候することになったんだ」
「わたくし、マカロンの精霊見習いのマカロです」
マカロは、ワンピースの端をちょこんとつまむと、膝を折って優雅な挨拶をした。
「へえ、あめめのお友達?」
「ま、まあ。そんな感じです」
マカロが少し気まずそうに言う。
「あめめのお友達ではない!」
あめめはすぐに否定した。2人は精霊同士でも、あまり気が合わなさそうではある。
「マカロは『パティスリー・サオトメ』の早乙女さんに初心を思い出してもらえるように、頑張るんだよね」
「はい」
私は今日あった色々なことをパパに報告した。
――はるとが飲み込んだアメ玉を追って、おなかの中を大冒険したこと。
――あめめと一緒にお菓子の精霊王に謝るために、お菓子の国に行ったこと。
本当に大変な1日だった。精霊試験のことを話すと、あめめがにこりと笑った。
「ということで、あめめは魔法を使わずにみんなを笑顔にするよ。あめめがお手伝いできることがあったら、何でも言ってよね!」
「あめめのお手伝いね。今のところお願いすることはないけど、考えておくよ」
パパが嫌な予感しかしないという顔で言った。
「え! でもお願いしてもらわないと、あめめ困る! 試験に合格できないから」
「そう言われてもなぁ」
パパは困り顔で、冷蔵庫からビールを取り出した。缶ビールに手をかける。
「ちょっとパパ、今日もビールを飲むの? 肝臓の値が悪いんじゃなかった?」
今日、はるとの体の中で学んだ。『肝臓』は栄養を蓄えたり、消化液を作ったりする大事な臓器だ。お酒の毒も分解してくれる。だけど無理をさせていると、気づいた時にはすごく悪くなっちゃうから、大事にしてあげないといけない。
「おじさん、いろはの言う通りですよ。ここのところ仕事帰りに飲む量が増えていますよね。酒は百薬の長と言いますが、肝臓にも休みが必要だって、大学の授業で勉強しました。『休肝日』っていうらしいですよ」
「そうよ、パパ。この前、健康診断の結果が返ってきたばかりじゃない。体重も増えて、肝機能も悪くなったって。いろはやひなた君の言う通りよ」
「そうだな。病院にも行かないといけないし。今日は休肝日にして、ビールはやめにするよ」
「ふふ、よかったわ。いろはとひなたもありがとう」
ママの野菜炒めは簡単だけど、キャベツがシャキシャキでおいしい。たくさん頬張って、いっぱい噛むとキャベツの甘みがじんわり口の中に広がった。
「よく噛んで食べると、野菜炒めもよりおいしいね」
「あ、そうだ。おばさん、はるとなんだけど、多分、全然噛まないで丸飲みしているよ」
ひなた兄ちゃんが思い出して、はるとの胃の中で見たうどんの塊についてママに報告した。
「そうなの! はるとの胃の中、うどんがそのままの形でたくさん入っていたよ」
言われたそばから、はるとはにんじんを丸飲みにした。
「ほら!」
「本当ね。はると、よく噛んで食べなきゃだめよ」
「にんじんはまずいから、いや」
はるとが口をふくらませて怒った。
「にんじんだってよく噛んでいると甘くなるよ」
「おい、はると。30回噛もう。ほら、いち、に、さん」
ひなた兄ちゃんも一緒に注意してくれたけど、はるとは見ていないとすぐに丸飲みする。これは悪癖を直すのに、なかなか時間がかかりそうだ。
「ねえねえ。それで、みんな! あめめに手伝えることは何かないの?」
あめめが思い出したように叫んだ。
「手伝えることね……。じゃあママは、この夏の間、お皿洗いをお手伝いしてもらおうかしら」
「ママは皿洗いね。分かった! 魔法を使わずに洗う」
「あと、マカロと一緒に、はるとと遊んであげて。きっとはるとも笑顔になるはずだから。ママ、普段は家にいるから、何かあったらすぐに教えてね」
「はーい。ねえねえ、いろはは?」
「じゃあ、あめめ私の夏休みの宿題を手伝って。自由研究!」
「あら、いろは今年は何を調べるの?」
「まだ決めていない」
「せっかくだし、人体の構造とか調べたら面白いんじゃないかしら? 人体マップとか」
「さすが、ママ! いいアイディア。じゃあ、あめめはお絵描きを手伝って。ひなた兄ちゃんは体のことを教えてね」
実はあめめはお絵描きがとっても上手いのだ。
「いろははおっけー。ひなたはどうする?」
あめめが、羽をばたつかせながら、ひなた兄ちゃんの周りを飛び回る。
「俺もレポートを手伝ってもらいたい」
「ひなたのは難しいから無理」
あめめが即答した。
「じゃあ、ひなた兄ちゃんは卓球が上手くなるように、練習に付き合ってもらったら?」
「え!?」
「お医者さんになるには、体力づくりが大事なんでしょ? おじさん言ってたじゃん。だから卓球部に入ったんでしょ?」
私がひなた兄ちゃんを睨むと、ひなた兄ちゃんがすくみ上がった。
「そうね。ちょうどいいから、パパもダイエットに付き合ってもらったら?」
ママもニコニコしながら言った。
「それはそうだけど……」
「分かった! あめめ、パパとひなた兄ちゃんの健康のため、ジョギングに付き合う」
あめめが胸を張った。
「ふふ、決定ね」
「ひっ!」
ママの有無を言わせぬ笑顔に、2人はなにも言えなくなった。
「あしたから毎朝走るよ!」
「そんな~」
こうして、あめめの『家族えがお大作戦』が始まった。




