3. マカロもうちへ!?
「え! そんな馬鹿な」
「二週間前に若い女の子が次々におなかを壊した。何が原因かは、はっきりしない。ただおなかを壊した人たちが『パティスリー・サオトメ』のケーキを食べていた。だから保健所の人たちが調査に来たのだ」
「調査が入ったってだけですよね? 早乙女さんがテレビに出て目立っているから、嫉妬されたんですわ」
マカロが、ふんと鼻息を荒くして言った。
「『パティスリー・サオトメ』は利益を追い求めるがゆえに、残ったケーキを次の日、その次の日も売ることがあった。それに新しく雇った職員の指導が行き届かず、衛生管理が杜撰だった」
「えっ!」
「マカロよ。食中毒の原因があの店のケーキかどうかは分からない。だが、あの店主をよく見ていれば、すぐに何かがおかしいことに気づいたはずじゃ」
「でも、でも! あのパティスリーのお菓子はたくさんの人を笑顔にしたわ! 女の子たちが笑顔の写真をたくさんSNSにのっけていたもの」
「だがその子たちが写真を撮った後、あの店のマカロンをどうしたか知っているか?」
今度は女の子たちの姿がアメ玉に映った。『パティスリー・サオトメ』の色とりどりのかわいいマカロンを中央に置いて、仲良く写真を撮っている。そして写真を撮り終わると、急に真顔に戻った女の子たちはマカロンに口を付けず、そのままごみ箱に捨てた。
「どうして食べないの? 何で捨てちゃうの?」
マカロが泣き出しそうな顔で言った。
「彼女たちは店主の早乙女に頼まれて、写真を撮ってSNSに載せていた。初めからお菓子を食べることが目的ではない」
「そんな……」
「お前が置いてきた魔法のアメ玉は既に回収した。あのパティシエが心を入れ替えない限り、流行の波が去って客もいなくなるだろう」
「では、わたくしの試験は……」
「あめめ、マカロ。本来なら2人とも失格だ!!」
「ひぃ!」
あめめとマカロが息を飲んだ。
「――だが、ワシはお前たちに、そしてあのパティシエの青年に、もう一度チャンスをやりたい」
王は2人に新しいアメ玉を渡した。
「まずは、あめめ。従来の課題に加えて、もう一つ課題を科す。いろはたち家族を助け、全員を笑顔にしなさい」
「はいっ! この度は、申し訳ありませんでした。いろはたち家族のために頑張ります」
あめめが深々と頭を下げた。
「王様、ありがとうございます」
私も一緒にお礼を言った。あめめの魔法は、いつもうちの家族を笑顔にしてくれる。この課題なら楽勝だ。
「ただし、魔法を使わずに家族を笑顔にするのだぞ」
「……はい」
魔法を使わずに――。魔法が得意と豪語していたあめめは少し不安そうな顔をした。
「そして――マカロよ。いくら見てくれがよくても、愛のない菓子は人を笑顔にできない」
「はい」
「だがあのパティシエも、昔は違った。だからもう一度彼が愛情を込めてお菓子を作れるようにお前がサポートしなさい。そして今度こそ、彼にアメ玉を預けてもよいと思ったら、アメ玉を置いて戻ってくるように。何年、何十年かかってもいい」
「分かりました。寛大なご判断をありがとうございます」
マカロも深々と頭を下げた。
「王様! 一つうかがいたいです」
私は勢いよく手を挙げた。静かになった謁見の間に、妙に私の声が響いた。
「いろはと言ったな。申してみよ」
「弟のはるとがアメ玉を飲み込んでから、はるとの体が宙に浮くようになったんです」
ひなた兄ちゃんも、医学生らしく補足してくれた。
「我々はあめめの魔法で小さくなり、はるとの体の中にあるアメ玉が吸収される前に、回収してきました。しかし、小腸の消化液によって、その一部が消化され、吸収されてしまったようです。体に悪い成分などはないでしょうか?」
「あれは砂糖に魔法を染み込ませたもの。体に毒になるものではない。染み出した魔力の一部が体に残ったのだろう。魔力は本来人間にはないものだ。長く体内に留まることはない」
「私たちは人間です。魔法は使えないので、弟に魔法でいたずらされたら困ります」
「あめめ、マカロ」
王様が静かに言った。
「はい。あめめは、はるとの家族です。ですから、はるとのことは、このあめめにお任せください」
あめめは、こちらを振り返って言った。
「はるとが魔法を使っていたずらしないように、あめめがちゃんとめんどうを見るよ」
「確かに、魔法に関しては、あめめの得意分野だもんな」
ひなた兄ちゃんがにこりと笑った。王様が口ひげをさすりながら言った。
「いや、マカロも一緒にいろはたちの家に行きなさい。はるとの面倒を見ながら、いろはたちから、本当の『笑顔』がどういうものか学んできなさい」
「ええっ!」
びっくりして、みんなの声が揃ってしまった。
「ど、どうしてこんな愚図と!」
マカロが思わず叫んだ。
「マカロが分かっていないことを、あめめは知っているし、あめめができないことをマカロはできる。お前たちで助け合えば、ちょうどいい」
「そ、そんな~」
あめめとマカロがへなへなと床に座った。
「精霊試験を失格にしなかったのだから、感謝せい。ではまた、人間界に送るぞ」
「はい」
お菓子の精霊王の魔法で空間にひずみができる。そして私たちはみんなまとめて勢いよく人間界に飛ばされた。




