2. お菓子の精霊王
お菓子のお城は、廊下はクッキー、壁はスポンジでできていた。お花の代わりに、たくさんの砂糖菓子が活けられていて、甘いにおいがいっぱい。つい味見をしたくなってしまう。
「こちらでございます」
チョコレートの衛兵さんは深々と頭を下げて、精霊王に会えるという部屋の扉を開けた。部屋の真ん中には砂糖でできた赤じゅうたんが敷かれ、その先にはクリームの冠をかぶったお菓子の精霊王が、チョコレートの玉座に座っていた。その玉座の隣には大きな大きな虹色のアメ玉が置かれていた。
「あめめ、マカロ、そして客人、よく参った。ちこうよれ」
「はい」
あめめとマカロが前に進み、精霊王の前で跪く。私とひなた兄ちゃんは、その挨拶を真似た。
「今日は、精霊試験についての報告と聞いている。まず、あめめ。何があったのか、説明しなさい」
「はい、王様。あめめは、人間のことを学ぶため、いろはとひなたのお家に居候しています。彼らは心がきれいで、優しいからです。今日、いろはの弟であるはるとと遊んでいたら、はるとが間違って、魔法のアメ玉を飲み込んでしまいました。アメ玉を回収して、はるとの体の外に出しましたが、はるとの体の中でもろくなったアメ玉が壊れてしまいました」
「うむ」
「この試験が、大切な試験であることは分かっています。はるとのことを危険に晒したこと、アメ玉を壊してしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。でもあめめは、いろはも、ひなたも、はるとも、ママも、パパも大好きです。もう一回チャンスをください」
隣で聞いていたマカロが、おなかを抱えて笑い始めた。
「まあ、あめめ! どんくさいと思っていたけど、魔法のアメ玉を壊すなんて前代未聞よ。しかも幼い子を危険に晒して、あなたは精霊失格だわ」
あめめはちゃんと王様に謝った。だから私もあめめを助けたい。
「人間界であめめと一緒にくらしているいろはです。あめめは私たちの大事な大事な家族です。あめめは失敗したことを隠さず、すぐに教えてくれました。だから私たちは、はるとの体から、魔法のアメ玉を取り出すことができました。どうか許してあげてください」
あめめの目に大粒の涙が浮かぶ。ひなた兄ちゃんも口を開いた。
「同じく、あめめと一緒にくらしているひなたです。あめめが1人ではるとの面倒を見ていたのは、俺のせいでもあるんです。おばさんが保護者会で家を留守にしていることを忘れていたんです。だからどうか、寛大な判断を」
「――あめめ、お前の話は分かった。次はマカロだ。お前も報告があってここに参ったのだろう」
「ええ! わたくし、魔法のアメ玉を『パティスリー・サオトメ』に置いてきましたの。SNSをきっかけに人気が爆発して、今都内で最も流行っているお菓子屋さんと言われておりますわ」
「そうか。では、どうしてそなたはその店を選んだのじゃ?」
「それは! お店がかわいくて、店主がイケメンで気さくな方だったからです」
「マカロよ、ワシは『愛情とまごころを込めてお菓子を作るパティシエ』を探すように言ったはずじゃ」
「――それがどうしたのですか? わたくしのアメ玉は多くの人を笑顔にしましたわ」
「そうか。お前はやはり気づいていなかったのだな。今、人間界がどうなっているか、見せてやろう」
玉座の隣に置かれた大きなアメ玉に『パティスリー・サオトメ』が映る。お菓子を買いに来た若い女性に紛れて、スーツのおじさんたちが店主の早乙女さんに話を聞いている。早乙女さんは青ざめている。一体、何があったのだろう?
「マカロ、何が起こったか分かるか?」
「テレビ局のおじさんじゃないかしら? あのお店、よく取材が来るもの」
「違う――保健所に、店で食中毒が起きた疑いをかけられているのだ」




