1. お菓子の国
難しいことは分からないが、あめめ曰く、お菓子の国はこの世界とは別の空間にあるらしい。
「今から空間に穴を開けて、この世界とお菓子の国をつなげるから、落っこちないようにみんな気を付けてね」
「はるとは、ママが抱いているから大丈夫よ」
「ねえ、落っこちるって、お菓子の国のどこにその穴は開くの?」
「大体お城の近くだけど、分からない」
「え!?」
「じゃあ、もし空に開いたらどうするの?」
「綿あめ雲はこの大きさじゃ乗れないぞ」
私とひなた兄ちゃんの指摘に、あめめが首を傾げた。
「うーんと、じゃああんまり使ったことないけど、この魔法! 羽よ! 生えろ」
あめめが魔法を唱えると、私たちの背中にもあめめみたいな羽が生えた。羽を大きく動かすと体が宙に浮いた。ひなた兄ちゃんは、早速バランスを崩して一回転した。
「ひなたは飛行も下手だね」
「うるさいな、あめめ」
「じゃあ行くよ。精霊の門よ。開け!」
あめめが呪文を唱えると、杖の先から金色の光がこぼれ、空間がゆがみ、そのひずみに大穴が開いた。
「うわぁ、すごい」
「ママ行ってきます!」
「3人とも気を付けてね! 行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
はるとも小さな手を振ってくれた。自分で飛ぶのには慣れていないけど、あめめに先導されて、穴の中に飛び込んだ。ひなた兄ちゃんも、くるくる回りながら、なんとか後をついてきている。
「うわ、すごい! 空がピンク色だ」
「精霊の門よ。閉じろ!」
穴が閉じて、リビングのママたちの笑顔が見えなくなった。
「あめめについてきて。このままお菓子の城まで案内するよ」
空の上からお菓子の町を見下ろす。大小さまざまなクッキーのお家に、チョコレートの教会。街並みがミニチュアみたいでかわいい。
公園にはキャンディーのお花がたくさん咲いている。広場の噴水からは、オレンジジュースが噴き出していた。
「ねえねえ、あめめ。あの子たちも、精霊さん?」
広場のベンチで、茶髪の精霊と、緑髪の精霊が楽しそうにおしゃべりしていた。
「うん! そうだよ。チョコレートの精霊・チョココとミントの精霊・ミドリ」
「あめめのお友達?」
「友達! とっても仲良しなんだ」
「――2人合わせて『チョコミント』か」
ひなた兄ちゃんがぼそっと言った。
「この道をまっすぐまっすぐ行くと、王城だよ」
「分かった!」
あめめに導かれ、高度を下げて、どんどん進むと、やがてお城の屋根が見えてきた。お城の形はケーキみたい。クリームの屋根の上に、いちごやさくらんぼがのっている。
お堀はりんごジュース、お城の門はキャンディーでできていた。
門の前に降り立つと、私と同じくらいの背のチョコレートの衛兵さんたちが仁王立ちしていた。あめめが言った。
「精霊試験のことで、お菓子の精霊王に謁見したいのですが」
「はい。かしこまりました。王に確認して参ります」
チョコレートの衛兵さんがいそいそと、中に控えていた別の衛兵さんに伝言する。
私たちが城門の前で待っていると、ベージュの髪をピンクとミントグリーンのマカロンのヘアアクセサリーでツインテールにした、別の精霊が飛んできた。
「――あら、どんくさあめめじゃない?」
「……マカロ」
この子がマカロンの精霊・マカロか。あめめは、顔を合わせるなりちょっと嫌そうだ。
「相変わらず、ダサいわね」
「べぇ! どんくさくないもん。ダサくないもん」
「ふん! 時代遅れのキャンディーのくせに。そういえば、精霊試験、あめめはどこに魔法のアメ玉を置いてきたのかしら? わたくしね、『パティスリー・サオトメ』に置いてきたの! わたくしのおかげで、今都内で一番流行っているお菓子屋さんだって大評判よ。この試験は合格間違いなしだわ」
マカロは自信満々に胸を張った。『パティスリー・サオトメ』か。最近よくテレビで見る。オーナー・パティシエの早乙女さんがイケメンで話も面白いから、連日ワイドショーで引っ張りだこだ。
そういえば、この前お店の特番をやっていた。ショーケースにマカロンやチョコレート、そしてクッキー――カラフルなお菓子が所狭しと並べられ、まるで宝石箱みたいだった。
「……」
「あら、どうしたの? あなたみたいな古いお菓子でも、魔法のアメ玉を置くぐらいできるはずでしょ」
「マカロはうるさい」
あめめが分かりやすくうつむいた。
「精霊王との謁見の準備が整いました。さあ、中へ」
「わたくしもいいかしら? 精霊試験の報告に参りましたわ」
「ええ、もちろん。マカロさまもどうぞ中へ」
私たちは、チョコレートの衛兵たちに案内されて、お菓子の城の中へ入った。




