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ハイローラー  作者: 結城 からく


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第2話

 二回目のじゃんけんは社長がパーで勝った。

 社長は年齢を感じさせない軽快な足取りで階段を下りて夏原と並ぶ。

 三回目も社長が勝利し、夏原を抜かしながら言った。


「すまんな、これも勝負なんだ」


「クソが……」


 夏原は苦い顔で悪態をつく。

 続く四回目、五回目のじゃんけんも社長の勝利だった。

 両者の差は大きく開き、階段の構造的に互いを視認できなくなる。


「姿が見えないから、かけ声でいくぞー! じゃーんけーん……チョキ!」


「パー」


「よしよし! また私の勝ちだな!」


 社長の足音がどんどん離れていく。

 それを聞いていた夏原は焦りを含んだ表情で呻いた。


「ちくしょう……」


「おい。ズルすんじゃねえぞ」


 背後に立つ闇金スタッフが、夏原の背に拳銃を向ける。

 彼らは監視役であった。


「余計な真似をしたら撃つからな」


「……ああ、分かっているさ」


「うちの社長は読心術が使えるそうでな。じゃんけんなんて特に得意ってわけだ。お前に勝ち目はねえよ」


「黙れ! ここから逆転するから見とけよ!」


 夏原が怒鳴るも、スタッフ達はニヤニヤと笑うだけだった。


 その後も夏原の負けは続いた。

 買った場合もグーで三段ずつしか下りられない。


 基本的に連勝の社長は早くも一階に到着し、折り返しに入っていた。

 チョキで勝利した社長は、ゆっくりと階段を上がりながら、密かに失望する。


(夏原……知略と暴力を兼ね備えた強者という噂を聞いていたが、蓋を開ければ凡人だったな。過大評価だったか)


 六段分を上がった社長は、雑居ビルの階段の段数を思い出して計算する。


(事務所まで残り二十三段……チョキかパーで四回勝つだけだ。夏原はまだ何度も勝たねばならん。もはや勝敗は揺るがない……)


 己の勝利を確信した社長は、これまで通りのかけ声を上げる。


「いくぞー! じゃんけん……チョキ!」


「グー!」


「おめでとう! 遠慮なく三段進むといい!」


 社長は余裕の笑みで言った。

 その直後、スタッフ達の慌てる声が聞こえてきた。


「お、おい!? 何してやがる!」


「ふざけんな! 止めろ!」


 只事ではない雰囲気に社長は怪訝な表情になる。


(何の騒ぎだ?)


 しばらくその場で待つも、スタッフ達の怒声が止まることはない。

 そして、夏原が階段を下りてくる音がしなかった。


(奴はどこに行った? 窓から逃げた? いや、高さ的に厳しいと思うが……)


「おーい!」


 階下から夏原の声がした。

 刹那、社長は驚愕した様子で事態を察する。


「まさか……ッ!」


 社長は声のした階下ではなく、三階まで一気に駆け上がった。

 ギャンブル中であることも忘れて事務所に戻ってくる。

 そこには既に夏原がいた。

 ソファに寝転がる夏原は、悠々とした笑みで言う。


「お疲れ様。これは俺の勝ちだな?」

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