第1話
小型ギロチンが作動し、固定された三本の指を切り落とした。
夏原は己の手を押さえて絶叫する。
「アアアアアアアアアアアァァァッ!」
周囲の客席からは喝采が上がる。
人々は夏原の苦しむ姿を心底から楽しんでいた。
対戦相手の男は、汗だくの顔で嘲笑う。
「ざまあみろ! 馬鹿な判断するからだっ! もう無理だろ。さっさと降りやがれ!」
「いや……レイズだ」
夏原は無事な手でチップを鷲掴みにして、それをテーブルに叩き付けた。
対戦相手の男は驚愕し、顔を青ざめさせる。
「何ッ!? 正気か!」
「ほら……お前も乗れよ」
夏原はテーブルに置かれた注射器を己の腕に突き刺し、内部の液体を一気に注入する。
鼻血を垂らす夏原は、狂気に染まった顔で笑って告げる。
「――地獄まで賭け抜こうぜ」
◆
半年前。
都内某所の雑居ビルで、夏原は闇金スタッフに追い詰められていた。
黒スーツの男が夏原の胸倉を掴んで問う。
「なぁ、どうすんだよ。三千万だぜ?」
「でも払えないんだから仕方ないじゃないですかぁ。いくら怒鳴られたって財布は空ですもん、ほら」
夏原は開き直った態度で答える。
その瞬間、スタッフ達は殺気立った。
空気の変化を感じ取った夏原は、大げさにため息を吐く。
「俺のこと殺すんですか。いいですよ別に……ただでは死にませんけど」
次の瞬間、包丁を取り出した夏原は、胸倉を掴む男の腹を刺した。
男は苦痛に顔を歪めて激昂する。
「ぐおっ!? てめぇ!」
男の拳が夏原に炸裂した。
他のスタッフも加勢し、夏原はあっという間に満身創痍となった。
彼らのリンチを止めたのは、黒革の椅子に腰かける闇金の社長だった。
立ち上がった社長はスタッフ達に命じる。
「やめろ。こいつはなかなか根性がある。悪くねえ」
夏原の前に屈んだ社長は、不自然に優しい声音で提案する。
「なあ、夏原君。ギャンブルをしよう」
「ギャン……ブル……?」
「そうそう。お前みたいな借金漬けのクズは大好きだろ」
社長が夏原の頭を乱暴に撫でた後、右手の拳を見せた。
ただし社長の右手は小指が欠損して短い。
「グリコって知ってるか。じゃんけんに勝ったら階段を上がる遊びだよ。それをやる」
「はぁ……」
「この事務所は三階にある。ここから一階まで下りて、また戻ってきてもらう。その往復のレースだ。お前が勝ったら借金はチャラ、負けたら借金十倍。どうだ、やるか?」
「――もちろん、やる」
夏原は口元の血を拭ってから頷いた。
その瞬間、社長がかけ声と共に拳を掲げる。
「じゃーんけーん、ぽん!」
「えっ、えっ!?」
夏原は驚きながらも反射的に手を出す。
社長はグー、夏原はチョキだった。
結果を見た社長は、特に残念がることなく賞賛する。
「ほほう、おめでとう。さあ、チョキは六段だ」
「…………」
夏原は警戒しながら事務所を出て、階段を下りようとする。
刹那、社長が彼を背後から突き飛ばした。
「!?」
夏原はそのまま踊り場まで転落する。
全身を強打した夏原は苦しそうに呻く。
「痛ぇなくそ……」
「おーい、下りすぎだぞ。さっさと戻れ」
社長は事務所の入り口から暢気に命じる。
なんとか起き上がった夏原は社長を睨み上げた。
社長は不敵に笑ってみせる。
「今さら気付いたのか? これはただの遊びじゃねぇよ。分かったら二回目のじゃんけんだ。気合入れろよ?」




