第3話
社長は鬼のような形相で夏原に詰め寄る。
「な、夏原!? お前、エレベーターを使ったな!」
「使用禁止なんてルールはないだろ。何が悪い」
ソファに寝転がる夏原は、開き直った態度で言い返す。
一方、監視役の闇金スタッフ達が事務所に戻ってくると、気まずそうな様子で謝る。
「社長、すみません……」
「止めようとしたんですけど……」
「いや……俺のせいだ。確かに夏原の言う通り、エレベーターの使用は禁じていない。こいつは何の違反も犯していないわけだ」
社長は苦々しい顔で言う。
するとここぞとばかりに夏原が煽った。
「物分かりが良くて助かるぜ、社長」
「……お前、わざとじゃんけんで連敗しただろ。俺にリードさせることで油断を誘いつつ、エレベーターを使うタイミングを見計らっていた……すべて策だったんだな」
「さあ、どうだろう。解釈はご自由に。俺は勝利の特典だけ得られればそれでいい」
夏原は悠々と応じる。
社長は深々と息を吐いた後、夏原の胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせた。
そして不敵な笑みを浮かべて告げる。
「借金チャラだな。忘れてねえよ……ただし、それとは別にこいつの治療費を払ってもらうがな」
社長が指し示したのは、夏原が包丁で刺した男だった。
現在は包帯を巻いて応急処置を済ませている。
社長は夏原から手を離して述べる。
「夏原、お前は確かにグリコで勝った。借金はきれいさっぱり取り消そう。だが、他人様を刺しておいてお咎めなしってのは虫が良すぎるんじゃねえか? そうだな……だいたい一億ってのはどうだ」
「……最初からこれが狙いだった。俺が何をしようと、適当な因縁をつけるつもりだったか」
「解釈はご自由に、だな」
社長は渾身の笑みを湛えてみせた。
舌打ちした夏原は社長に問う。
「俺をどうするつもりだ」
「ちょっと頼みたいことがあってなぁ。受けてくれるなら治療費はタダでいい」
「断れない命令だろ。さっさと用件を言え」
「――ギャンブル島で十億稼いで来い」
社長は愉快そうな声音で命じた。
◆
三日後。
夏原はジャージ姿で小型船舶に乗せられていた。
船酔いに苦しむ夏原は、前方に見える巨大な島を見据える。
(ギャンブル至上主義の島……ガセネタだと思っていたが実在したのか……)
その時、船の係員が夏原にサイコロを差し出した。
「おい、一回振れ」
「え?」
「さっさとしやがれ!」
怒鳴られた夏原は仕方なくサイコロを受け取って投げる。
船内を転がったサイコロの出目は1だった。
結果を確認した係員は事務的な口ぶりで応じる。
「1だな。じゃあこれだ」
係員が取り出したのは子供用の浮き輪だった。
それを見た夏原は渋い顔になる。
「お、おい。まさか……」
「そのまさかだ。既にギャンブルは始まっている」
係員は夏原に浮き輪を押し付けると、そこから海へ蹴り落とした。




