煤煙に消える呼吸
あの約束を交わした夜から、三ヶ月が過ぎた。
季節の移り変わりを告げるのは、壁の隙間から吹き込む風の温度だけだった。冷たい冬の風が終わり、湿った生温かい空気が『灰の揺り籠』を包み込み始める頃、ミオの異変は誰の目にも明らかになっていた。
「ゲホッ、ごほっ……! げほっ、う、く……」
採掘場の隅で、ミオが激しく胸を掻きむしりながら崩れ落ちた。
彼女が口元を押さえたボロ切れは、石炭の黒とは違う、どす黒い赤色に染まっている。
「ミオ!」
レンは鉄鍬を放り出し、彼女の元へ駆け寄った。抱き起こした彼女の体は、三ヶ月前よりも明らかに軽くなっており、まるで中身のない枯れ木のようだった。
肌は血の気を失って青白く、額にはべっとりと冷や汗がにじんでいる。
「大丈夫……大丈夫だから、レン。ちょっと、煙を吸いすぎちゃっただけ……」
ミオは弱々しく微笑もうとしたが、その瞳からは涙がこぼれていた。
この街で働く奴隷たちにとって、肺を患うことは「死」を意味していた。工場の煤煙と採掘場の粉塵は、長年かけて人間の肺を確実に破壊していく。通常なら数年から十数年かけて進行する病だが、まだ成長期にあるミオの小さな身体は、その毒素に耐えきれなかったのだ。
「おい! 何をサボっている!」
鋭い怒鳴り声とともに、革鞭を持った監督官が歩み寄ってきた。彼の顔は、奴隷を人間とも思っていない冷酷な色に染まっている。
「申し訳ありません! ミオは少し眩暈がしただけです。すぐに戻ります、俺が彼女の分の石炭も運びますから!」
レンはミオを背中に隠すようにして、必死に頭を下げた。
しかし、監督官は冷鼻を鳴らし、容赦なく鞭を振り下ろした。ピシャリ、と乾いた音が響き、レンの背中に激痛が走る。
「動けない家畜など、ここに置いておく価値はない。今日中にノルマが達成できなければ、二人とも明日の配給はなしだ。分かったか!」
監督官はそれだけ言い残すと、忌々しげに唾を吐いて去っていった。
背中の痛みに耐えながら、レンは歯を食いしばった。悔しさと無力感で視界がにじむ。この街において、自分たちはただの「代替可能な歯車」に過ぎないのだ。壊れれば捨てられ、新しい奴隷が補充される。それだけのことだった。
「ごめんね、レン……私のせいで……」
「謝るな、ミオ。お前は悪くない。……行こう、俺が全部やるから」
レンはミオを道具箱の影に座らせると、狂ったように鉄鍬を振るった。自分の背中の痛みなど、ミオの苦しみに比べれば何でもなかった。ただ、心の中を支配する底なしの不安だけが、どうしても拭えなかった。




