第8話 『魔物食材』
「森の香り薫るワイルドボアのステーキとキャンプ飯チーズリゾットの完成ね!」
「待ってたぜ!」
リアムが勢いよくワイルドボアのステーキに食らいつく。
「うんめぇええええ!」
肉の外側はカリっとして噛み応えがあるのに、噛むと肉汁が出る。その肉汁がまた甘くて美味い。
「やっぱ5年ぶりの重みは違うぜ」
肉を食べて、次にリゾットに手を出して口に放り込むリアム。
「くぅううう!濃厚すぐる!」
チーズの濃厚さと玉ねぎの炒められた甘みがいい。そこにくる黒胡椒のピリッとしたアクセントが堪らない。
「お、落ち着きなよ。5年ぶりってご飯は毎日、食べてるでしょ」
「ルイズの飯は5年ぶり。いや、もっとか」
「喋るか、食べるかどっちかにしなよ」
「………………」
「食べるのを選ぶのね……」
(そこまで喜んでもらえるのは作った甲斐があったけど。少し大袈裟じゃない?)
「いやーうめえ!」
リアムが食べ終わってこそいないものの、一息ついたのか。閉じていた口を開いた。
「それはよかったわ」
「いやーこのまえまでさ、ロートサウス王国のフェルム平原で大規模編成の魔物討伐遠征に参加してたんだけどさ」
リアムは思い出すように少し遠くを見つめる。
「マジでなかなか、討伐できずに5日の計画が倍の10日もかかったから7日目あたりからは、ちょっとした干し肉とスープが出るくらいで、魔物よりも、その環境下に殺されそうになったんだよな。精神的に。」
「そうだったのね。規模がデカいと食糧の消化もすごいからね」
うんうんと頷くリアム。
「そういう思いをした直後だったから、余計にありがたみが染みるってもんさ」
「確かに、そういう部分はあるよね。私も冒険者だったからさ。そういうのもあって、ちょっと考えてることがあるのよ」
「ん?なんだ、どんなことだ?」
私が少し真面目なトーンで話すとリアムの表情も切り替わった。それを確認して私は話し始める。
「師匠と一緒に旅をしてた時に、師匠は魔物を食材として使ってたのね」
「魔物を?今日みたいなワイルドボアみたいな動物でなくて?」
私はそうと短く答えて、話を続ける。
「魔物の魔素袋をうまく処理して、肉自体も普通の家畜とかに比べれば下処理に手間がかかりはするんだけど。魔物はきちんと食材として活用できるのよ」
「フェルム平原だと、アックスビークやブラックドックとかが、頻繁に出てくるんだけど。それも食えるのか?」
アックスビークは大型の二足歩行種で、いわゆる飛ばない鳥型の魔物。ブラックドックは、名前の通りの犬型の魔物。どちらも師匠と一緒に料理した経験がある。
「ええ、食べれるわよ。実際、私は食べたことがあるし」
「マジかよ!だったら、この前の遠征もルイズがいれば、ひもじい思いをせずに済んだのか」
「どこまで、できるかは分からないけど、少しは状況は違っていたかもしれないわね」
私は少しホッとしていた。もっと茶化されたりするかと思ったけど、リアムは素直に話を聞いてくれている。
天然なんだろうけど。こういう所はリアムの良い所ね。
「魔物を食材として……か、それでルイズはどうやってそれを広めるつもりなんだ?」
素朴な疑問としてリアムが投げかけてくる。
「現状は、世界を変えると言うほどのことは考えていないけど、このアンファングに店を構えようと思ってるの」
「店?店っていうのは飲食店ってことか?」
「そうね。アンファングは大きな街だし。色々な職種、人種がいるからこそ、あまり偏見なく魔物料理を受け入れてくれるんじゃないかなと思っているんだけれど……」
リアムは、なるほどねと相槌を打つ。
「確かに王都とかであれば、貴族だったりがいるし。そういう貴族連中は、柔軟じゃないしな。そもそも『魔物暴食』って呼ばれて悪趣味扱いにされてるしな」
今度は私が、そうそうと相槌を打つ。
「それに対してアンファングは、そういう意味では、いい意味で緩いからな。やるとしたらアンファングだろうな」
「そうなのよ。食材の仕入れも、ここで獲ればいいし」
私は両手を広げて野生の大森林を指し示す。
それを見たリアムは爆笑する。
「アハハ!お前くらいだぜ、野生の大森林を仕入れ市場として見てるの」
「でしょうね」
そう答えて、私も笑う。
「そうか、でもそれならお前の店にいけばお前の飯がいつでも食べられるなら、それは個人的には助かることだけどな」
リアムも、そう言うと少し溜めて――
「最前線で死線をくぐるのもいいが、ルイズが、また料理人に戻るっていうことなら、お前とこうして冒険者として一緒に世界を回ったりするのができないのも、同じくらい残念だっていうのが本音だな」
「え?なんか、それって――」
そう言いかけると、リアムも気づいたようで2人で急に気恥ずかしくなってしまって顔を赤らめてしまった。
「ああ、そうだ。食後のコーヒーを飲もうぜ。俺、ちょ……ちょっと沢で水を汲んでくるわ」
そう言いながら、リアムは桶を持って沢へと駆け出して行ってしまった。その後ろ姿を見送りながら、私も冷静になろうと両手で赤くなっているだろう顔を自ら煽いだ。
(うぅー!リアムにドキドキするなんて。自分では気づかなかったけど宮廷料理人をクビになって、心が弱っていたのかな)
しばらくすると、遠くから駆けてくる音が聞こえてきた。恐らくリアムが戻ってきたのだろう。
けど、それにしても何をそんなに急いでいるんだろうと思っていると、視界にリアムが入ってくる。
その手には幼い子供が抱えられていた。
「お、おい大変だ。この子が沢で倒れてたんだ。死んではいないけど衰弱しているみたいでさ」
そう言いながら、リアムは拾ってきた子を静かに地面に降ろした。確かに、身体が細すぎるし。顔色も悪い。
焚火に照らされて、顔がはっきりと見えてくる。その子の顔を覗き込む。そして、頭に2本の角が生えているのに私は気づいた。
(この子、亜人だ。しかも、世にも珍しい竜人だわ。この子は一体、何者かしら)
男の子か女の子なのか分からないけど、今は顔色は悪いが本来は綺麗な顔をしているだろう。それが窺える美しい顔をしていた――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
夜に投稿予定のエピソードでは、ワイルドボアの肉とは違った魔物料理が登場します。
そちらもお楽しみに。
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