第9話 『魔物料理』
リアムが連れてきた亜人の子は未だに気を失ったままだった。
「この子が目が覚めたときに、この子が食べられるのを作るから。この子を見ててくれる?」
「ああ、任せてくれ。さっきのステーキか、リゾットをどっちか少しでも残してあげてればよかったな」
リアムは、亜人の子の顔をみながら、そう呟いた。
「そうね。でも、衰弱している時に味の濃いものを食べてしまうと胃がびっくりしちゃって吐いてしまうこともあるわ」
「そうなのか。じゃあ、ステーキやリゾットは逆効果なのか……」
ニンニク、玉ねぎ、人参、じゃがいも、トマトを通常よりも小さく、さいの目にカットする。出汁になるようなものがないので、さっきマジッククロスに包んでおいたワイルドボアのローストを少し使う。肉を切り出して野菜と、同じさいの目にカットしておく。
鍋に油を敷いて、そこにニンニクを入れ、油に香りを移していく。
シュワシュワシュワ!
ニンニクの香りが油に香りが移ると、さいの目にした肉と野菜を一緒に入れる。
ザァアアアア!
鍋に材料が触れると野菜が跳ねる音が聞こえてくる。そこに塩を、ひとつまみ入れる。こうすると、肉と野菜から水分が出て、それぞれのエキスが出やすくなる。これを出汁として活用しよう。
ジャッジャッ!
野菜を炒めて混ぜていると次第に野菜がしんなりしてきた。そこにリアムがコーヒー用として汲んできてくれた水を入れる。
しばらくすると入れた水が沸騰してくる。と、同時に肉や野菜から出てきた灰汁が浮かんでくる。これを丁寧に取り除く。
そこに荷物からファッロが入った袋を取り出す。見たことのない袋に興味を持ったリアムが、たまらず声をかけてくる。
「それはなんだ?」
「ああ、これはファッロっていうパンとかに使われている殻付きの小麦よ」
不思議そうにしているリアムに手に出してみせてあげる。見た目はファッロは、茶色の種のような形をしている古代からある小麦の一種だ。
「へぇー、そうなのか。でも、なんで今回入れるんだ?さっきのリゾットで米がなくなったのか?」
「まだお米はあるわ。でも、炊いてる時間もないし。このファッロはさっき言ったみたいにお米みたいに重たくないの」
「胃がびっくりしちゃうってやつか」
「そうそう、食感もお米みたいにモチモチしていないから、スープとかに入れると他の野菜と同じように食べやすさもあるの」
私はリアムに説明をしながら、鍋にファッロを入れる。そして、オレガノをひとつまみ加える。
「これでいいわ」
「完成か?」
「一先ずわね」
「どういうことだ?」
「一つだけ足りないの。それを、ちょっと取ってくるから、少しお願いね」
「お、おう」
何を取りに行くのかリアムは分からずに、生返事で返した。私は暗くなっている森の中へと歩き出す。
しばらくして私が戻ってきたのをリアムが気づいて声をかけてくる。
「お、戻ってきたな。それで何を取ってきたんだ?」
「これよ」
そういって、私は手に持っているブルースライムを掲げる。しかも、このブルースライム、まだ生きている。
「いや、スライムじゃないか。お前まさか――」
怪訝そうな顔をしているリアムをみて、私は少し得意げに話し始める。
「そうよ。このブルースライムを使って、魔物食材を使った料理をみせてあげるわ」
ブルースライム――この魔物はゼリー状の姿をした粘性生物で、ゼリー状の中心に核があり、それを剣などで割ることで倒すことができる。倒してしまうとスライムはゼリー状から液体となってしまうのが特徴だ。
「まず、このスライムを食材とするために、息の根を止めるわね」
「いや、何を楽しそうに、ヤバ目な台詞を吐いてるんだよ」
私は笑顔で、リアムは苦笑いしながら私をみていた。
「でも、普通に核を破壊するんじゃないの」
そういうと、先ほどワイルドボアのステーキの時に使った金串を手にする。
「この金串で、こうするの」
私はブルースライムの核をめがけて、金串を刺す。すると核じゃない部分、ゼリー状の部分が伸びたり縮んだりする。その様は、まるで苦しんで暴れているかのようだった。しばらく、それが続いたが、ブルースライムは弱っていき、ついには動かなくなる。
そして、完全に動かなくなると――
「な、なんだ!」
リアムがブルースライムを見つめたまま、驚きの声を上げる。ゼリー状の部分が名を冠する通り、青い色だったのが一気に半透明になっていく。
「これで、ブルースライムは死んだわ。死んだと言っても核だけね」
「どういう仕組みなんだ?普通なら核が死んでしまえば、スライムはゼリー状の部分が液体になってしまうんじゃないのか?」
この現象は、ブルースライムが死後硬直で留まっている状態で、核を切ってしまうと、ゼリー状の部分を維持できなくて液体化する。でも、今回は金串で一突きしただけなので、核が割れずに絶命したことで形を保っているという状態なのだ。普通の生物で説明すると核の部分が脳死状態、ゼリー状が身体の部分と考えてもらえば、なんとなく分かるかと思う。なので改めて、この核を真っ二つにすれば、ゼリー状から液体化するというのをリアムに説明した。
「なるほどな。面白いな」
最初は怪訝そうだったリアムだったが私の説明を聞くと、なんとなく理解できているようだ。
「これで、このブルースライムは魔物から食材へと変わったわ」
さあ、あなたに再び、命を吹き込んであげる。
このスライムのゼリー状の外側の部分は、実は少し濁った色をしている。スライムにとっての足みたいな感じで地面などによく接している部分が、こうして濁るらしい。ここは食べれないので、ここを切り取っていく。その外側を取り除いた後は、表面に切れ目を入れて、魚の皮を引いていくように、薄皮を剥がしていく。剥がした後は核を掴んで、ゼリー状の外に出して、捨ててしまう。
核を失ったスライムの身体は少しずつ液体へと変化していく。核を真っ二つにした時は即座に液体化するのだが、この下処理をすると徐々になっていくという風になる。これで下処理は終了となる。
「いや、淀みなく処理をするのが、素晴らしいな」
「ありがと。それで、ちょっと味見をして欲しいんだけど」
流石にスライムを食えと言われたと思って、リアムは驚きの声を漏らす。
「え?スライムをか?」
「違うわよ。いきなりすぎて、流石にそれはハードルが高いでしょ。スープを味見して欲しいの」
それを聞いたリアムは少し胸をなで下ろした。
「いいぜ。いただこう」
リアムはスープをスプーンで、すくって口にする。
「美味い。美味いけど何か物足りないな。優しい味と言えなくもない」
「そうね。出汁になるのが肉と野菜のエキスだから少し物足りないのよ。だから、このスープにスライムを入れる」
それはリアムも流石に予想していたようで、さほど驚いていない。さっそく鍋に入れる。それを混ぜていくとスープと馴染んでいき、次第にサラサラしていたスープに粘りが少しずつ出てきた。まるで水溶き片栗粉を入れたようになった。それを私は味見をしてみる。
「うん。美味しい」
私は美味しさに顔が緩んだ。それを見たリアムも味見しようと恐る恐るスープをすくって口に運んだ。
「んんっ!んんんっ!?」
リアムは驚きの声を上げる。
「これは、同じスープなのか。さっきのと比べるとコクと深みが出た。でも、しつこさはなく味自体は、あっさりとしてる」
「どう?これが悪趣味と揶揄される魔物食材を使った料理よ」
「うん。これは美味いぞ」
「でしょ?これで、ファッロ入りミネストローネのスライム風味の完成よ」
これを、この子が気に入ってくれるといいけど。横目で亜人の子を見ていると――
「んんっ」
寝ていた亜人の竜人の子が声を少し上げて目を覚まそうとしていた――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日も2話投稿の予定です。
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