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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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到着! 南の大陸



 メソン島を中心とするならば、ノトス大陸は世界の南側に広がる大陸である。

 南の大陸という言葉から何となく砂漠が広がる南国をイメージしがちだが、実際の所砂漠ばかりというわけではない。ジャングルのような場所もあるし、普通に草原地帯も存在している。


 そのノトス大陸へとユーリたちはやって来ていた。


 テロスに担ぎ出されて実に五日後の事である。


 本来ならばメソン島から船に乗ってくるのが一番早いと思われていたのだが、現在ラルカと手を組んだ政府の人間のせいで密かに出航回数が抑えられているらしく、足を運んだその日は船がもう出ないとの事だった。

 次に出るのは二日後、の言葉にテロスは早々に館へ戻り、アナトレー大陸の港町へ行きそこから即座にノトス大陸行きの船へ乗船した。

 ちなみにその間ほぼユーリは荷物のように運ばれていた。おかげで道行く人の視線が容赦なく突き刺さった。

 それを追いかけるメル。

 傍から見ればどういう状態なのか全くわけがわからない。


 連れ去られる姉を追いかける妹、にしては連れ去ろうとしている相手があまり悪党にも見えないので目撃者の困惑は留まる事を知らないばかりだ。

 テロスとしてもメルを置き去りにしようという意図はないらしく、船に乗る前に三人分の乗船料を支払っている。


 本来ならば高速船に乗りたかったようだが運悪く出航した直後だったため、普通の船に乗る事になった。結果として数日間は悠々とした船旅をする事になるわけだが。


 同じく乗り合わせていた冒険者やらの視線がそれはもう好奇心で一杯ですとばかりに向けられていたものの、船を襲いにやってきた魔物をテロスが瞬殺した事で気安く声をかけようと思った相手はいないようだ。

 やぁ少年、君強いねぇ! なんて声をかけられる雰囲気ではなかった。むしろ目を合わせたらこっちが殺されるのではないかと思われる程剣呑な雰囲気を漂わせているテロスとは、誰も目を合わせようとしない。

 触らぬ神に祟りなしとはこういう事か、とユーリもメルも遠い目をして空を眺めるのが精一杯だ。


「空が青いね」

「そうじゃのう。この分だと明日もきっと晴れるのぅ……」


 船に乗っている間は悠々とした船旅、と自分たちに言い聞かせてきたが実際の所そんな優雅なものは一切なかった。ただただ機嫌の悪化しているテロスとロクに言葉も交わさない船旅耐久レースである。

 正直ちょっと他の冒険者とかいたならそっちと会話して情報集めたかったけれど、テロスから一定の距離を離れると途端にテロスのご機嫌が斜めどころか急降下するため下手に身動きがとれない、ひたすらに重々しい空気に耐えるだけの船旅であった。


 テロス自身も自分の機嫌が悪いという自覚はあるらしく、声をかけると、

「ごめん、後にして。正直今マトモに話せる気がしない」

 そう言ったきりひたすら無言である。会話は一切なかったが、魔物が来た時だけ魔術を発動させるので声を聞かないという事はなかった。むしろもっとじゃんじゃん襲い掛かってきていれば少しはストレス解消になるのでは? と内心で魔物にエールを送っていたくらいだがあまり効果はなかったようだ。


 そして、ようやく揺れる船の上ではなく揺れない地面に降り立ったわけだが。


 何で私たちはノトス大陸へとやって来たのだろう……?

 今更過ぎる疑問がユーリの脳裏をよぎっていく。その理由も聞きたかったがテロスがピリピリしていたので聞けなかったというべきか。

 多分普通に会話していても問題はなかったと思うのだが、いかんせんギスギスした空気に触発されてメルと会話する時もひたすら小声でひそひそしていたくらいである。


 ついでに他の乗船客もテロスがいる場所では息を潜めていた。ある意味で大変迷惑な客だと思う。襲い掛かって来る魔物を容赦なく瞬殺していたから怪我人などは出なかったけれど、同時に物騒な人物というイメージもしっかりと植え付けられたに違いない。感謝と恐怖が確実に混在していた。



 ノトス大陸の港町へ到着し、テロスはギルドへと足を運ぶ。

 既に担ぎ上げられてはいないので、ユーリとメルは少し距離をとってついていった。


「こっちはボクだけで大丈夫だから、そっちは先に館繋いできてよ。終わったらギルド集合ね」

「了解、つまり終わったら迎えにいけばいいのね?」

「他の場所を選択してもいいけど、そしたら余計わかりにくい場所指定するよ」

「ちなみにその場合はどこを指定するつもりで?」

「ブラックマーケット」

「……終わったらギルド集合ね、わかった」


 もう少しで悟りでも啓けるのでは? というような笑みを浮かべてユーリはギルド集合の部分を強調した。ブラックマーケットとか指定されたら確実に到着できない自信しかない。ゲームでだって単語は出てきたけど実際足を運んだりはしなかった、というか運ぶイベントはなかったはずだ。

 そして行ったら行ったで絶対穏便に済みそうにない予感がぷんぷんする。それなら普通にギルドへ行く方がマシというものだ。


「そのうち行かなきゃ、とは思ってたから丁度いいのかもしれないけど、ホント何で私たちはノトス大陸へ……?」

「戻ったらとりあえずユーリの部屋に置いたままのカップを片付けねばならぬの……」


 アナトレー大陸と比べるとやや乾いた空気ではあるが、まだ夏になっていないのでそこまで暑くはない。おかげで外を歩く分には体力が削られる事もないが現在はテロスの機嫌が悪いという点で精神がごりごり削られている。体力まで削られるような事がないのは救いと言えるだろうか。


 メルの案内のもとこの港町にある星見の館へと足を運ぶと、一度王都側の館へと向かう。


「あぁ、戻ってきたか。おかえり」

 出迎えてくれたのはネフリティスだった。何だか久々に顔を見た気がする。実際彼女もここ最近部屋にこもりがちだったので、気のせいではなく見ていなかったのは確かだ。


「それで? どこまで行ってきたんだ? 一応部屋のドアは閉めておいたし放置しておいたカップは洗って片付けておいたぞ」

「わー、ありがとう。どこまでっていうか、ノトス大陸。これからそっちのギルドでテロスと待ち合わせ。何故か機嫌が悪いテロスと一緒という状況に、生命の危機的な意味でドキドキするわ」


 何だかんだ機嫌が悪い事を自覚しているのでこちらに八つ当たりはしないようにしてくれているものの、不機嫌を隠しきるまではいっていないので野生の動物と相対している時のような緊張感がある。


「そうだな、彼は確かに周囲に当たり散らしたりはしないだろうけど、港町だろう? ガラの悪いのに絡まれていなければいいが……そこはちょっと心配ね。見た目からして非力な少年魔術士にしか見えないわけだし」

「……そうだね、港町が壊滅するまではしないと思うけど何か不安になってきたから急いで戻るわ」


 かつてゴードンと共に各地を巡っていた時の事を思い出す。こちらは幼いユーリに年老いたゴードン、というある意味そこらで暴れまわっている盗賊の類からすれば見るからにいいカモ、という組み合わせだったし、そこに更にテロスが加わったとしても到底強そうな一団には見えない。テロスがいかにも魔術士らしい服装であっても、魔術が発動するまでに力でねじ伏せてしまえばいいと当時襲ってきた脳筋の方々は思ってしまったのだろう。

 結果として血の雨が文字通り降ったわけだが。

 一応まだこどもだと言えるユーリの目の前でとんだスプラッタである。殺戮の惨劇とかそういうアレであった。ユーリが転生者という点で中身がそこそこ落ち着いていたとはいえ、それでも数日は肉が食べられなくなったほどだ。中身がただのロリであったならトラウマ待ったなしだっただろう。


 ちなみにその賊の死体は魔物をおびき寄せる撒き餌になりました。トラウマ待ったなし!

 今思い出してもあれは酷いとしか言いようがない。嫌な、事件だったね……で済ませられるユーリも精神的に大概ではあるが。


 流石にあの時のような事は早々やらかさないと思うけれど、今のテロスはとにかく機嫌が悪い。そして港町には大概気の荒い連中がいる。この時点で既に嫌な予感しかしない。


「あぁ、気を付けて。それとも御武運を、の方がいいかしら?」

「普通に見送って。頼むから」


 ネフリティスの言い方だとまるでこれから死地に向かうようではないか。縁起でもない。




 そういうわけで急いで戻ってきたのだ。ギルドの場所がわからなかったので、とりあえず手近な人に場所を聞いてそれこそ全力疾走で。


「――あぁ、遅かったね」


 テロスはそこにいた。ユーリが想像していたような惨劇は起きていない。少々古びたテーブルとイスを占領してはいるが、大人しく人を待っていましたとばかりに座っているテロスに、ユーリは安堵の息を吐いた。

 恐らく彼に絡んだ挙句返り討ちにあって倒れている数名の冒険者たちは見なかった事にした。

 いやだって、生きてるし……じゃあ別に良くない?

 誰かに聞かれていれば間違いなくユーリはそうこたえていた。

 別に身体がバラバラになってるわけでもなければちゃんと五体満足なのだから、何も問題はないと思う。

 むしろ肉体言語でお話して倒されたのであれば、治癒魔術とかポーションでどうにでもなるのだから、テロスからすればとても優しい対応であるとも言える。

 言葉でボッコボコに精神潰されるのと、果たしてどちらがマシだろうか。


 正直転生してからのユーリも色々と毒されている気はするが、そこはそっと見ない振りをする事にした。

 ちなみに隣にいるメルもそっと目を伏せていたので、この件に関してはメルも見ない振りを決め込んだようだ。


 人間であれ女神であれ、所詮は我が身が一番可愛い。

 ただ、それだけの話である。

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