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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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少年魔術士の機嫌は大層悪い



 女神でもあるリュミエールは、この世界を創ったからといって世界の全てが理解できているというわけではない。世界の存続が危ぶまれているとかいうような大きな事件があれば流石にそれは把握するが、そうでもない小さな出来事を全て把握するとなるととてもじゃないが無理がある。

 もっといえば世界にいる生命体全てを個体識別できているかとなると、即答で無理だと答える。


 歴史に名を遺すような者であっても場合によっては把握していない。

 それというのも自分のキャパを超えて広大な世界を創り上げてしまったからとも言える。


 だからこそ、というのもおかしな話ではあるが、メルから見てテロス・ヴェンデッタという人物がどういう相手なのかという事を、メルは未だによくわかっていない。

 恐らく悪い人ではないのだろう、とは思う。ユーリがたまに話す過去の話を聞く限りでは誰彼構わず喧嘩を売るようなタイプでもないし――ただし売られた喧嘩は最高高値で買っている気がする――適度な距離感でもって付き合うのであれば、いい友人になりえるのだろう。

 ユーリの話では人間種族ではなさそうだが、では一体何の種族かというとそれがよくわからない。エルフでも魔族でもない。それ以外に長命な種族を思い浮かべるが、テロスはそのいずれとも違う。見た目はただの人間で、他の種族の特徴らしいものがない。例えば人間に見えるように偽装しているのであれば、天使である可能性も考えたがどう頑張って見てもそれも違うと思える。他にも人の姿をとれる種族を思い浮かべるがやはりそのどれもが違うだろうなと思わせる。


 意表をついて今思い浮かべた種族の中のどれかが正解です、となった場合メルは素直に驚く自信がある。

 それくらいテロスは普通の人間にしか見えなかった。


 だが、人間にしてはその能力は突出しすぎている。

 そういう存在がいたのであれば、精霊あたりから何らかの情報が流れてきそうではあったがそういった話は一切ない。星見の館を漂っている精霊にも確認をとってみたのだが、


『わかんない!』


 ほぼ全員がこう答えた。


『でもちょっとだけ同胞な気がする』


 一部がそう答えたので、多分精霊の血でも入ってるのかもしれない。

 悩んだ結果、メルは新手の新種かもしれないなという事で一旦考えに蓋をした。


 テロスの能力的なものを考察するのはさておき、どういった人物であるのかという事の方が重要でもあったからだ。それなりに一緒にいるはずなのだが、メルにはテロスが何を考えているのかというのがさっぱりわからない。それなりに表情にも出るし思った事を口にしているはずなのだが、それでもわからない。



 そのテロスが、とても珍しい事にわかりやすいくらい怒っていたのはつい先程までの事だった。

 船に乗っている間は明らかに苛ついていたし、それは全て出没した魔物にぶつけていたが、ノトス大陸に着いた時点である程度治まったように思えたのだが。

 それが違うとわかったのは、割とすぐの事だった。



 ギルドで一体何の情報を得たのかはわからないが、ちょっかいをかけてきた冒険者を叩きのめしたテロスはそんな事はなかったとばかりに建物を出る。

 そうして向かった先は町の外。そう遠くない場所に、小さな洞窟がある。


 どうやらテロスの目的地はその洞窟のようだった。

 この洞窟は蒼碧のパラミシアでもダンジョンとして存在している。基本的にあまり凶悪な魔物も出てこないので、序盤のレベル上げに使われるような場所だ。

 内部は鍾乳洞と地底湖があり、南の大陸のダンジョンの中ではかなり涼し気な場所である。

 ユーリもこの洞窟についてはある程度知っているのだろう。だからこそ困惑しきりといったところなのだが。

 それはメルも同じだった。魔物が強いわけではないのでわざわざ討伐にくる必要はほとんどない。新米冒険者が腕試しに来る程度でそれなりに間引かれるからだ。

 新米冒険者が来なくても、下手に増えた魔物が洞窟の外に出た時点で他の魔物に襲われる事が多く、人里に被害が出る事はほとんどない。


 そして何かお宝があるかというわけでもない。洞窟内部で素材になりそうな物が採れるかというとそれも微妙な所だ。冒険者から見るとこの洞窟は別段旨みがあるわけではない。


 新米冒険者以外でもちょっとだけ涼しいからという事でたまに涼を求めて冒険者がやって来る事もある。


 本当に、ただそれだけの場所だった。

 そこにテロスがわざわざ足を運ぶ理由がわからない。相手がフォンセでここが遺跡であるならば話はわからなくもないのだが。


「それでテロス、そろそろ事情説明とかしてほしいんだけど」

 洞窟内部はひんやりとしている。時々水が滴る音もするが、つい最近魔物の討伐がされたばかりなのか魔物の気配はほとんどなく、あまり大声で喋ったわけでもないユーリの声がよく響いた。


「……そうだったね。まぁ今回はそうだな、ボクだけだと間違いなくやらかすだろうから、ユーリシア、キミはストッパーのつもりで連れてきたんだ」

「ストッパー」

 つい心に引っかかった単語をそのまま口に出すユーリの目が軽率に死ぬのを確認して、メルは前を行くテロスを見上げた。声色はいたって普通に聞こえるが、何というかまだ苛立ちはおさまってなどいないのだろう。嵐の前の静けさのような、そんな不穏な気配がする。


「っ、いやいやいや、ちょっと待とう!? 私が、テロスの、ストッパー!? 無茶言うなよ無理でしょそれ」

 ワンテンポ遅れてユーリが叫ぶ。わんわんと音が反響して、遠くの方でコウモリが一斉に飛ぶ音がした。

「うん、まぁ無理なのは知ってるけど」

「じゃあ何で連れてきた!? ノトス大陸にはいずれ来るつもりだったからそこはいいけど、何でわざわざ連れてきた!?」

 恐らくユーリはテロスの肩を掴んでゆっさゆっさと揺さぶって問い詰めたくはあったのだろう。けれど前を行くテロスの背後から掴みかかるのもどうかと直前で理性が働いたのか、両手をどうしたものかと彷徨わせている。


「だって君が馬鹿だから」

「唐突すぎる貶し。え、何これ私怒っていいの? 後ろから殴り掛かるべき?」

 割と目がマジで殴るぞ、と言っているユーリにメルはそっと首を横に振った。多分今殴ったとしても返り討ちにあうだけだと思う。


 ユーリも決して弱いわけではない。周囲がちょっと色々規格外になりつつあってパッとしないだけで、そこらの冒険者と比べればそれなりに強いはずではあるのだ。

 けれども目の前に恐らく規格外代表でもある相手がいるし、そんなのと比べるとなるとユーリはただの一般市民レベルも同然となる。

 船の上で魔物を倒していた時のテロスの戦いぶりを見る限り、彼はかなり手を抜いていた。手を抜いていてあれ、と考えると薄ら寒いものを感じるし恐ろしさもあるのだが、ユーリは単にご機嫌斜めだなーで済ませていた。その部分に関してメルは感心せざるを得ない。


 だって船にいた他の冒険者とか乗船客のテロスを見る目は下手をすると化物を見る目でもあったのだから。


「仮にボクがブチ切れてやらかそうとしても、君なら頭悪い発言でボクのやる気を削いでくれるでしょ? そういう意味でのストッパーなんだから、精々滑稽な姿でも晒してよ」

「どうしようメル、今私の中でのテロスに対する殺意が留まるところを知らないの。これは事件の予感……?

 でもどう頑張っても勝てる未来が見えてこない。シミュレーションしても即座に敗北する」

「そもそも本人を前に事件の予感、などと言っておる時点で防がれるじゃろ」

「言われてみればそうだった」


 指摘されても特に驚いた様子もないので、本当にただ言ってみただけなのだろう。ユーリなりに不満を伝えただけで。



「ん? いやでもまって? そもそも相当ご機嫌斜めだったけど、ここに何があるの? そんなテロスが激おこファイナリティなんちゃらみたいなレベルで怒るような何かがあるとは到底思えないんだけど」


 同意を求めるようにユーリがメルと視線を合わせてくる。そこは確かにメルも同じ事を思っていた。蒼碧のパラミシアでもう少し重要な扱いになっているダンジョンへ来た、というのであればともかくそうではないので余計に。


「ボクも何があるかはわからないよ。ただ、場所を指定されただけ。とりあえず奥まで行って何もなければ良し、そうじゃなかったらその時考えるというか、気分で決める」

「何もなかったら良し、ってそれ無駄足じゃん……テロスなら無駄足踏まされたらそれはそれで怒りそうだと思うんだけどそこは違うの?」

「普段ならそうだね。でも今回に関しては何もなかったで後は知らぬ存ぜぬを貫けるからそっちの方が楽なんだよ。だから無駄足大いに結構」


 テロスの言う奥までというのはまず間違いなく洞窟の最深部にある地底湖だろう。ゲームでも行ける場所ではあるが、別段特に何があるというわけでもない。

 強いていうなれば、ノトス大陸出身の仲間キャラを連れていけばちょっとした会話イベントがあったとメルは記憶している。けれどそれだけだ。特に重要なフラグが立ったりはしない。


「指定された。誰から? テロスが機嫌悪いのってその相手が原因だよね?」

「……機嫌が悪くなるのも仕方ないと思うよ。何で身内の知り合いの尻拭いをこっちがしないといけないわけ? 身内の尻拭いなら百歩譲って理解できない事もないけど、身内の知り合いってボクからすれば他人なんだけど」

「お、おぅ……まずテロスに身内がいたという事実に驚くべきなのか、他人の尻拭いとやらを押し付けられたという部分に注目すべきなのか悩むんだけど」

「身内経由で話がきたならともかく、いきなり向こうから一方的にだったからね。本当に知り合いであるかも疑わしいけど、万が一本当に知り合いだったら後々面倒になりかねないし。どうしてあの時のボクは即座にあいつを仕留めておかなかったんだろう」

「あー、まぁ、ほら、突発的な出来事に即座に完璧な対応って中々できるものじゃないし」


 割と物騒な事を言いだすテロスをユーリが宥めている。

 奥に進むにつれて道が悪くなっていくが、時折現れる魔物はそう強いものでもないので姿を見せると同時にテロスの魔術で葬られていく。船の時のような魔術を使われたら最悪洞窟が崩れる可能性もあったが、そこまで冷静さを欠いたりはしていないようなので今の所は安心である。

 一部の鍾乳石が砕けたりはしたが、全体からすればセーフ。メルはそう思う事にした。

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