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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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かくしてこの日、一つのリア充が消えた



「正直な話、何にも思わなかったんだよなぁ」


 トルテを館の一室に運び込んで、何かあったらよろしくね、とケインに押し付けた直後の事である。

 ケインは何で俺が、と言いたげであったがトルテの状態とユーリの頼みであるという点で、不満はあるが断るまではしなかった。

 万が一目が覚めて錯乱状態に陥って暴れた場合、ケインの能力が有効である事は確かなのだ。

 彼女が身体強化に魔力を使って手がつけられなくなる前にケインの能力でマナを奪う。そうすれば下手に傷つける事もない。


「直属の部下でもないのに俺が面倒見るとか明日は嵐でもくるんじゃないか?」

 もっとも、ケイン本人は真顔でこんな事を言ってはいたが、一応何かあった時の為にとサフィールから使えそうな薬を貰いに自主的に足を運んでいるので任せても問題はないだろう。


 トルテをケインに任せて部屋を出るのと同時にアリスが呟いたけれど、最初ユーリは何を言っているのかよくわからなかった。

 トルテの事だろうか、と思ったがそうではない。


「ユーリはダンジョン探索ほぼ参加してないからわかってないだろうけど、あのダンジョン、どうも私の一族の誰かが造ったらしいんだよ」

「そこら辺は聞いた気がする」


 というか、そこはゲーム知識で知っている。


「それで、時々階層のボスを倒すと手帳の断片みたいなのが出てきてな? これなんだけど」

 言って古びた革の手帳を差し出してきた。自分が手にしていいものなのかと思ったが、アリスが促すのでそっと手に取る。

 中身を見るとエレミア一族の誰かが記したであろう文章が見えた。書いてある内容としてはゲームで見たのと大差ないように思える。細かい部分に違いはあったかもしれないが、大まかな意味としては同じはずだ。


「私の知るメソン島はまだ都市ができる前のメソン島だ。あの頃はマナ濃度とかそういうのも詳しくわかってなかったし、それが原因で魔物が活発になっていたり他にも異常気象が続いてたりで大変だったんだ。

 そこら辺は手帳を見て何となく思い出してきた」


 ぱらぱらと手帳を捲って見る。中のページは破かれていたが、それらがドロップアイテムとして出てきたものを、丁寧に繋ぎ合わせている。見た所中身は全部集まっているようだ。

 そもそもこれも五十階層に行く頃には揃っているものだ。だからこそ完成している事は別に何の問題もない。


「私の一族の誰かがこのダンジョンを造った。精霊の力を借りて。そこに至るまでの色々もまぁ、わからないでもない。その時はそうするしかなかったんだなーとしか思わないから。

 けれど、このダンジョンを終わらせるために最低でも一族の誰かがいないといけないからっていうのは意味がわからない」


 メソン島は元々マナ濃度の高い土地で、放置しておいてもそれが薄くなる事は滅多にない。むしろますます濃くなる一方で、だからこそ当時メソン島で権力を持っていた一族でもあるエレミア家が何とかするべく造り上げたのがあのダンジョンだ。あれはメソン島のマナを吸い上げて成長する。急速に吸い上げて枯渇させるわけにもいかず、長い年月をかけてじわじわとマナを消費させるための施設。それがあのダンジョンの正体だった。

 というのがゲームでの設定だ。じわじわとマナを消耗させようとしてもなお、高いマナ濃度を維持してしまったが故に後の政府でラルカが生まれる結果になったわけだ。


「ある程度の規模にまでダンジョンが育っていれば最下層にはマナを安定させるためのマジックアイテムが生成されているらしい。それを手に入れるには一族の誰かがいる事。そのためだけに、何故か私が選ばれた。

 目が覚めた時に朧気だった記憶もそこそこ戻ってきた気がする。けど、何だろうな、この事実を知っても何で私が、と思うだけで、一族の使命がとかそういう風にはこれっぽっちも思えないんだ」


 確かに淡々と語っているアリスからは、自分の事というよりは他人の話をしているような錯覚を覚える。


「忘れてた記憶が戻ってきて、そしたら自分の心境も変化するかと思ったんだけどな。全くこれっぽっちも何もなかったんだ」

「……それは、自分の意思じゃなくて強引に誰かに決められたからじゃないの?」


「そうかもなー。何にせよ、ダンジョンの最下層にいけば終わるらしいからそこは目指すけど、その後どうしたものかね」


 ユーリの言葉に軽く頷いて、アリスはかすかに笑う。

 どこか困ったようなその表情を見て、ユーリは表面上は同じような顔をしていたと思うが内心では冷や汗だらだら状態であった。


(あれ? この会話ってウォルスとするイベントでは? 何で私に言ってるんだろ……あれ? おかしいぞ? いやだってゲームだとこの会話ってほぼ最後の方のイベントだったよね? 私のデータではここまで行ってなかったけど、友人のデータで見せてもらったぞ? その頃にはウォルスとちょっといい雰囲気になっててその後の真エンディングで二人はくっつくんじゃなかったっけ? 友人のセーブデータで飛び飛びにイベントシーンとか見せてもらってるから詳細すっ飛ばしてる部分もあるとは思うけど、でもこれウォルスとくっつくのに必須なイベントだったよね?)


 危うく疑問が無限ループしそうになる。

 ゲームだと記憶を失ってたアリスの世話を焼いてるうちに何だかんだウォルスがアリスの事を放っておけないと思うようになり、またアリスも自分を気にかけてくれるウォルスに絆される形で想いを寄せるようになる。


(うん? 今気づいたけど、ウォルスってそんなにアリスの世話焼いてないよね? あれ? くっつくフラグ消滅してる? マジで?)


 何という事でしょう。気付かないうちにリア充発生イベントを消滅させていただなんて!

 しかし思えば確かにそうなのだ。ゲームではウォルスの隠れ家を拠点に行動していた。共に行動するのはいつだってアリスとウォルスの二人で、そこにミリィやルッセ、レンなどがサポートキャラとして入る。四六時中二人は一緒にいるわけで、ダンジョンでもお互いに助け合い先へ進んでいくうちに……という感じだったのだ。


 しかし実際はどうだろう。確かにアリスもダンジョン探索に行ってはいる。けれどアリスは一時的とはいえダンジョン探索に参加してない時期があった。そう、商業都市に行ってから星見の館に戻って来るまでの間の話だ。その間ダンジョン探索をしていたのはウォルスだけだ。藍緑エクエルドの登場人物でという意味でなら。


 それ以外に参加していたのはセシルとグラナダ。そこに時々ミリィやルッセ。

 本来の登場人物がメインで行動していない。というかそもそも主人公が参加していない。

 今更だがそれって根本的にダメなのでは? しかしアリスを連れていったけれど、正直アリスととても仲良くなった気もしていないので、本当に何故この会話がユーリに向けられているのかがわからない。


「まぁなんだ、仮にダンジョンの最深部に行って全てが終わったとしても、ユーリたちの方はそれでおしまいってわけにもいかないだろうから、そしたら次はそっちを手伝うさ」

「う、うん、それは助かる……かな?」


 わけがわからないうちに会話が進んでいる。まって、メッセージウインドウ文字送り自動にしないで。いやそもそもこれゲームじゃなかった。ゲームだったらとりあえずセーブとロードは駆使してる。

 表面に出してこそいないがユーリは混乱の極みである。だがそれでもアリスの言葉に相づちを打って、


「それじゃ、さっさと終わらせてくるからそうしたら大いに頼ってくれ!」

 どん、と胸元を叩くアリスはとても頼もしかった。

 言うだけ言って去っていく彼女の背中を見送って。


 ユーリが我に返った頃にはアリスの姿はどこにもなかった。



「え、ちょっとまって……メ、メルェも~ん!」

 未来の世界の猫型ロボットを呼ぶ眼鏡の少年のような、とても情けない声が出た。


 そのままメルの部屋へと走り出す。



 ゲームではキャライベントが発生した時、あぁイベントだ、ととてもわかりやすく突入したものだが、今のがイベントだとするとユーリにはイベント発生した時点でわかりようがない。それくらい普通に入っていた。

 目指すはノーマルエンドであって、キャラエンドではない。

 そもそも蒼碧のパラミシアだと思ってる舞台で藍緑エクエルドのキャラとのイベントがあるとは思ってもいなかった。むしろそっちのタイトルの主人公とイベントが起こるだなどと、これっぽっちも考えていなかったのだ。


 ちょっとこれ本当に大丈夫だろうか。まぁギリギリセーフじゃろ、くらいの判定をメルにしてもらいたい。

 いやまだ大丈夫なはずだ。確かにアリスとの会話はゲームだとくっつくエンドのフラグになっているが、蒼碧のパラミシア視点で見ればまだキャライベントの一つ目。そう考えれば救いはあるはずだ。


 もっとも、主人公が自らフラグを立てに来た時点でそれはもう色々とお察し案件では? という恐ろしい考えも捨てきれないのだが。


 兎にも角にも、ユーリは必死に足を動かしメルの部屋へと駆け込んだ。己の精神を安定させるために。

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