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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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そのイベントのフラグは既に消滅しています



 正直もう細かい部分はほとんど覚えていないといってもいい。もう何年も前の話だ。

 けれどぼんやりと覚えている範囲では、藍緑エクエルドでラルカに関しては五十階層までに決着がついていた。ゲームではメイとも確かに戦ったのだ。


 確かその前の階層でもメイとは時々遭遇していた気がする。サポートキャラにミリィを連れて行くと遭遇率が上がるので、イベント回収にはあまり困らなかった記憶はある。

 ゲームでは、遭遇しても必ずしも戦闘になるわけではなかった。ミリィはラルカについてよくわかっていなかったし、メイも最初はミリィに近づいて油断したところを捕まえようとしていたはずだ。

 けれど、心境の変化かメイはミリィを捕まえなかった。彼女にとってミリィはいつの間にか獲物ではなく友人となっていたのだ。


 けれども四十階層はラルカの巣窟。メイ以外のラルカたちとの戦闘は避けられない。

 そこでついにラルカがどういう存在かを知ってしまうミリィ。


「ともだちになれたと思ったのに……メイは違ったの?」

「ミリィ、ちがう、メイは……」


 そんな会話とともに戦闘に突入。ここだけBGMがボス戦のものではなく、悲しげな曲だった。


 アリスたちが勝利した後、密かに隠れて様子を窺っていた他のラルカたちが一斉に襲い掛かって来るのだが、満身創痍のメイがミリィを、アリスたちを庇って襲ってきたラルカを倒し――

 そこでメイは息絶えるのだ。


 メイは確かにラルカではあった。けれど、メイにとってミリィは本当に友人だと思っていたのだというのがわかるイベントであった。



 だがしかし。

 そんなまーた悪党にもちょっと同情しちゃいそうなイベントとかでこの子は悪くないんやで、みたいな微妙に後味悪く感じる系のオチが! と捻くれた目線で見ようと思えば見れるイベントが、ここでは発生していないらしい。

 というか考えたらミリィもダンジョン探索に参加してはいたが、そこまで積極的にダンジョン行ってなかったのだからまずメイと出会う機会がない。

 基本的にダンジョン探索に積極的に参加しているのはウォルスをメインにアリスとあとはセシルと時々グラナダ。それからクロフォードにシュウだ。

 サポートキャラが全く参加していない。

 ミリィやルッセはどちらかというとレンが使っている装備品とか作れる工房で細々した作業を手伝っている事の方が多い。

 時々参加はしているようだが、それもある程度自分の身を守れるレベルの戦い方を身につけるために、というものであまり深層へは行っていないはずだ。

 時々、本当に時々ルッセの弟でもあるルキアが深層へも参加しているくらいで。


 ゲームでも一応ミリィを連れていかずにメイと戦う事はできる。その場合は後日ミリィがラルカについて知ってしまい、


「それでも、ミリィはともだちだと思ってたんだよ……」


 という独白イベントが発生する。

 どっちにしても微妙に重たいイベントである。

 その後に発生する他のイベントでミリィが元気一杯であっても、何かこう、実は無理に明るく振舞っているのではないか? と勘繰ってしまうプレイヤーの心にもあまりよろしくないイベントである。


 しかしウォルス曰く、メイは既に死んでいるというではないか。

 このイベントまるっと削除かよ! とユーリは叫びたかったが本当に口に出すわけにもいかない。



 メイに関してはもういいとしよう。思う所がないわけではないが、今更何をしたところでどうしようもない。

ユーリはそっとベッドで眠るトルテへと視線を向けた。

 カリンが何度目かの治癒魔術をかけ終わる。


 この世界では治癒魔術というのはある意味ぽんこつ魔術ではあるが、それでもカリンも主人公枠にいる存在だ。連れてこられた時から比べると、見違えるまでに良くなってきている。


「聞きたいんだけど、この人どういう状況だったんですか? ユーリがある程度治してくれてるとはいえ、この傷は異常というか……」

 カリンも思うところがあるらしく、大変わかりやすいくらいに眉を顰めている。


「俺たちが見つけた時は既にそんな感じだった。意識もほとんどなかったから、急遽こっちに連れてきたけど、俺たちが来る直前までラルカと戦っていたらしいというのは推測できる」

「あぁ、実際何人か倒れていたしな。ほぼ相打ちといっていい」


「怪我は治せますけど、心までは治癒魔術で治せませんよ」


「そうだな。そればっかりはトルテ次第だ」


 流石にそれ以上は、お互いに何も言えなかった。カリンはトルテについて詳しく知らないし、ウォルスもそこまで親しいわけではない。


 トルテが負っていた怪我は、恐らくダンジョンに落ちた時に負ったものだというのは誰の目で見ても明らかだ。メイも、というかラルカは基本的に魔術を扱う事は可能だ。だからこそ、トルテが火傷を負っていたのは魔術によるものだろうと思われる。

 細かな傷は素手で引っ掻かれでもしたか。殴られた時にできたであろう痣。魔物の攻撃でやられたというよりは、人型の何かに危害を加えられたようなものばかりだ。人型――ラルカで間違いではない。


 元々あまり長いとは言えなかったトルテの髪は、一部が焦げて余計短くなっている。

 髪はまぁ、伸ばせばなんとか……と女心を全く理解しないセリフであっても言えるけれど、酷いのはトルテの右腕だった。

 ユーリが来た時は、ぎりぎりで繋がっていたが引きちぎられかけていたのだから。流石のユーリでも治癒魔術で失った体の一部を再生復活などできはしない。腕が取れていて、それが一応あればくっつける事はできると思うが。

 そしてその千切れかけていた腕の所々には、食いちぎられたような痕があった。ラルカに噛みつかれでもしたのだろう。生きながら肉食い千切られるというのも正直ゾンビが出てくるようなホラー映画ならありがちだが、恐ろしい事にゾンビ一切関係ない出来事というのが一番のホラーではなかろうか。

 他にも色々な傷があったが、本当によく生きていたものだと思う程だ。


 だからこそ、トルテの意識が戻ったら大丈夫だろうかとさえ考えてしまう。

 身体強化が得意なトルテの肉体がここまでボロボロになっていたのだ。恐らくは死を覚悟していたかもしれない。目が覚めた時に、彼女の精神が正常であればいいのだが……

 そこはウォルスが言うようにトルテ次第だろう。


「それで、彼女はどうするんですか? あの館に運ぶの?」

「……向こうにはケインもレーベンもいるからもしトルテが俺たちに何かしようとしても大丈夫だとは思うんだがなぁ……それはトルテがちゃんと意識を持っている場合に限ってだ。万一起きても精神に異常をきたしていた場合、流石に俺も責任をとれない」


「んー……でもここに置いとくわけにもいかないんじゃないの? ちょくちょく様子見にくるにしたって、ずっと付きっ切りってわけにもいかないんじゃないの? もし誰もいない時にトルテの目が覚めて、そのまま外に出る可能性だってあるよ?」


 正直な話ユーリとしてもトルテは味方だと言い切れないので星見の館に連れて行く事に若干の抵抗がある。けれど、目を離してもいけない気がする。

 例えばトルテの目が覚めて、何となく外に出た所で実は錯乱状態に陥っていて普通の人間ですらラルカだと思い込んで暴れでもされたら、とても大変な事になるだろう。


 ラルカの特徴としては金の髪に金の瞳。トルテが落ち着いた状態ならばただ金色の髪をした人間を見ても問題ないかもしれないが、最悪の場合目の色を確認する前に髪の色だけでラルカだと勘違いをしてしまう可能性だってある。


「…………ちょっと考えて最悪の展開になりそうだから、やっぱ連れていこう。トルテの部屋はケインの近くでいいよね? いざとなったらケインなら抑え込めると思うし」

「あ、あぁ。ユーリがいいならいいんだが。しかしこの状態のトルテを抱えて外に出るのは問題しかないんじゃないか?」


 ウォルスの言い分ももっともである。ユーリが来たばかりの頃ならば日の出前だしそこまで外を歩いている人間はいなかっただろうけれど、気付けば既に日は昇っているし向こう側の通りでは誰かが何やら楽しそうに話している声すら聞こえてきている。

 トルテの着ている修道服は血で汚れていてもあまり目立ちはしていないが、ダンジョンでの戦いでかなりボロボロになっている。

 そして怪我をしていて意識のない状態であるわけで。

 そんなトルテを抱えて移動しているのを見られたら、逆にこっちが犯罪者扱いをされてしまうかもしれない。


「……ポータルストーン使おう。一度ダンジョンへ行って、そこからポータルストーンで星見の館に戻ろう。これなら目撃者も出ない」

「何だろうな、この、何とも言えない完全犯罪臭……」


 やはりウォルスも思ってしまったか……ユーリも正直完全犯罪ではないかこれは、と思ってしまったのでお互いにとても気まずそうに目を伏せた。


 先日の貴族洗脳事件といい、事情があるとはいえとんでもない悪事に手を染めた気がする。

 一度教会と言わずメルの前で懺悔でもしておくべきだろうか。そんな風に考える。

 ウォルスが抱えた途端トルテが再び魘されて、小さな声ではあったが誰かに対して助けを求め始める。悪夢でも見ているのだろうか、と思える程にうわごとで救いを求めるその様子は――下手に誰かに目撃されたら完全にこちらが人攫いだと思われる状況であった。


「うわぁ、何か凄い悪党の気分」

「そうですね、人命救助のはずが何故このような……」


 いやいや完全犯罪とかまでは流石に、と小声でカリンと話していたアリスも、それに頷いていたカリンも。

 流石にこの状況では笑う事ができなかった。

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