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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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忘れてたあの日の思い出



 ゴードンと共にメソン島へ行きそこで採取する事になったのは、石だった。鉄鉱石だとか銀だの金だのといった鍛冶にも使うような鉱石ではなく、どちらかというと水晶などの宝石系だ。他の大陸でも採れる所はあるがいかんせん遠いのでゴードンは近場のメソン島を選択した。ただそれだけの話である。


 ゴードンは一通り採取する予定の石をユーリに一つずつ見本として渡すと、自分はもう少し奥の方で採取するからと言って別行動をすることになった。ゴードンに師事して二年目、魔術は一応使えるようになっていたけれど、今にして思うとそこで一人にしちゃ駄目ー! と叫びたくなる。

 何せメソン島。ラルカが潜む土地。ゴードンはもうおじいさんと言われるような年齢だしラルカも流石にあんな骨と皮しかなさそうな老人に目をつけるとは思わないが、ユーリは違う。ふにふにぷくぷくの柔らかいお肉の幼女と少女の境目くらいのこどもである。


 魔物もあまり出没しないような場所だったとはいえ、本当に運が良かった。改めてそう思う。


 そこでテロスと遭遇したり一緒に行動したりで、採取自体は何事もなく終わったのだ。

 テロスともあっさり別れている。


 メソン島で採取している時は大半が野宿であったけれど、たまに都市で宿をとることもあった。

 季節は秋。そろそろ故郷へ戻ろうかという頃である。


 アイテムボックスの中身を整理するという名目で宿をとり、ゴードンはその日一日部屋にこもっていた。必要な素材と、採ってはみたけどそこまで必要でもなかった素材とで分けて、必要ではない素材を売って帰りの船賃の足しにする。ユーリもその作業を手伝う事はあったが、今回は手を借りる程のものでもなかったらしく、自由行動を言い渡された。

 見た目はこどもであるものの、転生して二度目の人生。大人しく都市を散策しようと外に出て、特にトラブルを起こす事も巻き込まれる事もなく大通りにある店を見て回ったりしてさぁ帰ろう、という時に雨が降った。

 この季節にしては珍しいほどの大雨。バケツどころかプールを引っくり返したかのような土砂降り。通りを歩いていた冒険者も、住人達もあっという間に宿へ、自宅へ、近くの店へと引っ込んで気付けば誰もいなくなっていた。ユーリも戻ろうと思っていたが、少しばかり遠くまで来てしまったせいで強引に進めば宿に着く頃には完全な濡れ鼠だ。仕方なく手近な建物の軒先で雨宿りをしていた。


 建物の裏側から誰かと誰かの争うような声が聞こえてしまったのは、本当に偶然だったのだと思う。下手をすれば雨の音にかき消されていたはずだが、聞こえてしまった以上気になってそっと様子を窺いにいったのだ。


 そこで見たものは、既に死んで倒れている男と、脇腹にナイフを刺され服を赤く染めている男。

 誰が見ても事件現場である。

 雨によって流れた血はそれこそあっという間に洗い流されてしまったが、服を染めた血がそう簡単に落ちるわけもない。そして死んでいる男はともかくまだ生きている方と、ユーリはばっちり目が合ってしまったのだ。


 そしてこれが、ユーリとケインとの出会いでもあった。



 普段は政府の仕事に追われ滅多に建物から外に出ないケインが外に出たのは、本当にたまたまであった。

 そしてこの時季滅多に降るはずのない大雨に見舞われたのもたまたまである。


 そこでこれ幸いとケインとは敵対している派閥の誰かが雇ったチンピラ紛いの暗殺者が襲ってきたのも、ケインからすれば時々ある事だったので別段珍しい事ではない。

 即死するような怪我でなければ自分にはドレインがあるので、相手の魔力を奪えばいいだけ。むしろ殺すために接近してわざわざ間合いに飛び込んできてくれるならと、ケインはわざと隙を作り相手の動きを誘導したのだが。


 予想外にその暗殺者が弱すぎた。攻撃を避けようとしたものの脇腹に突き刺さってしまったナイフは、致命傷には至らない。けれど反射的に叩き込んだカウンターであっさり絶命されてしまうと、ドレインする以前の問題である。予定としてはある程度動けなくなるくらいに弱らせるつもりだったのだが。暗殺者はもっと強靭な肉体になって一撃で死なないようにするべき。そんな暗殺者本人が聞けば反応に困るような考えを思い浮かべつつも、ケインはさてどうしたものかと考える。

 今ナイフを抜いてしまうと出血多量でこちらも危険だ。治せると見込んだ状態ならともかく、流石に今すぐ引っこ抜くのは愚策であると言える。それでなくとも雨に打たれて身体が冷えていっているというのに、そこで出血多量も追加すれば、間違いなく危険な状態になってしまう。


 何というかあまりにもあんまりな出来事すぎて、暗殺者を送り込んだ奴は実はここまで計算のうちだったのでは……? と妙な勘繰りさえしてしまった程だ。


 さてどうしたものかな、と悩んでいる時に出会ったのがユーリである。


 まさか近くに誰かがいるとは思わず驚いたものの、いっそ体に支障がない程度に魔力をそっと奪おうかと考えたりもしたのだが。彼女は治癒魔術の使い手だった。多少跡が残ったものの、傷は塞がった。正直魔力を奪った方が完治できたが、人の善意を無碍にする程ケインも捻くれてはいない。ましてや、まだ幼いこどもである。



「ちなみにここでお別れすれば特に何事もなく終わったんだけど。その後他の暗殺者とかやってきて、色々あって逃げ回る事になって、そいつら倒しつつ地下下水道から政府管轄の建物に侵入したりしてケインを殺そうとしてた役員の一人を捕縛したんだけど、そこら辺は特にこれといって面白いエピソードもないから省かせてもらうね」

「そこ重要では!? 聞いてると何か大冒険の気配がするんじゃが!?」

「そこで私の眼帯が外れてしまって女神との接触者だという事が知られてしまったけど、思えばそれっきり会う事もなかったから。むしろよく覚えてたなケイン、って思ってる」


 ユーリからすれば何というかこの一連の展開は前世の洋画劇場とかでありそうな展開だったのだ。恋愛要素がないだけのアクションみたいな。それよりもユーリとしてはこれから先来るであろう原作開始時間の方が重要だったのだ。蒼碧のパラミシアに出てくるキャラとも違うみたいだし、お兄さんはきっと一時加入しただけのゲストみたいな存在なんだろうなー、などと思ってそれ以降はすっかり記憶の底に沈んでしまった思い出だったのだ。

 まさか別ゲームタイトルの本編でラスボスっぽい登場した人だなんて、気付くわけがなかった。



 ユーリとしてはあっさり忘れているが、ケインから見ると彼女は女神と接触しその目に刻印があるというインパクトありすぎな特徴を備えてしまっている。自分の一方的な事情に巻き込んだ事もあり、もしまたメソン島に来るような事があって何らかの事件に遭遇しているようなら、自分の状況次第ではあるが手を貸してもいいとすら思っていたのだ。勿論そんなケインの気持ちはユーリに一切伝わっていないのだが。伝えていないのだから伝わるわけがないのは当然として、もしあの時に遭遇していたならば一体どうなっていた事やら……


「知らない所で幼い自分がわけのわからないフラグを立てていた。何を言っているのか自分でもよくわからないがどういう事なのメル……」

「妾に言われてもな……味方に回ってくれるならそれでいいのではないか? 敵になるよりマシじゃろ」

「そうだね。あとはウォルスといる時の取り扱いに注意しとけば大丈夫かな。これからウォルスが連れてくる残り二人も他の人たちと上手くやってくれるなら心労は減るね」

「そうじゃなぁ。それにしても気付けば特に何もしておらぬのに人が増えていっておるの……そこは妾も予想外ではある」


 勿論蒼碧のパラミシアで仲間になるキャラの人数と比べれば少なくはあるのだが、確かに気付けばじわりじわりと増えていっている。お友達紹介システムみたいな増え方をするとはユーリですら思わなかった。


「ケインとか他の人繋がりで更に増えるかな……?」

「そればっかりは……むしろどういう繋がりがあるのかもわからぬ」


 何にせよ、藍緑エクエルドの登場人物はそこまで多くもない。ケインが別作品の誰かを連れてこない限りは知り合いの輪が広がる事もないだろう。クロフォードとレシェのような作品超えて知り合いでした、なんてのがない限り。



 それから少しして。

 ウォルスが連れてきた残り二人と会う事になった。その頃には他の館の住人たちにも情報が周知されており、特にトラブルが発生する事もなさそうという事で何名かが出迎えにきていたのだが。


「はっじめましてー☆ ミオ・ティンダーでーす。よろしくねー☆」

 シャララン。そんな効果音とエフェクトが発生しそうな挨拶と共に現れたのは、白い服に身を包んだ少女だった。正確な年齢はわからないがユーリよりは年上だろう。ミルクティー色の髪を団子のように結わえているミオは、その場にいる全員ににこやかに手を振っている。薄緑色の瞳をキラキラとさせて同年代らしき他の少女へと視線を向けているのは同年代が珍しいからだろう。


 そしてもう一人、ミオの横にいた人物はそっと一歩前に出る。

「レーベン・ティエントだ。よろしく頼むよ」

 柔和な笑みを浮かべている黒髪黒目の青年はケインと同様スーツ姿であるがこちらはかっちりと着こんでいる。メルやテロスのような存在を除いて人間種族という括りの中であるならば、見た目は若く見えるが恐らく彼が最年長だろう。


「よろしくお願いします……」


 この二人の存在も、ユーリはゲームで知っていた。そのせいか僅かに口元が引きつる。

 ウォルスが匿いたいと言ったのはミオだろう。ついでにミオが来るならレーベンが来るのも何となくわかる。ゲーム知識ではミオはレーベンとよく一緒にいたのだから。


 だがしかし、だ。

 この二人、クリア後の追加ダンジョンで戦うボスキャラだったはずなんだが、何故こんな事になっているのだろうか。ちなみにユーリは前世、ミオと戦う手前あたりでレベルが足りず装備も心許なかったりした結果、彼女と戦う事はしていなかったし、その後に戦うらしい相手のレーベンに至っても同様。


 ウォルスが優秀な政府の人間だと言っていたが、まぁそうだろう。

 何せミオは政府の中でも長老的ポジションにいる人物の孫娘であるし、幼い頃から政府の中で働いてきた。他の事に対して少々ぽんこつらしき部分はあったが、政府での仕事という点においては優秀な人材である。

 そしてレーベン。彼はある意味で政府のトップに立つ存在だ。立場的にはケインより少し上、くらいであるが、その実政府にいる狸爺どもを上手く操っている黒幕的な存在だった。


 藍緑エクエルドにおける、真のラスボスっぽいのが来てしまった事に対してユーリはそっと考える事をやめた。考えてどうにかなる問題ではない。かわりに心の中でそっと呟く。


 なるようになるさ……! と。

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