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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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モブだと思っていたから覚えてなくても仕方がない



 年老いたわけではないが白い髪、そして内面をそのまま表したかのようなアイスブルーの瞳。

 少々着崩してはいるものの決してだらしなく見えないスーツ。

 そのどれもが、前世、ゲームで見た彼そのものだった。


「…………てっきり大勢で警戒した状態で出迎えられると思っていたのだが」


 ケイン・レンフォードはウォルスによって星見の館に連れて来られた時に思わず拍子抜けしたかのように呟いていた。


「おい、お前本当に俺の事は説明しているんだろうな?」

「折り合いが悪いとは伝えた。だからこそ正直俺も驚いている」


 万が一ウォルスとケインが言い合いからの拳を用いての肉体言語に発展した場合、ストッパーは必要になる。お互いにもういい年なのだから、引き際を無視してまでやり合うつもりはない。ない、が最初から争わないという選択肢はない。お互いにお互いが悪いわけではないと既に理解はしている。しかし理性と感情はどこまでも別物だった。


 もしもお互い引くに引けない状況になった場合、ストッパーがいれば安心できると内心で思っていたのだ。他力本願であるとは重々承知している。


 だがしかし、出迎えに出ていたのはユーリとメルの二人だけだった。


 ちょっとどういう事なんじゃ? とばかりにメルから視線を向けられているが、ユーリも直前で思い出したのだ。そういやメソン島住人って能力が偏ってるというか、特化してるというかだったな、と。

 トルテのように己の肉体を強化するのが得意だけどそれ以外の魔術はからっきし、みたいな得意不得意が偏りすぎてるタイプとか、重力を操るのが得意なルリみたいなのとか、満遍なく全部の属性が得意です、みたいなオールマイティなのはメソン島住人においてはあまりいないという事を、ケインを出迎える直前まですこんと脳から抜け落ちさせてしまっていたのだ。


 ゲームでは何気に一番多くの属性を扱える魔術士はルッセだった。序盤はタグによって魔力制御を施されているが、タグの制限を解除した後は一気にアタッカーへと変化する。サポートキャラとしてのルッセは戦闘開始直後に魔術を発動させては魔物の数を減らすという中々に強力なキャラであった。

 逆にレンは戦闘は苦手だが手先の器用さを活かしてアイテム作成や装備作成という方面でサポートをしていた。

 ミリィは回復要員だったが、ゲームでは他人に対しての治癒魔術は普通に効果を発揮するものの現実ではあまりそうではない。現実でのミリィはダンジョン探索の際ルッセと同じく魔術で戦っているそうだ。



 ウォルスは治癒能力の上昇だったか。大抵の怪我は一瞬で治っていたはずだ。

 他者に発動させる治癒魔術と違い効果は自分自身なのでゲームと違う能力という事もないだろう。


 メソン島で藍緑エクエルドの時間軸が始まった時には覚えていたのだが、ちょっと色々あったせいで彼らの特殊能力的な感じに特化した部分というのを忘れてしまっていた。

 そのせいで、ケインに関しても本当に直前で思い出して慌てる事になったのだが。


 ケインの特化した魔術であり能力は――ドレイン。

 相手の魔力などを奪い自らの怪我を治す能力である。

 ゲームでは体力を奪う、とか説明書に書かれてた気がするが、実際のこちらの世界では相手の体内を巡るマナを吸収しそれを変換していると考えていいだろう。


 ちなみに別に怪我をしていなくても奪う事は可能だ。


 実は全然違う能力でした、というオチならいいがもしゲーム通りにドレインであるならば、下手にウォルスと揉めた時に周囲に人が多くいるのは不味い。ケインが怪我をするたびに周囲の人間から魔力が吸い取られてしまう。ウォルスは流石に周囲を巻き込もうと考えたりはしないはずだが、ケインはわからない。むしろ周囲に人が多くいればいるだけ多少の無茶をしでかして怪我をしても治しやすいわけだから、場合によっては嬉々としてウォルスに喧嘩を吹っ掛ける可能性もあった。


 それを考えると出迎える人数は最小限でいいかな、と思ってしまったのだ。

 その対応が合っていたかはわからないが、ユーリはこれで正解だと思っている。


 実際にケインも警戒されて出迎えられると考えていたようだし、そういう意味では意表を突けたのかもしれない。


 お互いにさらっと名を名乗り、ウォルスにも言っていた注意事項をケインにも伝える。ケインも別にウォルス以外と喧嘩をするつもりはないだろうし、ウォルス相手にするにしても時と場合を選んでくれるだろう。

 ゲームでは味方にウォルスがいたせいもあるのか、常に険悪だったはずのケインは思っていたよりも人当たりが良いように感じられた。


「ところで残りの二人は?」

「あぁ、ちょっとこっちに来る前にある程度荷物を纏めたいそうでな……この後迎えに行ってくる」


 苦笑を浮かべて言っているウォルスの様子から、別に何か深刻な理由があったわけではないと知る。

「すまないが今のうちにケインにこの中を案内してやってくれないか。残りの二人はケインが案内するから」

「あー、俺はあいつらのお世話係って事か……まぁ確かに色々と面倒臭い奴らだからな。仕方ない」

 さっさと行ってこい、とばかりに手を振って追い払おうとするケインにやや引きつった笑みを浮かべつつもウォルスは引き返して行った。

 握りしめていた拳が若干震えていたように見えるのは気のせいではなかったと思うが、何とか目の前で殴り合いを見せられる事はなかったようだ。


 案内と言われてもな、とユーリは考える。精々私室とそれ以外に使う所は風呂場とか洗面所とか食堂とかあとは何となく皆が集まったりする場所くらいだろうか。

 工房はレンが今は使用しているが、それ以外の施設に該当する部屋は使う人間もいないので未使用のまま。ケインが物作りをするのであればともかく、ゲームではそういった感じはしなかったのでこちらは案内する必要はない、と思う。

 あとはもう正直自分で足を運んで確認してくれ、と丸投げしたい。


 とりあえずは空いてる部屋に案内するか、とこっちですと言おうとした時だった。


「久しぶりだな、ユーリ。元気そうで安心した」

「はい……?」

「なんじゃユーリ、知り合いか?」

 目をぱちくりとさせているメルに、咄嗟に首を横に振る。

「いやいやいや、まって。自慢じゃないけど私知り合いとか数える程度にしかいないからね!? 友達とかめっちゃ少ないからね!? 人違いではありませんか!?」


 自慢ではないがユーリは転生してからというもの、メルと共に故郷を出るまでほぼぼっち人生だったのだ。同年代の友達? 村にいないからいませんけど!? 主人公がいないからね。村に住んでいた年上の人間は大体途中で都会に憧れて村を出ていってしまったからいないし、自分より年下の相手はいなかった。


 そもそもゴードンにくっついて各地を移動して素材集めと魔術を教わるレクリエーションに参加していたユーリは、人と知り合う事そのものがほとんどなかったのだ。


「何を言っている。ユーリシア・ヒュスタトンだろう?」

「そうですね、えっ、ホントどちらで!?」


 確かにウォルスが連れてきた時に軽く名を名乗りはしたが、ユーリです、としか言っていないので家名をケインが知っているはずがない。にも関わらず口に出したという事は本当に、以前どこかで会っている……?


 そもそもユーリは蒼碧のパラミシアとしての世界に転生したと思っていたのだ。だからこそメソン島で藍緑エクエルドが始まった時は驚きもしたのだが、そっちに出てくるキャラと過去に出会っているかもしれないという事実に動揺しかない。いや、出会っているかもしれないではなく、出会っていたのだろう。ケインの反応を見る限り。


 目を高速で泳がせながら考える。ケインは基本的に政府役員でかなり上の立場にいる。だからこそメソン島で出会っているはずだ。それ以外の場所にはそもそもケインが行く事もないだろう。

 ゴードンに連れられてメソン島に行った事は確かにある。ほぼほぼ森や洞窟などの人のいない場所ばっかり行っていたけれど。今考えたらよくラルカの被害に遭わなかったなと嫌な汗を掻きそうになる案件だ。


「案外俺の印象は薄いらしいな。五年も前の話だから無理もないのか?」


 五年前。ユーリシアたんじゅっさい。脳内でそんな単語が過ぎ去っていく。いや、自分にたんつけて呼んでる場合ではない。脳内とはいえ。

 確かにあの年はメソン島へ行った。ゴードンがラルカについて知らなかったであろうとはいえ、本当によくあんな物騒な土地へ行ったものだ。ゴードンはともかくユーリの年齢から見るとラルカにとってはいい獲物でしかないというのに、本当によく無事だった。


「……あれ、まさかあの時の……?」

「思い出したか? 俺としてはそれなりに印象に残る出来事だったが何だ、ユーリはあれを忘れる程に日頃から刺激的な日常を送っていたのか。いや、でもそうか、そうだったな」


 身長差があるために、ケインは少しだけ屈んでユーリの右目に手を添える。眼帯の上からそっとなぞるように。


「こんなものがあるんだ、平穏無事な暮らしをいつまでも送れるはずがなかったな」


 その言葉に動揺したのはメルだった。ケインは既にユーリの眼帯の下に何があるのかを知っている。既に一部の人には刻印持ちだと言っているから別段驚くほどの事でもない。

 驚くほどの事でもない、のだが……それがまさかウォルスと敵対していた相手が既に知っていたとなるとやはりどうしたって驚く。


「しかしそうだな、ウォルスと手を組むのは癪でしかなかったが、考えを改めよう。さて、それではいつまでもここで立ち話をしているわけにもいかんな。案内を頼む」


 言われてそうだったと思いだす。

 そうして足早に案内を済ませると、ケインは残りの二人を待つと言ってホールへと戻って行った。



「ウォルス以外の者とも険悪な事になると厄介じゃな、と思っていたがああして見るとそういう感じはないの。というか知り合いだったのじゃな」

「衝撃の事実に私も驚いている。だって蒼碧のパラミシアのキャラじゃないから、他のタイトルの登場人物出てくるとか思ってなかったし、当時は名前聞いても全くピンとこなかったし」


 そもそもケインという名前のキャラクターは他のアニメや漫画などの二次元でどれだけいると思っているのか。そこで名前だけ聞いて即座に別タイトルのこのキャラだ! などと思うわけがないというのがユーリの言い分である。そもそも蒼碧のパラミシアに転生したという自覚があったので、他の作品が同梱セット状態だったなど当時は知るはずもないのだ。そこでピンとくるほどユーリの察知能力は高くはない。


「あー、ところでかつて何があったのか、というのを聞いても良いか?」

「それは構わないけど。でも正直面白くないよ?」


 それでも、とメルは頷く。

 しかしユーリとしても今の今まで忘れていたくらいの、本当になんて事のない出来事だったのだ。


「じゃあさらっと話すけど、あれは五年前――」

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