妄執に踊る者
ちょっと事情がわからなすぎるから、詳しい説明を求む。
ユーリの困ったような、というか完全に困り果てた様子にウォルスも流石にこのままではこちらに人を匿うにしても問題があると思ったらしい。
「私としてはてっきり、そこまでダンジョン潜ったんなら途中で政府の人たちと衝突したりして、それを撃破しつつ更なる深層へ、って頃には色々と解決してるものだと思ってたの。
あのダンジョン、なんかメソン島のあちこちと繋がってそうだからそこからラルカが入り込んで、そこでダンジョンを隠れ家みたいな根城にしちゃったりとか。
それでダンジョンの中でラルカとも遭遇するようになっちゃって、戦ってるうちに向こうの戦力も大分削いで残されたラルカたちとの最終決戦とかもやってたんじゃないかなって思ってたの。
何せ五十階層でしょ? 途中でそういうストーリーが展開されてても別段不思議な事はないよね、とか思ってたの」
「あー、あぁ、うん……?」
相づちを打とうとして、どうにも素直に頷きにくいものを感じたせいかウォルスは考え込むように首を傾げていた。
ちなみにユーリが口にしたのは、五十階層に行くまでにあるゲームでの話だ。
けれどもウォルスの反応を見るに、どうも違うようだ。
「何というかユーリってたまに実はその場にいたんじゃないか、っていうような事言うよな。メソン島の森とか洞穴とかとダンジョンが繋がってたって話は事実だ。ついでに政府の連中ともそこそこ戦った。
ラルカとも、そうだな、五人ばかり戦ったな。俺は」
他の人はじゃあ何人と戦ったんですかねぇ……? と言いたくなるが、とりあえず口を挟まず黙って続きを促す。
「けど、ラルカとの決着はついてないぜ。着けなきゃいけないとは思っているが」
「そりゃ着けとかないと、共存は無理っぽいしそうなればメソン島の住人がひっそりと犠牲になり続けるだけだからね。ラルカを滅ぼすか、メソン島が滅ぶか。
メソン島が滅んだら次は他の大陸が狙われるけど、そうなると戦争になったりもしそうだよね」
ゲーム通りの予定調和でラルカと決着がついているならともかく、そうでないのならメソン島の外にラルカがいずれ赴く事もあるかもしれない。
現状マナ濃度の高いメソン島でしか暮らせないラルカだが、数を増やしていくうちにもしかしたらマナ濃度が高くない土地でも活動できる個体が生まれる可能性はある。
ラルカたちが増えるために食料となる人間が絶滅すればラルカも滅びるかもしれないが、その前に人間を必要としなくなる個体もでるかもしれない。
「うん、何て言うか新人類と旧人類の戦いみたいな……?」
メソン島の外に進出した途端、マナ濃度の違いに身体が慣れるまで追いつかずその間にばっさり他の国の人間か、他の種族にやられてくれれば最悪の展開は防げるけれど。そうならなかった場合はまさしくユーリの言ったような展開になってしまうかもしれない。
人間以外を食べて繁殖を試みようとするラルカだって出てくるかもしれないし。
生きとし生ける者の天敵と呼ぶには微妙な気もするが、そうなってしまう可能性は確かにあった。
「決着をつけたいのは確かなんだけどな。問題がある。政府の一部の連中がラルカに取り込まれた。というか寝返った、が正しいのか……?」
「何それ」
そんな展開ゲームになかった。藍緑エクエルドではアリスたちがダンジョンを探索しつつ政府側と戦ったりラルカたちと戦ったり、場合によっては政府側の人と共闘したりする事はあったけれど、ラルカはどう足掻いても受け入れられる事のない存在なのだ。
彼らの種としての主張はただ一つ、生き残りたい。けれどそれは、人間種族の犠牲が続く事を意味している。だからこそ対立は避けられない。
「ユーリがラルカについてどこまで知ってるかはわからんが、あいつらはどうやって増えるかっていうのは知ってるんだろ?」
「それはまぁ、普通の動物と違って交尾しただけじゃ増えないけど、人間を食べる事によって増える、んだよね?」
何だかゲームと違う展開が出てきたせいで、実はこれも間違っている部分があるのではないかと思うとつい歯切れが悪くなる。
「あぁ、基本は生きたまま食べるそうだ。被害者からすればたまったもんじゃないな。だが、別に死体であっても増えるには増えるらしい。ただし成長速度に違いが出るらしくてな」
「具体的には?」
「新鮮であればある程成体になるまでの速度が早いらしい。産み落とすまでの時間も早くなるとか。
そしてこれは偶然かどうかはわからないが、成長速度の遅いラルカの中にかつて行方不明になっていた人間とそっくりな個体が発見された。
それが政府のそれなりの立場にある奴の家族にそっくりらしくてだな。そいつがまぁ、その……他の連中も手引きしてラルカ側についてしまったというか」
その言葉に思わずユーリが真顔になるのも仕方のない事だった。ゲームに勿論そんな展開はない。ちなみにそんな裏話もなかったはずだ。
「それはつまり、かつての家族そっくりなラルカを見て、生まれ変わりを信じたかもしくは自分たちもラルカに取り込まれて新たな生を受けようとかそういう……?」
「まぁ概ねそれで合ってる。いくら見た目が似ていたとしても、別人なのにな」
何というか怪しい新興宗教の設立を目の当たりにした気分である。
ある日唐突に会えなくなってしまった家族とそっくりな人物を見て、そこで生まれ変わりを信じたりする程度ならまぁ、わからなくもないのだが。流石にそれは問題がありすぎるだろう。
「……その裏切った人たちって結構お年を召してらっしゃる?」
「ユーリってホントその場で見てたりするのか? もしくは視えてる?」
「見えてないよ。見えてないけど、だってそれって、ラルカに取り込まれて新たな種として生まれ変わろうってコンセプトでしょ? でもラルカに取り込まれるって生きながらに食われろって事だよね?
ラルカからすれば取り込む素材は若い方がいいから、例えば親を失った幼い子、なんていうのは言い包める事なく獲物だから逃がすつもりはない。
自分で物事考える年齢なら、死んだ人間と似たラルカは別物だって流石にわかるだろうし、仮に惑わされていても再び巡り合うために生きながら食われろって言われたら普通は拒絶するよ。魔物に襲われて死ぬのだって嫌がるわけだし。
じゃああとは、先が見えてて思い残す事もなさそうな年齢の人がそういうのに間違った希望をみちゃってるのかな、って」
それでなくとも家族をある日突然失って、という流れがあるなら尚の事その希望が絶望であるという部分から目を逸らしてしまいそうな気もしている。
「で、その匿いたい人っていうのはそんな政府の中で無理矢理犠牲にさせられそうとかそういう?」
「当初俺が匿いたかった人物はそうだな。残りの二人はそもそも違うが」
ウォルスがそういう風に言う人物に全く心当たりがない。いや、仲の悪い人物ならば一人心当たりはあるけれど、いやまさかー、という思いがどうしたって消えないので違うと思いたい。
「念の為聞くけど、そのうちの一人にとても折り合いの悪い御兄弟とかいたりしますか」
「ユーリは話が早くて助かるなぁ」
「うわぁ……」
できれば当たってほしくない予想に、思わず言葉を失った。
「今の所はあいつらも裏切った連中の息のかかってない所で隠れて過ごしているみたいだが、時間の問題かもしれなくてだな。もし、この件が解決した時にあいつらがいるかどうかでこの先の事後処理とか色々と変わってくるんだ……政府を追われた身とはいえ、流石にメソン島が崩壊する可能性を見過ごせるかというとそこはちょっと、なぁ……」
ウォルスの言い分はなんとなく理解できる。メソン島自体は今の所そこまで大きな混乱を極めてはいないのだろう。裏切った連中が内部に手引きしているとかはあるだろうけど、大っぴらにラルカに身を捧げよ! とか言い出したりはしていないはずだ。そもそもその宣言をするとなると、ラルカについてふわっとしか知らないメソン島住人が真実を知る事となり、そうなれば大混乱は免れない。良くて暴動悪くて内乱か。メソン島から出ようとする住人も多く出るかもしれない。
他の大陸に住人を流出させるのはあちらの望みとは言えないし、だがしかし先手を打って出るのを禁止するというわけにもいかない。やり方を一つ間違えればやはり武力での決着に持ち込まれる恐れがある。
「もしかしてラルカ側にリーダーとか参謀とかそういう系統の人もいるよね、これ」
「そうだな。なんとか四天王とかいうのは倒したけど」
「それ割と最終決戦間近みたいになってない?」
「重要なポストについてそうなのはそこそこ。ただ、頭が残ってるといずれまた戦力を整えてやってくる事もあるから」
「そっか、そうだよね」
確かに下手に敵を残したままだといずれまた新たな仲間を率いてやって来ることもあるかもしれない。
それにしても、だ。
何というか自分の知らないうちに展開が進みすぎてまったくついていけそうにない。
前世で兄が買って来たゲームを始めるのを横で見ていたけれど、序盤はさておき中盤を見ていなかったせいで気付けば終盤になっていた時のような気分である。気付けば知らない仲間は増えてるし、序盤に居たキャラがいなくなってるけどどうなったのかさっぱりだし、といったあの感じ。
「とりあえず、絶対喧嘩しちゃダメとは言わないけど……殺し合いとかそういうのは禁止ね、うち。あとお子様の教育上よろしくないような喧嘩はダンジョンとかで魔物相手に鬱憤をぶつけるようにお願いしますね。
無理して全員とお手て繋いで仲良しこよし♪ みたいなのはしなくていいけど、一応共同生活であるという事を念頭に置いてくれるなら大丈夫。
私から言えるのはこのあたりまで、かな?」
「わかった、伝えておく」
正直このまま放置でも大丈夫なんじゃない? と思わないでもないのだが、ウォルスには何だかんだ世話になっている。場所の提供程度であるならば、快く受け入れるべきだろう。打算でしかないが、それでウォルスがこの後もこちらに協力してくれるのであれば安いものである。
これから受け入れる人物本当に大丈夫かな、という不安があるのは事実なのだが。




