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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
四章 立場はある意味二軍落ち

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とてもパッとしない花見回



 前世とあまり変わらずこちらの世界にも桜は存在する。

 そして季節は春。

 となればやる事はただ一つ、花見だ。


 前世でも家族や友人とした事はある。転生してからはそもそも故郷周辺では桜は咲かなかったので花見とは無縁の生活だったし、ゴードンと共に各大陸へ移動して素材集めしつつ魔術教わったりしていた時は春というのは出発の季節。やはり花見とは無縁の生活であった。


 そんなわけでユーリシア・ヒュスタトン。転生してから初めてのお花見である。

 こちらの花見も前世の時とやる事はそう変わらない。異世界ならではの独特な文化とか風習があったらそれはそれで面白いのかもしれないが、あったらあったで覚えたり実行するのが面倒だなとも思うタイプがユーリなので、何の変哲もない花見は恙なく実行された。


 王都の一画、桜が咲き誇るそこは毎年花見のシーズンになると開放されるらしい。ゲームでは特に訪れる事のなかった場所だ。

 王都の全住人が集まるというわけではないが、それなりに集まってはいる。ちなみにここいら一帯は王族とか貴族とかのお偉いさんが花見をする場所とはまた違うので、いきなり場所を追い立てられるようなトラブルもない。


「結構大人数になったね」

 なんとなくピクニック気分でお弁当作ってくるとかお酒は飲む人が各自持参とか当初は予定していたが、参加人数が流石に多い気がして食べ物に関しては急遽バーベキューに変更された。

 そして成人組はお酒を用意してくるかと思いきや、意外にも飲まない方が多いせいかアルコールの持ち込みはほぼなかった。まぁ酔っぱらって周囲に迷惑がかかるかもしれないので、無いならないでいいだろう。


 網の上で自分の分、と言いつつミリィやレンが自分好みの配合で串に刺した肉や野菜を焼いているのを、うっかり怪我をしないようにとカリンが見守っている。ちなみに花見に誘った結果アリエルもいる。

 不必要なまでに近づいた場合威嚇してくるアリエルに、シュウが泥棒猫……ッ! などと言ってお互い睨みあっているが、まぁ概ね平和だと思う。


「まぁ、基本今いる人数全員参加となればそれなりに大所帯にもなろうて」

 焼いたマシュマロをかじりつつ言うメルは、次に食べるべき串を物色している。事前に色々と刺した物を用意したけれど、何というか最終的にバーベキューというよりはただの鉄板焼きではなかろうか、という気がする具材の数々の中から果物だけが刺さった串を手に取った。


「それも焼くの?」

「ぬ? 勿論焼くが。意外といけるのじゃぞ」

 ちなみにその果物はレシェが実家の方から調達してきたものである。


「グラナダ、肉ばっか食べないで野菜も食べなさい」

「そうだぞグラナダ、ほら海鮮焼きを食らえ!」

「ちょぉ! 流石に突き出すのはあぶねーです」


 普段は外に出ないネフリティスも、今回は参加している。

 館を無人にするとガーゴイルが発生するわけだが、今回留守番しているのはフォンセだ。

 皆が出払っている間に色々と館の中を見て回りたいと言い出して、私室に勝手に入らなければ好きに見ていいと言った結果、嬉々として留守番役になった次第だ。


 こどもの声が苦手だというネフリティスは、たまに聞こえてくる声に頭が痛そうな顔をしてはいたがそれだけだった。あまり体調に響くようなら彼女の事だ、早々に戻るだろう。


 クロフォードは焼いた串を取り皿の上にぽんぽん乗せていき、あまり食べてない面々に配っていく。ついでにウォルスも似たような事をしていた。何というか両者それぞれ手際がいい。

 だがしかし、お互い巧妙に自分が口にしたくない串を率先して処分しにかかっているのは、傍で見ているととてもわかりやすかった。



 とりあえずお酒が入ったりしていないので、周辺の他の花見をしている王都住人と喧嘩になるような事もない。とても平和的に花見は終了した。ちなみに参加人数に対してちょっと具材多くないかな? と思っていた食材も綺麗さっぱりなくなった。一番多く食べていたのはポチである。

 最初こそ王都の中に魔物が!? みたいな空気が流れたものの、ポチのちょっとどころではなく威厳のない口調と、近くに魔女がいるせいもあってか割とすぐに何だ使い魔か、で周囲は落ち着いたようだ。


 正直この世界の住人は順応性が高すぎるとユーリは思っている。



 ――さて、ゲーム内では花見イベントというものはなかったけれど、花見というものをやったりしている仲間はいた。イベントなどで昔仲間と一緒に花見をした時~みたいな会話は出てきていた。そして毎年王都で花見をするのだと言っていた仲間キャラもいたのだが。


 残念ながら彼らの姿を見る事はできなかった。

 魔術学院の生徒であったはずなのだが、見た所学院の制服姿の人すら見た記憶がない。

 ユーリたちが学院に行く用事もないため、知り合うとするならばこういった場だろうと思っていたのだが当てが外れてしまったようだ。


 原作開始の時間軸に突入したとはいえ、原作から離れてしまった部分も多々ある。

 それは例えばネフリティスの存在であったり、セシルの存在であったり、他ゲームタイトルで出演していた面々であったり。

 根本的な部分から言えば主人公のマチルダの不在であったり、主人公の幼馴染ポジションが転生者であったり。

 これだけ色々違ってくればそりゃあゲームと違いすぎる点が出てきても今更なのだが、それでもあまり接点のない部分は問題ないだろうと思っていたのだ。

 魔術学院とかギルドにはあまり直接関わっていなかったし。


 春を迎えた時、すぐにグラナダに頼んでギルドへ行ってもらったのだが。

 本来ならばその時点で丁度大口の依頼を終わらせて戻ってくる冒険者がマチルダと出会い仲間になるものの、肝心のマチルダはいない。ならば冒険者たちはそのまま他のクエストを請け負って他の大陸へ行くのだろうかと疑問に思ったからこそ、グラナダに確認に行ってもらったのだ。


「受付のおねーさんに聞いてみたですけど、そいつらしばらく見てないって言われたです」


 薄々もしかして、と思っていたがそれでも可能性は低いと見ていたのだ。そっちに影響出るような事はした覚えがないのだから。

 チームストライク、と呼ばれてそこそこ名の知られていた冒険者たちは、戻るどころか最近どこのギルドであっても姿を見せていないのだとか。


 それだけではない、他にも王都で仲間になってくれる人はいたが、そのほとんどが本来遭遇できるはずの場所にいないのだ。


 一人二人王都で出会えないのはまぁ、そういう事もあるよねと言えるけれど、立て続けにその展開がくれば流石にそうも言っていられない気がする。実際メルも訝しんでいるくらいだ。



「そういえば最近ギルドで人探しの依頼多いみたいなんですよね」

 思い出したかのようにサフィールが言う。彼女は採取した薬草を調合して色々作った物を売りに行ったりギルドの依頼で納品するくらいだが、グラナダに次いでギルドに足を運んでいる。グラナダは割と適当に依頼を見て興味がなければすぱっと忘れるタイプだが、サフィールは違う。一通り出された依頼に目を通し、それなりに把握している。

「多い、ってそんなありましたっけ?」

「グラナダは適当に流し見するだけだものね。増えてるわよ、ここ最近になってから特に」


 元々人探しの依頼というのはないわけではない。ギルドに行って依頼されている一覧を見れば10件中2件くらいの割合である。けれどサフィールが言うには今までの依頼と比べて倍、いや三倍程増えたと言うのだ。


「それは確かに多い、ような……?」

「中には冒険者を探している依頼なんてのもあったわ。流石にそういうのはもう死んでる可能性高すぎて、依頼というよりは情報求めてますみたいになってるけど」


 何でもその冒険者を捜索する依頼というのは、とあるダンジョンで忽然と消えてしまった冒険者の行方を捜しているというものだった。ダンジョンでいなくなったという時点でそれ魔物に殺されて食べられてしまったのでは? としか思えないが、依頼を出した人物の話によると本当に忽然と消えてしまったらしい。

 依頼主もまた冒険者で、お互いに協力して活動する事になったそうなのだが、ある程度進んだ先の休憩ができそうな所で身体を休めている時、会話をしてふと目を離した一瞬で消えていたのだそうだ。


「話だけ聞くとその残った冒険者が一番怪しい気がするんだけど」

「でも、その人が一人で彼らをどうにかできる実力はなかったのよ。そのダンジョンですっごいお宝を発見して独り占めしようとした、っていうような状況になったとしても、その人が真っ先に殺されそうな程度の実力だったみたいよ。彼も一人でダンジョン攻略は無理だから、っていうのでそこから引き返して依頼出したみたい」


「でもそんな一瞬で人って消えるものですかね? えーと、こないだユーリが話してくれた穴? ああいうのでもなきゃ無理じゃねーです?」


 確かに穴に落ちた、というのであれば忽然と消えていてもおかしくはない。けれど、とパトリシアに視線を向けたが彼女は静かに首を横に振った。


「有り得ない。穴が発生する場所はあくまでも異界の門付近ですもの。時折離れた場所に出たにしても、デュシス大陸内が限界ですわ。メソン島やボレアース大陸、ましてやノトス大陸では発生しようがありません」

「他の大陸とかで異界の門っぽいものが作られてしまった可能性は?」

「それも無理じゃないかしら。当時作った人だって、国の支援があって実装にこぎつけたのよ? マナの消耗もかなり激しいでしょうし、それらを安定させるシステムの構築とか個人でどうにかできる感じじゃないでしょうし……あとやっぱりそういうの作ってたら魔族か天使の反感を買うので完成するより先に潰されるかと」


 パトリシアがそこまで言うのであれば、穴が他の土地にまで活動範囲を広げてきたというのもなさそうだ。

「となると穴とは違う何かで行方不明者が続出って事か……私たちも一応気を付けようね。何に気を付けるのって聞かれると困るけど」


 原因がわかっていればまだ注意のしかたもあるのだが。

 難しい顔をして考え込んだところで答えが出てきてくれるわけもない。考えてもどうしようもない事は一先ず保留でいいだろう。


「テロス……?」

「何?」

「や、難しい顔してるから、何か気付いたのかなって」

「別に何も。でもまぁ気になるからボクも近々ギルドに行ってみようかなとは思ってるよ」


 本当に、何が一番困るかって、原因がわからないというのに限ると思う。対処しようにも対処の仕方もわからない状態なのだから。

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