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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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観光客は大歓迎ですが、そもそも隠れ里なので客が来ない



 外に出ると世界は灰色だった。というと少し語弊があるが、既に日は沈み暗いだけでなく、雪も強く降っているせいでそういう風に見えているだけだった。冷たい風が容赦なく顔面に突き刺さってくる。鼻の中が温度差に耐え切れず痛い。

 ユーリは咄嗟にマフラーを口元まで引き上げた。


 ぶぇっくしょい! と豪快なくしゃみが聞こえそちらを見ればシュウだった。防寒具一つない彼は既にもう死にそうだ。そこそこ回復したとはいえ怪我もしていたし、更にそこに本来ならば別に防寒具も必要なかった所からの寒冷地帯への強制移動となれば、そりゃそうなるわとしか言いようがない。

「貸してあげます」

 アイテムボックスからとりあえず毛布を取り出す。正直彼の身体に合いそうな防寒具は持ち合わせていないので毛布を適当かつ上手い具合に巻くなりしてどうにかしてほしいところだ。


「おぉ、すまない。流石の私もこのままでは死んでしまうかと思った」

「あ、その時は僕が目の前でカリンの私物を振りながらどうにかしますね、先輩」

「クロ、お前はまたそういう根性論のようなものでどうにかさせようとしおって……」


 ぐぬぬ、と言いそうな顔をしつつも言い合っている時間も惜しいとシュウは毛布を頭から被り器用に巻いていく。目元だけを出してあとは頭から上半身までをすっぽりと覆うようにしている。正直、こんな環境だから仕方ないと思っているが、そうでなければ普通に不審者である。

「まずいな、眼鏡に雪がくっついて何も見えん」


「ポチ、済まないがその元依頼人を乗せてやってくれ。決してその場のノリと勢いで降り落とすんじゃないぞ。いいな、これはネタ振りじゃない」

「仕方ないな、ほら、乗るんだぞ眼鏡。足手まといは置いていくのが群れの定石だけど、今回は仕方ないから連れていってやるんだぞ」

「お、おぉ、唐突な蔑みに私の身体だけではなく心までもが冷え切ってしまいそうだ……何だ、もっとそこの毛布を貸してくれた少女の如き優しさを皆は持つべきでは?」


 言いつつもずいっと身体を寄せてきたポチの背中に跨る。指示を出したパトリシアは本当に大丈夫なんだろうな、という目でポチを見ていた。


「えーと、そっちは大丈夫?」

 フォンセに問いかけると彼は無言のまま頷いた。確かに魔王はボレアース大陸に基本生息しているわけだが、蒼碧のパラミシアで活動できる範囲のボレアース大陸は雪が積もる事もあれど、今現在の状況程酷くはない。彼も城からそう離れていない遺跡に行く程度で外に出たのであれば、ここまで寒い場所だと大丈夫だろうか――そう思って声をかけたが大丈夫そうだ。


「ところでここからどうやって戻るの? っていうかどこに戻るの?」

 来るときは白猪という名の暴走する交通手段と徒歩でやってきたが、メルキュールの町まで戻るには今の天候だと大分厳しい。来た時以上に時間がかかるのは明らかだし、これは一度建物の中に戻ってそこでキャンプして翌朝出発した方がいいのでは? と思うレベルだ。


「ここからそう遠くない所に集落がある」

 雪とともに激しく吹き荒れる風の音で聞き逃しそうになったが、フォンセは確かにそう言った。

「集落? 人里ってことだよね、そこちゃんと機能してるの?」

「あぁ、問題ない。その昔隠れ里という言葉に憧れた一部の者たちが作った何の変哲もない集落だ」


 それ何の変哲もないって本当に言えるかな? とつい表情に出てしまったが、マフラーが顔の半分を隠しているので問題はないだろう。


「私もそんなのがあるなんて今はじめて知りましたよぉ……えぇっとぉ、そう遠くないとはいえここからだとどれくらいかかるんですかぁ?」

「精々一時間もかからない」

「そう、わかった。それじゃあ案内してくれる?」

「こっちだ」


 流石にテロスもメルキュールまで戻る事を考えるとその自称隠れ里へ行く方がマシだと思ったようだ。あっさりと次の目的地が決まる。

 これだけ雪が吹雪いているような状態だと魔物は襲ってこないだろう、と思っていたのだが、それでも時々魔物はやってきたし、雪が積もっているせいで動きも普段通りとはいかず。


 最初にフォンセが言っていた一時間を少し超えて、ようやくその集落に到着した。




 ようこそ隠れ里へ!

 という看板が入口に置いてあるのはどういう事なんだろうな、とつい遠い目をしてしまったが、そこは確かに人里であった。

「凄い……」

 つい口から出てしまったが、それも仕方のない事だろう。


 外は相変わらず吹雪いているといってもいい。しかしこの里はかなり強力な結界で覆われているのか中に入るなり目の前を覆うようだった雪も、何もかもを切り裂いてしまいそうな程の風も感じなくなる。何より、確かに里の中も雪そのものは積もっている部分もあるのだが、結界の中に入る直前までの気温とはかなり違っていた。確かに寒いがほんのついさっきと比べると冷凍庫と冷蔵庫くらいの差だろうか。


「ちなみに宿屋はこっちだ」

 フォンセが先導して宿のある方へ向かう。

「そもそも入口の看板も気になるけど、ここ人来るの? 隠れ里自称してたのもそうだけど、ここ外から誰かが来るには少しどころじゃなくわかりにくい場所にあるよね?」

「滅多にこない」

 テロスの問いに即答すると、テロスは思わず眉間に皺を寄せた。

「滅多にこないの、なら、入口の看板って」

「客がたまに来ると喜ぶ住人たちの心からの叫びだ」

「隠れ里やめれば普通に人来ると思うよ」

「そこはアイデンティティが崩壊するらしいから仕方ない」

「あぁ、そう」


 テロスの声は、呆れよりも疲れが勝っていたように思う。しかしユーリも似たような気持ちになったので何も言うまい。


 ちなみにほぼ閑古鳥が鳴いていそうな宿屋に着くと、それはそれは盛大に歓迎された。どれだけ外部の人間との接触に飢えているのだろうか。隠れ里で暮らすとか、普通に人と関わりたくないとかそういう系統の住人だとばかり思っていたがそうではないらしい。わっしょいわっしょいとお祭りかな? と言いたくなるようなテンションでもって部屋へ案内され、お食事どうしますか? と聞かれ、あれよあれよという間に気付けば随分豪勢な食事が並んでいた。

 わぁ、前世でよく見た旅館のご飯だぁ……ホカホカと湯気を立てる白米の誘惑が凄い。


 温泉もありますから是非ご利用下さいねぇ、と宿の主人に言われ、つい頷く。

 冷める前に、とまずは用意された食事を頂く事にする。


 温かいご飯に合いそうな焼き魚とお刺身。魚がメインなのかと思いきやローストビーフらしきものもある。その他にも茶碗蒸しやら天ぷらやらお漬物やらお吸い物やら。洋食メニューが二割、残りは和食といった感じでテーブルの上にずらりと並んでいる。


 予約もしないでいきなり来たのにこんなに食べていいんだろうか。前世知識でついそんな風に考えてしまうユーリであった。



「うぅ、お魚は嫌いじゃないけど骨が刺さるのがイヤなんだぞ……」


 ポチは当然箸など使えるわけもないので、皿の上にあるものをむっしゃむっしゃと豪快に食べるしかないのだが、お刺身はともかく焼き魚は苦手なようだ。小骨は刺さると地味に痛いから気持ちはわからなくもない。


 とりあえず大き目の骨とある程度の小骨を取り除いた焼き魚を別の取り皿に乗せてポチの前に置いた。

「ほら、全部は取り除けてないかもしれないけど、ある程度は骨とったから食べていいよ」

「いいのか? では遠慮なくいただくんだぞ。はぐっ」

 食べている様子を見ていたが、骨はなかったらしい。ぺろりと綺麗に平らげる。

「まだ食べる?」

「いいのか? 食べたいんだぞ」

「そっかー、じゃあちょっと待ってねー」


 言いつつ再び骨を取り除く作業に移る。ちゃんと自分でも食べてはいたが、気付けば大体ポチに料理を取り分けていた。

 いやだって、大きいにゃんこがうまいうまい言いながら食べてたらそりゃつい餌を与えたくなっても仕方ないのでは……? とポチが知ったらポチは猫じゃないんだぞ! と言いそうな事を思っていたら、つい手が……

 一体誰に言い訳をしているのかわからないが、ユーリの内心は大体そんな感じだった。


 お腹も膨れて幸せな気持ちになったあたりで温泉へ向かう。しっかり男女分かれていたのでそこは一安心だ。いや、流石に向こうの男性陣が何かしでかすとは到底思えないけれど、そこはそれというやつである。こちらにカリンがいた場合のみ、警戒度合いは跳ね上げないといけないのでは? と思うくらいか。


 ポチは堂々と男湯へ向かっていった。そうか、ポチ、お前やっぱり雄だったのか……たてがみがあったからそりゃそうだろうと思ってたけど。

 ご飯を食べて多少なりとも身体が温まっていたとはいえ、それでもまだまだ冷えていたのだろう。少し温めのはずの露天風呂と聞いていたが、お湯に浸かった直後はとんでもなく熱く感じた。


「……この後お布団でぐっすり眠って明日帰るわけだけど……正直お外あの雪でしょ? 明日晴れてればいいけどそうじゃなかったらしばらくここに滞在したい」

 結界に阻まれてはいるが、空を見上げるとごうごうと音を立てていそうな風と共に雪が舞っていた。舞うというか乱舞とかそういう度合いだ。普通に降る分には結界をすり抜けてくることもあるらしいが、ここまで酷いと結界が阻むそうだ。流石にあの悪天候に曝され続ければこの里あっという間に雪に埋まりそうなので、結界様々である。


「戻ろうと思えばすぐ戻れるがの……」

「え、ここにもあるんだ」

 ここどう見たって蒼碧のパラミシアの舞台範囲外なんですが。

「人里であればまぁ、大体の所には。じゃが問題としては……」

 メルの視線がレシェへと向けられた。彼女は今アリスの背中を流しているところだ。

 そのすぐ近くではパトリシアが頭を洗っている。アリスといいパトリシアといい髪が長いので洗うだけでも大変そうだなと思う。ユーリもそれなりに長いとは思うが、あの二人に比べるとそうでもないような気がしてくる不思議。


「…………一度足を踏み入れたら次から自由に出入りできちゃったりする?」

「いや、こちらがこれ以上こやつを受け入れたくないと思えば弾く事は可能じゃ」

「……そっかー。じゃあもう明日の天気次第かなぁ」


 流石に荒れ狂う天気の中雪中行軍のような真似はしたくない。正直な所晴れていたとしても何かもうあの距離を歩くの面倒だなーと思っているが、とりあえずユーリは決断を明日の自分に任せる事にした。

 まぁ、大丈夫だろう。多分。

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