隠れ里に伝わる開かずの家は別にホラーでもなんでもありません
翌朝。里の中は昨日とあまり変わっていないようだが、結界越しに空を見るとそれはもう酷い荒れっぷりだった。結界から外に出たら確実にすぐさま雪が身体に積もり、そう進まないうちから雪だるまと化してしまいそうな荒れっぷりだ。こんな天気の中結界の外に出て更に他の町へ行こうとするなんて、正気じゃない。
前世のユーリが暮らしていた所でこんな天気になったら交通機関が確実に麻痺する。学校とか休校になる。社会人の皆様においては行くならまだしも帰るとなると帰宅困難者が多数出てしまうのではないだろうか。下手をすれば自宅手前で遭難し凍死、なんてニュースにもなりそうな勢いだ。
結界越しに見える空で荒れ狂う雪を見ていると、ただの吹雪というよりは台風も混ざってないか、これ……と言いたくなってくる。
何にせよ、外に出るという選択肢は消えた。けれど今日もここに泊まるわけにもいかないだろう。助けてくれた礼だという事で昨日の宿代はフォンセが支払ってくれたとはいえ。
宿の外に出て空を見上げていたが、こうして見ていても天気が回復する兆しはない。ユーリは早々に諦めて宿の中へと戻って行った。
宿の中からでも窓の外から空を見る事はできたが、そこは気分の問題だ。朝食を出されたのは部屋ではなく、大広間と呼ばれている宴会も出来る所だった。食事は終えたが、そこにまだ全員がいた。部屋に戻っても特にやる事がないだけともいう。
「ところで、皆はこれからどうするの?」
戻って早々に切り出す。シュウとクロフォードは商業都市オルテンシアに戻る事になるが、レシェは実家がこの大陸にある。クロフォードたちと一緒にデュシス大陸へ行くのか、それとも彼女は別行動となるのか。
フォンセは城へ戻るのだろう。彼はまぁ魔王なので一人でもこの大陸にいる限りは大丈夫そうな気がしている。
パトリシアとポチはよくわからない。そもそも森の魔女と呼ばれるパトリシアが何故アナトレー大陸ではなくデュシス大陸経由でボレアース大陸にいるのか。
ボレアースに来たのはシュウの依頼を受けての事だろうけれど、デュシスにいた流れがわからない。
魔女だって旅行がしたい! と言われればそれまでだが。
「そりゃ戻りますけどこの天気じゃあね……先輩も本調子とは言い難いですし」
「そうだな。流石に私もあの悪天候で外を行けとなると厳しいものがある。下手に魔物と連戦なんて事になればデュシスの土を踏めるかどうかもわからん」
「私は一応クロに付き合いで着いてきたようなものですからぁ、一応ちゃんと帰るのを見届けた方がいいかなって思ってますよぉ?」
「我はそうだな。報酬はもらったし、流石にこの土地はいつまでもいるには厳しい。一度アナトレーへ戻ろうかと思っているわ。そろそろ春だし。花見の季節だし」
「ポチも一緒なんだぞ! お花見は美味しいご飯も出るから大好きなんだぞ!」
「俺は城へ戻る。あまり長期城を空けるとその分仕事も溜まるからな」
成程。大体ユーリの予想通りの答えだった。
「私たちこの後さっさと帰りますけど、パトリシアさんご一緒にいかがですか? 何ならクロフォードたちも」
「うん? 元依頼主たちはデュシス大陸へ戻るのだろう? ならば我はここからアナトレー大陸へ向かった方が早いと思うのだけど」
「というか、この悪天候の中行くつもりか?」
信じられない物を見るような目をシュウに向けられたが、気持ちとしては理解できるのでそこは受け流す。
「帰るけど外には出ない。特殊ルートを使います」
「えっ、こんな誰もこないようなところにもあるの? あれ……」
流石に名称を言うのは控えたテロスだったが、この隠れ里にも星見の館があるというのはユーリの言葉から即座に理解できたようだ。
「え、ちょっと待って。ここにあれが? 流石に目立つと思うけど、本当にあるの?」
「違和感なく擬態してると思うからそこはまぁ」
そもそもゲームでも星見の館、と言われているが村の中ではただの家。小屋に見えない事もない、みたいな外観のものもあったくらいだ。特に問題もないだろう、と思う。
「成程、それなら帰りは楽ができるね。正直本当に彼らを誘っていいのか疑問はあるけど、ボクは正直楽がしたい」
テロスも流石にこの雪の中を歩いて移動するつもりはないのだろう。そもそもこんな大雪の中外を歩くだなんて、雪ではしゃぐ年頃のお子様ならともかくいくら見た目は若くともテロスもユーリもその年頃はとうに過ぎ去ってしまった後だ。
「まぁ、無理して風邪引くかもしれない事を考えるとなー。私も賛成だ。それに、ここ来ようと思えばまた来れるんだろ? あの大きなお風呂もいいけどここの露天も中々良かったよな」
少し遅れてアリスもユーリの言いたい事を理解したようだ。アリスの場合は天気が良ければ外に出て雪にテンションを上げていたかもしれないが、そういうのは今度ミリィあたりと一緒にどうぞ。
「特殊ルート、か。何だかそのワードにちょっとワクワクするものを感じるので是非私もご一緒させていただこうか」
意外にも真っ先に乗ったのはシュウだった。どちらかというと彼は何だかんだ理屈をこねて最後まで動かない印象があったので意外といえば意外である。むしろクロフォードの方が怖いもの見たさで先に乗ると思っていたくらいだ。
「空間跳躍とは違うのよね? 流石にこんな大勢をなんて魔力消費もとんでもない事になるし……魔女を相手に特殊ルート、ね。そんなものがあるのなら、興味深いと言えば、えぇ、そうね。どういうものか見せてもらっても?」
パトリシアも一緒に来るようだ。となれば当然ポチもついてくる。
シュウが行くというのであれば、クロフォードが否やを唱えるわけもなく。そうなるとレシェも結局ついてくる事となり。全員が行く事になったのは、ある意味で当然の流れだった。
「こっちじゃな」
メルの案内で星見の館がある場所へと向かう。宿から出てそう遠くもない、いくつかの民家が密集した場所。そこからほんの少しだけ離れた場所にぽつんと建ってる一つの民家がそうだった。
「待て。あれはこの里に伝わる開かずの家だぞ」
フォンセは自力で城に戻ってもらう他なかったが、流石にユーリたちがどうするのかを見届けるつもりはあったのだろう。具体的にどうするとも言われていなければ、下手なことをして里に迷惑をかけるわけにもいかない。問題はないと思うけれど念の為、程度の見張りを兼ねるつもりもあったのかもしれない。
「開かずの家?」
パトリシアが首を傾げた。
「あぁ、この里が出来た頃からずっとあるが、誰かが住んでいる気配もなく、また何をしても決して開く事のない扉。そもそも誰が建てたのかもわからないその家に傷をつけたり火を放とうなどとすると災いが降りかかるとも言われている」
「いや、火をつけようとかしたのかえ……流石にそれはどうかと思うのじゃが」
「誰が建てたかもわからない気付いた時にはある不思議なお家、って考えると確かに不気味だけど、流石にそれは罰当たりなのでは?」
「というか認識阻害の術があまり効いておらぬ、と……? 本来ならばあっても気にしないとなるはずなのじゃが」
「やっぱ魔族とか魔力高いからそこら辺通用しなかったってオチなんじゃないの?」
ユーリとメルは小声で話し合うが、結局のところ真相は不明のままだ。魔族に認識阻害の術が効果がないというオチであるならば、まだ足を運んでいないが魔族が暮らす街などの館も誰かが住んでいる気配がない開かずの館として語られているかもしれない。
そのうち強引に突き破って肝試しに来る魔族の若者とか出てきそうではある。
「その家に一体何があるというんだ……」
フォンセがとても訝し気に家を見る。特殊ルートとユーリが言ってしまったため、もしかしたら地下洞窟とかこの家から繋がってる可能性でも考えたのだろうか。万一地下から魔物が結界超えてやってくるとか考えるとそれは確かに危険視もしたくなるけれど。
「えーっと、テロス、ごめん。ちょっとフォンセ捕まえといて。好奇心のままに突入されるとちょっと」
「了解。ほら、少しくらいの案内ならしてあげるから大人しくついておいで」
遺跡とか大好きな相手に古くからある開かずの家とかある意味で遺跡に近い物を見せてしまった結果、フォンセも一時的に連れて行く事にした方がいいだろう。星見の館は中身はあまり遺跡という感じはしないが、だからといって流石にあちこち勝手にうろうろされるのは困る。
うっかり着替え中のサフィールとかネフリティスの部屋に突入されたら血の雨が降るだけでは済まないに違いない。彼女たちなら相手が魔王であっても血の海に沈めてくれると信じている。
というかゲームでは対決するしかない流れになっていた勇者も今現在あの館にいるわけだが。……そこは多分大丈夫だろう、きっと。今の所お互いに戦う理由はないはずだ。
かくして星見の館に足を踏み入れ、長い通路を通り王都の星見の館へと戻ってきたわけだが。
ユーリは深く考えてはいなかった。星見の館と言うのは女神が遥か昔に創り上げた存在で、下手をすれば最古の遺跡と呼んでも過言ではない代物だという事を。
結果として、魔王様、大フィーバーである。




