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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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ポーションは種族関係なく使えます(ただしアンデッドは除く)



「ところでクロよ、他にカリンの私物はないのか?」

「あるわけないでしょう。アリエルがそんなサービス大放出するとでも思ってるんですか?」

「正直カリン成分が圧倒的に足りない。回復したはずの気力が今のでごっそり減った」

「そう言われても無い物はないので諦めて下さい」


 アカデミーに報告云々に関してはもう彼らの中で終わった話らしく、シュウは更なる要求をクロフォードに言い出していたがあっさりと却下されてうなだれていた。

 ゲームで見ていた時とあまり変わらずぶれないなこの人、と思いはしたが、まぁ話を聞いていると大変だったようだしむしろそれだけの事があってもぶれないとか逆に凄いのでは? とすら思えてくる。


 そうこうしているうちにシュウがパトリシアに本来出した依頼とは違ったけれど、自分を助けてくれた事は確かなのでその分の謝礼を、という話になり少し離れた場所に移動する。といってもそう広くはない部屋なので聞こうと思わなくても声は聞こえてしまうのだが。

 レシェがクロフォードと何やら話をはじめ、テロスは何やら考え込んでいる。

 アリスはポチが気になるのか、じわりじわりと距離を詰め、にじり寄って来るアリスに、

「うぅ、なんだ? なんなんだぞ? 敵意はないけど何か不気味な気配を感じるんだぞ!?」

 ポチがじりじりと後ずさる。敵と判断したならば容赦なく襲うのかもしれないが、今の所そうではないのでポチもどうしたものかと悩んでいるのだろう。

 ちらちらと視線でパトリシアに助けか攻撃の許可を求めているが、シュウと会話をしているパトリシアが気付いてくれる様子はない。


 メルに抱き着いていたユーリだったが、流石にいつまでもこうしているわけにはいかず、そっと離れる。

「ありがとうメル。おかげで私の心の平穏が保たれた」

「いや、そなたがいなければ妾が手近な誰かにしがみつくところじゃった。こちらこそ礼を言う」

「まさかこんな所でオチもスッキリしたわけじゃない不条理系ホラーな話を聞く事になるだなんて思わなかったわ」


 今も穴はどこかで誰かを引きずり込もうとしているのかもしれません。そう、次は貴方の番かも――


 みたいな言葉で締めくくればホラーとしてはよくある話になりそうだけど、事態は何一つとして解決していない。ユーリが周囲を見回すと、今の所会話をしている人たちは取り込み中だしテロスは顎に手をあてて何やら考え込んでいる。今話しかけると不機嫌になりそうな気配がするのでしばらく放置しておくべきだろう。

 アリスはポチの毛並みが気になるらしく、撫でまわしていた。ポチは困ったようにおとなしくしている。


「うぅ、この人間遠慮がないんだぞ……でもポチからしたら人間は皆こどもみたいなものだから、ここはポチが大人になってやるんだぞ。でもそこは痛いからあまり触るんじゃないんだぞ」

「お、怪我してる? ユーリ、ポーションあげてもいいか?」

「ん? あぁ、はい」

 アイテムボックスから取り出して、アリスに向けて軽く放る。


 そもそも飼い主――というのもどうかと思うが、パトリシアの許可をとった方がいいのでは? とも考えたがポチは言葉が通じるので駄目ならダメと言うだろう。


「そのポーション苦いやつか?」

「いや、これは甘いほう」


 すん、と蓋を開けるとポチが匂いを確認する。ポーションの味は甘いのと苦いのと酸っぱいのもあるが、効果としては正直あまり変化はない。ならばあえて苦いのやら酸っぱいのを作るのはどうなんだ、と思うけれど使う薬草の種類で若干の変化が出るのでそこは製作者側の都合というやつだ。

 飲みやすいタイプの甘いポーションは値段がその分少しだけ高い。効果はどれも同じなのだが。


 しかし戦闘中、例えば急いで飲まなければならない時に苦いのはまだしも酸っぱいのだとむせてしまって吐き出す事もある冒険者にとっては死活問題でもあるので、味で値段が多少変動する事に関しては特に問題にはなっていない。

 それに酸っぱいポーションは戦闘中などののっぴきならない状況ではなく落ち着いて飲むのであれば味はそこはかとなく健康飲料っぽいので実はそれなりに売れているのだ。

 苦いポーションも一部甘いのよりは薬飲んでる感ある、とかいう理由で普通に売れている。


 プラシーボ効果に踊らされすぎなのでは?


 なんにせよ甘い味のポーションだと判断したポチはゆっくりと傾けられた瓶から出る液体をペロペロと舐めていた。人間ならぐいっと一気に呷れば済むわけだが、流石にポチには無理だろう。皿も出しておけば良かったなと思ったが、アリスもポチも特に不便はなさそうなのでとりあえず放置でいいだろう。


 ユーリとしてもメルと適当に話でもして時間を潰せばいいかなと思ってはいるのだが、流石にそういうわけにもいかないだろう。メルに視線を向けると彼女もまた同じことを考えたのか、小さく頷く。

 正直アリスと一緒にポチを撫でまわしたいなぁ、と思わないでもないのだ。多分そのグループが一番平和な気がする。けれどもそういうわけにもいかないのだ。

 いつかはどのみち彼と関わるのだから、ならば今のうちに接点を作っておくべきなのだろう。



「何の用だ」

 話すべきことは全て話した。これ以上は何を聞かれてもこたえようがない。そういった雰囲気をあからさまに出しているフォンセにユーリとメルはそれでも近づいた。


「用っていうか、まぁ用といえばそうなんだけど」

「話をしにきたというわけではない」


 ユーリとメルの言葉にフォンセは何も言わなかった。メルが話をしにきたわけじゃないと言ったから、というよりは話し合うつもりがないと受け取ったのかもしれない。

 何かを観念したかのように目を閉じる。



 この時フォンセはてっきりこの二人は自分に危害を加えにきたのだとばかり思っていたのだ。別段魔族としては人間を敵視した事は長い歴史のなかでそこまでないのだが、人間はそうでもないらしい。全部が全部というわけではない事も理解している。ボレアースに暮らす一部の者は、人間と魔族の間から生まれた者も多くいるし、少数ではあるが魔族ではなく天使と添い遂げた者もいる。

 けれどもそれは人間という種族から見れば少数なのだ。魔族とて襲われれば反撃はするが、率先して滅ぼしにいった覚えはない。だが種族的に力の差というものはどうしても存在する。


 そういった意味でのわかりあえない部分から敵視されるのはもう仕方のない事だ。今すぐどうにもならない事はもう遠い未来の子孫に任せるしかない。時間が解決してくれるとは思わないが、時間の流れで人間が魔族に抱く認識が緩和されるかどうか、というのは今後にかかっている。


 はたまた、人間の極一部では魔族が魔物を使役していると思っている者もいるらしい。正直そんな事実はどこにもないのだが。魔物使いと呼ばれる存在はいるにはいるが、魔族に限った事ではない。人間の中にだっているし、使役できたとしても精々片手で数えられる程度の数だ。とても魔物の軍勢を人間の村やら町やらへ向かわせて襲わせる、なんていう芸当はできない。

 というか、襲うならわざわざそんな少数の魔物使うより自分たちで直接出向いた方が手っ取り早い。


 だがどうにも魔物の群れに襲われた人間は、魔族が魔物を操ったなどと言い出すのだ。事実無根である。

 そしてその魔物に家族を襲われ喪った者が時々敵討ちに来たりする事もあるのだ。素直に魔物を倒せ。

 魔族からすればその人間の行いは完全に逆恨みだしそもそも無関係なのだが、憎しみに駆られる人間は冷静に狂っているので手に負えない。


 とりあえず魔族は殺せ。そういう意識に囚われている。実はこれ天使が遠い昔に人間の魂にでも何か細工してそういう風に仕向けてるんじゃないのか、みたいな話が出た事もあったが、正直その可能性凄いあると思ってしまった程だ。天使ならやりかねない。あいつら自分の手を汚さない事には定評があるからな。

 だが証拠がないので流石に天使にむかって面とは言えない。言いがかりは流石によろしくない。


 二人の少女もてっきり魔物にでも家族を殺されて、復讐の旅にでも出ている途中なのかもしれない。そこで身動きのろくにとれない魔族がいたら絶好のチャンスだと思っても仕方ないだろう。


 フォンセとしては魔物を魔族が操るという事はできないと滔々と説いた所で意味はないと思っている。自分の知りたくない真実に人は耳を傾けない。嘘であっても自分に都合のいい話を信じるのは、よくある話だ。


(とりあえず、俺が死ぬ一歩手前くらいで満足してくれればいいんだが)

 流石に死んでしまうと色々と周囲に迷惑がかかる。具体的に城で仕事をしている部下とかが。


 息抜きも必要ですもんね、今日の仕事終わってるならいいっすよぉ。なんて快く送り出してくれた部下が俺が亡骸となって戻ってきたら確実に、

「あの時おれが送り出さなければ良かったっすぅ……!」

 と涙を流し心に深い傷を負ってしまいかねない。ちょっと近所の遺跡に行くだけのはずがまさかの展開。部下だって予想できないだろう事に巻き込まれたのはただ運が悪かっただけなのだが、そんな所まで自分のせいだと責め立ててしまいそうだ。

 なるべくギリギリで生還せねば。



 などと思っていたのだが、一向に刃物で刺されるとか鈍器で殴られるとかいうような衝撃はやってこなかった。おや? 魔術で生きたまま焼くとか凍らせるとかそういう系統か? と思いはするものの、魔術が発動する際のマナの動きも、それどころか構成を作り上げる時点での流れすらも感じられない。

 閉じていた目を開けるのと同時に。


「うわっ、ちょっ、えっ、溶け……!? ちょっとメル何これどういう事!?」

「妾に聞かれても困るぞ!? むしろどうなっておるというのは妾が言いたい!」


 かなり至近距離にいた少女の悲鳴のようなものが響いた。

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