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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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シュウ・クリムゾンと不思議な世界



 気付いた時にはもう既にわけのわからない場所にいた、とシュウは語る。


 カリンが行方不明になり、自分に使える伝手を使い金を惜しまず捜索し、人に任せているだけでは到底心が落ち着かないので自らも手がかりを求めて探し回った。街の外に出たという話は出ていないが、目撃者がいないだけで外に連れ出された可能性も捨てられないので外の捜索は任せてとにかく街の中を重点的に。


 そうして数日が経過した時点で、ふとカリンの気配がした気がしたシュウは脇目も降らず一直線にその場へと向かったのだ。流石は片思いを拗らせたストーカー。行方不明になってるという相手の気配をどうやって察知したのだろうか。どこの電波を受信したのだと突っ込みたい。

 路地裏あたりにやってきた時点でシュウは一瞬だけ自分に恨みを持っている者の罠ではないかと疑ったそうだ。自分の性格が敵を作ることが多いというのはよく理解しているようだ。

 理解しているならそこ治そうとしないんですかと突っ込みたいが、幼い頃ならともかく成人して数年もしたら人間、性格だの人間性だのを矯正するのもそう簡単にはいかない。

 どのみち今日初めて出会ったも同然なユーリがそれを口に出すのは完全にお門違いだ。こういうのは長年の付き合いのある人物が言うならともかく初対面の人間が言うべき事ではない。いくら相手を一方的に知っているとはいえ。


 路地裏には、特に金で雇われた三下チンピラのような者が徒党を組んで待ち構えていたとかいう事もなく。

 しかしかわりに大変怪しげな穴があった。

 地面ではなく壁の手前に出現しているらしいそれは、空間を歪ませているのかゆらゆらと微かに揺れて時々形を歪ませていたが、人一人くらいなら余裕で通れそうな円形の穴だった。


 その先にカリンの気配を感じ取ったシュウは、躊躇う事なく飛び込んだそうだ。ユーリとしてはそういう思い切りがいい所は素直に凄いと思う。普通なら躊躇ってるうちに穴が消滅するパターンに突入しているところだ。

 穴の向こう側に、確かにカリンはいた。自力で動けるようではあったがその時点でかなりの怪我を負っていたらしく、シュウは咄嗟に彼女の腕を掴んで引き寄せた。そのまま自分が飛び込んできた穴の向こうに咄嗟に押し込んだのだ。


 けれど穴は不安定で、本来ならオルテンシアの路地裏に出るはずがほんの少しの間に空間を移動していたのかそれとも別の理由か、結果としてカリンは街の外の洞窟付近で発見される事となった。

 シュウの話とクロフォードの話、そしてカリンの証言とやらを合わせるとそういう事になる。


 カリンを強引に穴の向こうに押し出した時点で、穴は消えてしまった。だからこそシュウはそこから戻る事ができなくなった。それを理解した時点で、ようやくここはどこだとなったのである。気付くのが遅いと思うけれど。


「そこは全体的に暗い場所だった。ただの暗闇ならともかく……そうだな、色合い的に黒と灰色、百入茶ももしおちゃ、黒緑、紫紺、そういった明るいとは言い難い色合いが多かった気がする。一番鮮やかな色は赤だ。

 何というか見ているだけで気が滅入りそうな場所だと思ったものだ。カリンは今までこんな場所にいたのかと思うと、嗚呼!! 本当にあの時の私咄嗟に穴の向こうに戻して良かった。自分で自分を褒め称えたい!

 ところでカリンは無事か、クロ」

「あぁはい。怪我はしてましたけど無事です。今はアリエルが看病しつつ療養してますね」

「またあの女か……くそ忌々しい女狐めぇ……!」


 ギリィ、とハンカチがあれば渾身の力で噛み締めてそうな形相をしていたが、すぐに何事もなかったかのように振舞う。全員その変化を目の当たりにしているので、取り繕うのは完全に失敗しているわけだが。


「まぁ何はともあれ私はその陰気臭いとしか言いようのない場所に出た。信じられるか? 大地は灰色、木々も全体的に枯れていると言われれば納得するような色合い、空は全体的に紫に黒を薄っすら混ぜたよう、果ては流れていた川ですら、濁っていて仮に水を飲めと言われても決して口をつけたくないという色をしていたんだ。

 何だろうな、外だったはずなのに、鳥の声も虫の音も何も聞こえないんだ。世界が死んでしまったのかとすら思ったぞ。そもそも空には太陽も月も星もない。懐に入れてあった懐中時計は時を刻んでいなかった。壊れたようではないみたいだったが……

 世界が死んでいないのならば、あれはきっと世界の終焉とかそういうものなのだろう。遠い未来の光景だとは到底思いたくはないがな」


「カリンは地獄のような場所だった、って言ってましたね」

「地獄、地獄か……そうなのかもしれないな。とにかく私はそこを彷徨った。私がやって来た穴は消えてしまったが、もしかしたらどこか他の場所から脱出できるかもしれない、と考えてな。

 しかし何もなかったよ。飲まず食わずでも腹は減らなかったし水も飲みたいとは思えなかったが、それでもせめて水は飲まないといずれ衰弱する。生活魔術で水を出せなければ、きっとあの川の水を飲んでいたか、飲むのを拒絶して動けなくなっていたか……どちらにしてもいい結果にはならないだろう」


「アカデミーだと白魔術課であろうと黒魔術課であろうと最初にまず生活魔術を教わりますからね。そういう意味ではカリンも先輩も水の心配はなくて何よりです」

「食料はどうにもならんがな」


 大真面目に頷いてみせたクロフォードに、はん、とシュウは鼻を鳴らす。

「それにな、あの場所はマナがあるがどうにも……魔術を使いにくい場所だった。四肢が捻じれて尚動くゴブリンと遭遇した時にとっさにファイアーボールをぶち込んだのだが、本来予定していた威力よりも弱かったな。

 ……場とマナが馴染んでいない、私は少なくともそう感じ取れた」


「ぅえ、四肢が捻じれたゴブリンとか普通に怖いんですけどぉ。しかも動いてるんでしょぉ? 私なら見た瞬間即斬り捨ててますよぉ」

「あぁそうだな。そのせいで動きも不規則で、あれは夜中に街中で見たら確実に悲鳴を上げる人間が続出するのではないか? 私のように反射的に攻撃をしてしまう者もいるだろうな。

 その後も首が捻じれて後ろを向いているのに真っ直ぐ歩いてこちらに向かってくるオーク、不自然に足の数が多いせいかバランスをとれずに左右に揺れながらじゃないと前進できない挙句、足の重さで飛ぶこともできそうにないハーピー、単眼のコカトリスと一言で言えば異形としか言えない魔物と遭遇した」


「どれもが異常ですわね。しかし穴の向こう側がそんな場所だとして、じゃあどこだというのでしょう」

 両手を顎のあたりに添えてパトリシアが考え込む。


「異常だな。確かに穴そのものは昔からあった。けれど穴の向こうに落ちても大抵は穴に落ちた場所から少し離れた場所か、遠くともデュシスかボレアースの何処かに出るだけのはずだ。

 少なくとも、ここ数年の報告でそういった場所に行ったという話は聞いた事がない」


 フォンセが淡々と告げる。異界の門が原因で発生している穴は魔族が被害に遭う危険物だ。だからこそ万一被害にあった者が出た場合は報告が上がるようになっているのだろう。戻ってきた場合も、戻らなかった場合も。

 ところで、とユーリは疑問に思う。

 魔王だからといっても別にここで戦うつもりは誰にもないようなのに、いつまで彼は拘束されたままなのだろうか、と。フォンセ自身も既にこちらが現時点では危害を加えてこないという判断はしているようだが、だからといって助けを求めるつもりもなさそうである。人間風情に助けられるとプライドが傷つくとかそういうアレだろうか。

 いや、この魔王にそういうプライドはないような気がする。他大陸の遺跡の情報が知りたきゃ土下座して乞いな、げっへっへ。とか言われたら多分躊躇いもなく土下座するタイプの魔王だし。ユーリは実際そういうシーンを見た事はないしそもそもゲームでそんな場面はないけれど、設定資料集でそんな事が書かれてた気がする。



「いくら広い大陸とはいえ、デュシスにもボレアースにもそんな場所ありませんよね。そもそも空の色からしておかしいし、月も太陽も星も見えないなんて異常すぎます。

 大陸のどこかを強大な結界で覆ってそこだけ異世界のようにするにしたって、魔力消費がどれだけの事になるか……現実的とは到底言えない。

 先輩、他には? 他には何があったんですか」


「他、か? そうだな。……どれくらい彷徨っていたかはわからんが、そのうち建物のようなものを見た気がした。途中で魔物と遭遇して戦ってを繰り返していたのに不思議と疲れは感じなかったし眠気もこなかったが……それが災いしたんだろうな。疲れを感じないせいで少しばかり無理をして、結果傷を負った。私は治癒魔術が使えないので怪我は応急処置をするのが精いっぱい。

 どうにか建物らしき所へ辿り着いたが……そこはきっと、倉庫だったのだと思う。最も既に使われなくなってかなり時間が経過していたようだが。

 そこで出会ったのが――彼だ」


 シュウがすっと指を突き付けたその先へ、全員の視線が思わず向けられた。再び視線が集中する。

 拘束されたままの魔王へと。

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