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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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女神が土下座で助けを求めてくるけどチートもない転生者なので五体投地で助けを求め返すのが精一杯



 宿屋に着いた時点でそもそもかなり遅い時間であった。

 そこから遅い夕飯を食べて、部屋に戻ってからはメルの話を聞いて。

 気付けばかなりの時間が経過していた。

 ユーリも正直眠たいし、何なら既に寝落ちしたい。


 しかし、だ。

 明日になって行動を開始すればメルと二人で会話をするという事はまずできなくなってしまう。

 そして何より聞き流してスルーしてはいけない部分があったような気がしている。


「まずはその、お悔やみ申し上げます……? って言っていいのかよくわからないけど。

 っていうか、転生者ってどんだけいたの? それが私の所以外全滅……? え、何それ怖い。他の世界どんな所なの。目と目があったら殺し合うような世界なの? 休む間もなく戦い続けないといけない世界だったりするの? それとも精神的に追い詰める戦いが主流の世界だったりしちゃうの? どっちもきついわ。

 ……いやまぁ、流石にそういう世界じゃないとは思いたいけど知らないから好き勝手言った。ごめん、メルの気持ちを考えると今言うべき事じゃなかった」


「いや、構わぬよ。全部が全部そう、というわけでもないがユーリが言うような世界もないわけではないのじゃ」

 泣きながら喋っていたせいで、メルの声は所々でかすれてしまっている。

「あったのか。それもどうなの。……というか、邪神の正体判明したわけだけど。他の世界の世界神の力が流出したって何、どういう事?」


 ここが、一番聞き流してはいけない部分だった。ユーリの知識は自力でプレイしたゲームの内容と、あとは設定資料集だけだ。設定資料集とかネタバレの宝庫のような気がするが、正直情報量が多ければその分文字の量も増える。

 そして自分がまだわからないシナリオ部分に突っ込んだ内容だと正直意味がわからなくて流し読みで終わらせてしまう。要するに、詳しい事は大体わからない。

 無駄に読み込んだのはキャラクターページではないだろうか。まだ仲間にしてないキャラに関しては読んだけどよくわからない、というもの多かったけれど。

 ユーリの言い訳としては、そのキャラに関しての詳細が書かれていたとして、こういう経緯で仲間になったよ、とかはまだわかる。けれど、あの事件以来思う事があるようだ、なんて書かれていたとして、あの事件とやらをまだゲームで確認していなければ何の事かわかりませんね、となるのだ。

 ゲームでその件に到達した時点で、あぁあの、となるとは思うのだが生憎既にゲームをプレイできる環境にない。


 時々攻略サイトのお世話になった事もあったが、必要な部分だけささっと確認したらあとは他の部分を見ないようにさっさとサイトそのものを閉じていた。ページ開いてるとそのままつい見ちゃうからね、仕方ないね。


 ともあれ、邪神についての正体がハッキリしてしまったわけだ。

 ネット上では既にクリアしてエンディングコンプした人たちの感想も溢れていたはずだが、邪神の存在についての詳細はあまりなかったように思う。

 ネタバレ回避したい人向けの部分しか見てなかったから、もしかしたら地味に正体は判明していた可能性もあるが。


 けれどメルに確認してみるも、蒼碧のパラミシアで邪神の正体とやらが明らかになる事はないらしい。

 実際ゲームプレイしてラスボスの正体がハッキリしないってそれ、クソゲー認定されてもおかしくないのでは……? と思うのだが、メルの話だと何となくこれじゃないか、みたいなミスリードもあったらしい。

 勇者であるルーチェが魔王に原因があると誤解していた事もあったし、一周目のプレイでは確かに魔王が元凶に見える感じではあった。


 二周目に入る時点でそうじゃないとわかるわけだが。

 色々と憶測が入り混じっていたが闇堕ちした精霊の仕業説もあった気がする。


 実体を持たずに魔王や勇者の身体を乗っ取るタイプの邪神なので、実体を持たない精霊説は確かに濃厚だった。


 ここで判明した邪神の正体がゲームの邪神とイコールかというと違う気もするが、少なくともこの世界においてはそれが事実であり真実らしい。そもそもゲームだとメルが創造神という立場で、世界神とかそういうの一切単語ですら出てこなかったのだ。あっちの世界で続編が出て他の世界の神様の力が、とかないとは言い切れないけれど……発売から一年経過して続編の情報とか何一つなかった。ゲーム雑誌で製作者との対談とかあったけど、続編については何一つ触れられてなかったはずなので可能性としては低いのではないかと思っている。

 どのみち前世の情報をここから知る事はできないのでこれ以上考えるのは無駄でしかない。


 邪神の正体が判明した。それはいい。

 そもそも世界神同士での交流は推奨されていないのであれば、他の世界に力を流しちゃうのはもっと駄目なのでは?

 その疑問についてはメルが最悪のケースじゃ、と答えてくれた。


「実は何気に世界神同士での直接的な殺し合いというのはできないようになっておっての。そもそも直接会えるのも神の箱庭だけなのでそこで殺し合おうなんてすれば間違いなく調整神の怒りに触れるのじゃが。

 他の世界神の力なんてものは、自分の世界にとっては異物じゃ。取り除かねばならぬが、妾が直接どうにかというのはできぬ。力だけとはいえ、完全消滅させねばならぬというのは殺すという部分に抵触するらしくての」


「そうなるとお手上げでは?」

 世界神の力に対抗できるのは同じ世界神、でなければなんだというのか。


「そこで転生者の出番なのじゃ。ユーリの身体は妾の世界で生まれたものじゃが、魂は別じゃろ? このように器と魂が異なる者のみが他の世界神に干渉する事ができる。器も魂も妾の世界の住人である場合は、まず妾にも致命傷を与えるのは限りなく難しいし、なんなら他の世界神の力にも抵抗するには厳しい」


「えーと、つまり、炎属性を無効化しちゃう敵に、炎属性の力をもった武器で挑むようなもの?」

「その考え方で概ね間違ってはおらぬ。転生者の場合は、炎属性も持ってはいるが同時に他の属性も所持しているのでそっちが仕事してダメージを通す、と考えてくれてよい」


 ふむふむ、と頷いて。ユーリは思わず真顔になった。


「それ、転生者大量に迎え入れるのって諸刃の剣じゃない?」

「………………」


 ユーリの言葉に思わずメルの表情がすんっ、とした。メルにもわかってはいたのだろう。その危険性を。


「それってさ、つまり他の世界神の力を消せるけど、そこの世界の神をも殺せる力を持ってる、って事になるよね? 世界神と世界が一心同体で、世界神が死んだら世界が滅ぶっていうのを転生者全員が知ってるならともかく、場合によってはそこから言わない世界神もいたりしない?」

 メルの視線が無言のまますっと横へ移動する。その反応で大体わかった。


「私みたいに自己保身の塊みたいなのなら死にたくないから協力するってなるけど、後先考えないようなのが神殺しの力を持ってます、なんて知ったら……相手がゲーマーとかならこれうっかり神殺しの称号ゲットだぜ、とか言い出しかねないよね。そこの世界神と協力できればいいけど、ちょっとお互いの仲がギスッたら危険だよね……?」

 世界神は死にたくない。だからこそ転生者という異端分子を用いる。そういう意味では世界神は転生者にキリキリ働いてほしいとも言えるわけだ。

 対する転生者は人によるとしか言えないが……戦いたくないというタイプであれば最終的に戦うしかなくても世界神に対して思うことは何がしかあるだろうし、積極的に戦う事に抵抗がない相手であっても早く早くと世界神にせっつかれればいい気はしないのではないだろうか。


 関わり方次第では自分はただ利用されているだけなのでは……? と思う者も出てくるだろう。


 ユーリが想像したわかりやすい展開は、机の上に勉強道具を用意して参考書もばっちり。さぁ、やるぞ! と思った矢先に親に「ちゃんと勉強してるの? しなさいよ!」と言われた光景だった。

 ゲームしてるとか漫画見てる時に言われるならまだしも、まさに今やろうとしていた時に言われれば流石にムッとするだろう。

 そういう感じで世界神が転生者にあれこれ言っていたのであれば。


 そんな中で、実は自分には神様を殺せる力があると知ってしまったら……?


 人間は存外単純な生き物だ。世界神を殺せば世界が滅ぶという重要な部分を忘れて殺意に駆られて行動に出てしまうかもしれない。

 いやまさかそんな、と笑い飛ばそうにも既に他の世界が消滅したというのであれば、ユーリが今考えたような展開からもっとえげつないような展開まで色々あったに違いない。


「ん? というか今更気付いたんだけど、世界神同士の殺し合いが駄目っていうかできないようになっている、というのであれば、邪神が頑張ってもメルの事をどうにかできたり世界が闇に沈もうとしています、とか女神が深刻な顔して助けを求める展開はないんじゃないの?」

「本来ならばそうなんじゃがな。その、例えば圧倒的に神としての力の差があった場合はその限りではないのじゃ……」

「あっ」


 察してしまった。したくなかったけれど。

 メルはベッドの上で姿勢を正し、そしてそのまま流れるように土下座へと体勢を移行させた。


「その、他の世界神の力が流出したという部分は実は以前から既に知っていたのじゃ。黙っていてすまぬ。

 ユーリならば大丈夫だと思ってはいた。いたけれど、それでもやはり怖かった。けれど流石にそうも言ってはいられぬ。

 報連相が遅れたのは妾の不徳の致すところじゃ。身勝手な事を、と罵ってくれてもよい。けれど、妾には頼れるのはそなただけなのじゃ。どうか、どうかたすけ――」

「いいよ」

「……即答すぎやしないか?」

 被せるようにして返された言葉に、メルは一瞬呆けてつい顔を上げてしまっていた。目に映るユーリは、怒るでも呆れるでもなく、いつも通りの表情で。


「元々そのつもりだったんでしょ。最初の時点で。私一人に全部任せて自分は高みの見物するね、ってタイプの神様なら私だってごねたけど、私一人じゃどうにもならないからメルも私を助けてくれるんでしょ? 今は手を貸してくれる人もいるけど、メルの助けも必要だからね。

 報連相が遅れたのは困るけど、それ以外は何も変わってないよね」


 言いつつユーリもすっと体勢を整えた。メルの正面でこちらも同じように――どころか五体投地する。

「そういうわけだから、私も助けてほしい……!」



 後日ユーリはこう語る。

 まさか転生してから二度も五体投地で助けを求める羽目になるとは思ってなかった、と。眠気による深夜テンションって怖い。

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