表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/219

気付くと大体死んでる



 メルの話によると、基本的に世界神同士で直接会ったりする事はあまり推奨されていないものの、まったく会えないわけではないらしい。

 神の箱庭。

 そう呼ばれる場所に行けば会えない事もない。

 ただし長時間の滞在はできないそうだが。

 何故、と問うとそこは調整神の管轄で長時間滞在されるとその分調整神の仕事が増えるとか何とか。

 調整神の仕事が滞れば最終的に世界神の誰かが割を食う羽目になる。調整神の仕事は世界神だけではどうしようもなくなった世界の歪みをどうにか正していく事なのだから。


 かつて、転生者の魂を送るという話もその神の箱庭でされたのだとか。


 その神の箱庭にメルは先程まで行っていたらしい。勿論身体はユーリがほぼずっと抱えていたので精神体だけで、ではあるが。


「ほら、前にその、メソン島であった出来事とか、ユーリは知っておったようじゃが、妾は知らなかったであろ? その時にユーリ、調整神にこの件について聞いた方がいいのでは、みたいに言ってて、それは妾も確かにと、ぐすっ、う、うえっ」

「あぁ、はい、ほら一回鼻かんで」

 ガチ泣きすぎて涙だけではなく鼻水も凄いことになってきたので、ユーリはそっと部屋にあったティッシュを差し出す。前世のボックスティッシュと比べると懐紙に近いが、手触りはそこまで悪くないので問題はないはずだ。


 何だか凄い音をさせながらも、メルは言われるままに鼻をかんで。

「う、うー、それで、じゃな。こうして妾は常にユーリと行動をともにしておるから、調整神のもとに行こうにも中々機会がなかったゆえに、どうしたものかと思っていたのじゃが。

 馬車の中で眠ったじゃろ? その時に調整神が意識に直接語り掛けてきたのじゃ。それゆえ、精神体ではあったが妾、すぐに箱庭に行く事にしたのじゃ。ユーリに何も言えずに行ってしまったのは緊急のことと何卒容赦してほしい」

「あぁうん、それはまぁ、仕方ないよね。私に言おうにもその時点で他の皆もいるから下手な事言えないし。

 ただ、あまりにも起きないからどこか悪いのかと心配はしたよ。その点は大丈夫、なんだよね?」

「問題はないのじゃ。じゃが、だがな?」


 神の箱庭での事を思い出しているのだろう。止まりかけていた涙がまたもや溢れ出す。乱暴に目元を擦ろうとしていたので、咄嗟にハンカチをメルの顔に押し付ける。できれば冷やした方が良かったのかもしれないが、そんな時間的余裕はなかったので我慢してもらいたい。


 つっかえつっかえではあるが、メルは箱庭での事を話し始める。






 ――精神体だけであったメルは神の箱庭に着いた時点で本来の姿になっていたが、それよりもあまりの静けさに嫌な予感がしていた。神の箱庭。普段は交流できない世界神同士がほんのひと時の交流ができる唯一の場。長居はできずとも、次に会う約束を取り付ければいいだけの話で少々不便はあれど多くの世界神は大きな文句を言う事もなく利用している。

 ここにはかつての世界神が残した記録もあるし、それらは調整神に閲覧の許可を求めなければならないが、そういったものを見にくる者もそれなりにいたのだ。誰かと会う約束をしなくても、来る目的はそれぞれにある。


 だからこそ、ここではいつ来ても最低限一人か二人、誰かしら姿を見かけていたのだが今は誰もいない。

 元々静かな場所ではあったが、ここはこれほどまでに静かだっただろうか? 静寂に妙な圧迫感さえある。

 こつん、こつんと自分の足音がやけにうるさく聞こえてくる。


 ある程度進んだ所で、光る石板のようなものが浮いているのが目に映った。

『よく来たな。突然の呼び出しに応じてくれて申し訳ないが、こちらも少々立て込んでいる。そのためこのような状態になるがそこは勘弁してくれ』

「い、いいえ、大丈夫です。その、何かあったのですか……? こちらとしても少々聞きたい事があるのですが」

 石板から聞こえてきたのは紛れもなく調整神の声。呼び出しておきながら直接出向く余裕はない、という部分でどんどん嫌な予感が増していく。


『聞きたい事、か。それよりも先にこちらの話からさせてもらおう。

 以前、転生者の魂を送り込むという話になったのは覚えているな?』

「はい、私の世界にも一人、転生者がいますから」

 これで覚えていないとか言ったらどうなる事やら。


『そうか、そうだったな。

 転生者が送り込まれた他の世界だが。ほぼ滅んだ。かろうじて生き残っているのは一つの世界だけだ』

「え……?」


 転生者が送り込まれた世界が滅んで、残っているのは一つだけ。すなわち、それは――

「私の世界以外、全滅……?」

『そうだ。その際に回収できた転生者の魂は、以前割り当てられなかった他の世界に転生するようにしたが……転生するまでにはまだ時間がかかる』


「あ、の、待ってください、本当に!? 本当にみな滅んでしまったのですか? だって、私の所以上に沢山転生者が送られた世界だって――」

 残りわずかな転生者の魂を巡ってカードゲームで争ったあの女神も、消滅してしまった……?

 あの女神とはあまり顔を合わせる事はなかったけれど、それでもたまに会うとそれなりに会話をする方ではあった。姉、というよりは悪友のようで。それに他の世界神達だって、性格に難はあれど性悪というわけでもなかった。皆、みんなただ生き残りたかっただけのはずなのに。


 リュミエールの問いに調整神は何も言わなかった。沈黙をもって答えだと返してきた。

「そ、んな……」

 声が震える。どうして。

「他の世界神の力がそれぞれの世界に流出した、と言ってましたが、それは、それほどまでに厄介な事だったのですか!? 転生者の力をもってしてもどうにもならない程に!?」


『彼らの世界は、やり方をことごとく間違えた。これは多くの転生者を迎えた世界神ほど顕著だったが、彼らは転生者の扱いそのものを見誤ってしまった。それ故に起きた結果だと言える』

「あまり多くを得られなかった世界神は、彼女は――」

『三人の転生者を迎え入れたあの世界神か? それならばかなり早い段階で滅んでいた。あの女神は待つことができなかった。こちらの言い聞かせた事を破ってまで転生者と接触してしまった。結果、三人の転生者はお互い協力しあうどころか反目し、争い合い、結果転生者の手によって死ぬこととなってしまった』


「えぇ……?」


 あまりにも淡々と語られていて、どうにも現実味が沸いてこない。それ以前にあの女神、何しでかしたの? 何で転生者同士で争うようなことに……?

 答えの出そうにない考えだけが、ぐるぐると回る。頭の中と連動するように、視界さえも回っているような気がした。気持ち悪い。どうして。何で。こんなことに。

 問いかけたところで答えのでるはずのない言葉ばかりが口から零れそうになる。

 聞いたところで調整神は淡々と事実だけを口にして、それは求めた答えとは違うものだろう。


『一応、伝えておいたほうがいいと思ってな。転生者の扱いをくれぐれも間違えないように肝に銘じておくといい。

 それで、聞きたい事というのは? こたえられる範囲でならばこたえよう。情報が必要であるというのであれば、開示できる範囲であれば教えよう』


 正直まだ頭の中では疑問ばかりが渦巻いていたが、時間は無限ではない。少なくとも、ここに滞在できる時間に関しては限られている。混乱しつつあった頭を無理矢理働かせて、何とか言葉を口にした。

 調整神がこの世界の可能性だとこちらに開示してきた、異世界では蒼碧のパラミシアと呼ばれるゲームとは別タイトルのゲームが同時期に始まっていた件に関して。それに関して問題は発生しないのかという、答えが出るかも疑わしい疑問。

 あまり長々と喋ると途中で話がまとまらなくなりそうだったので、なるべく簡潔に。少し言葉選びを間違えた部分があったような気はするが、概ね報告を兼ねた疑問は全部言えたはずだ。


『……ふむ、それか。問題ない。それはそちらの行動によってえにしが結ばれただけに過ぎない。人と人との繋がりは転生者にとってもプラスになる。成程、流石は唯一生き残っているだけのことはある。その調子なら心配する必要もなさそうだ』

「本当に、そうでしょうか……?」


 褒められているのだから素直に受け取るべきなのかもしれない。だが、その言葉は無意識に滑り落ちていた。先程まで淡々と一切の感情を排除したかのような声だった調整神が、僅かばかり声に喜色が混じっていたのを何故か素直に受け止める事ができなかった。

 声しか聞こえない調整神ではあるが、調整神からはこちらの様子が見えているのだろう。困ったように少しばかりの笑みをこぼし、それからすぐに感情のない淡々とした声へと戻る。


『素直に受け止められないのは無理もない。そちらは同胞を失ったのだから。けれど、事実は事実として受け入れるべきだと思う。これはただのお節介だ。深刻に受け止める必要はない。

 ……さて、多くの世界が消滅したが、生憎こちらの仕事は増える一方でな。消滅した世界神に関する事後処理にも時間がかかる。他に話す内容がなければ通信を切ることになるが……何かあるか?』


「………………いいえ」

 少しばかりの沈黙ののち、ゆっくりとリュミエールはかぶりを振る。

 訊くべき事はさっき言った。他に何か……と考えても自分の中で上手く言葉にならないものを、どう言えばいいのかまだ冷静になりきれない今のリュミエールにはわからなかった。


『そうか。……あぁ、そうだ。こちらでも少しばかり進展があった事を伝えておこう。そちらの世界に流れ出た他の世界神の力だが。

 ほぼそれが原因でそちらの世界が危機に陥っている事が確定した。

 転生者に負担をかけるかもしれないが、せめてそちらが上手く協力してやってくれ』

「え」


 言い終わるなり通信を切ったのだろう。光っていた石板はスイッチを切り替えたかの如くただの石板に戻り、そのまま支えを失ったらしく落下し――その衝撃で割れる前に溶けるように消えていった。

「いやあの、え? ちょっと、待ってください? もしかして、とは思いました。思ってましたよ? でもまさか本当に、そうなのですか……?」

 静かな箱庭に、ひたすら困惑したリュミエールの声が響く。だがしかし誰もいない箱庭で、そして役目を終えて石板すら消えてしまった状態でこたえてくれる者は誰一人としていなかった。


 それどころか、用が済んだのならさっさと帰れとばかりに精神体を追い出しにかかってくる。

 考えも感情も、心の中の色んなものを置き去りにするように弾き出されて精神は肉体へと戻る。


 そうして目が覚めたと同時に。

 メルの心は限界を迎え、どこかわからない場所で大声を上げて泣くわけにもいかず、ただただひっそりとボロ泣きするに至ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ