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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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寒い日のシチューは格別だから別腹です(大嘘)



 今が冬だという事は頭ではわかっていたはずなのだ。けれども特に雪が積もって一面銀世界というわけでもなく、手袋とかマフラーあたりの防寒具を装着してしまえば特に支障はない程度だったので、完全に油断していた。結論から言うと雪国舐めてた。


 正直な話、ボレアース大陸へ行くというのはわかっていたのだが。まぁ到着するのに数日はかかるでしょ、と限りなく楽観視していた。その途中でアイテムボックスの中の素材の毛皮をどうにかして防寒具に仕立てればいいかな、とゆるっゆるな考えをしていたのだが。


 馬車に揺られて洞窟からのまさかの当日到着。あのトロッコがなければ確実に数日は経過していたはずなのだが、外に出るとちょっと日が沈みかけていたが紛れもなく当日中の到着だった。

 雪が積もってはいるものの、くるぶしあたりまで埋まる程度で済んでいるのはまだここがそこまで北部というわけでもないからだろう。もっと酷い所は膝まで埋まるというし、下手をすれば埋まったまま身動きがとれなくなることもあるそうだ。

 あまりの寒さに生活魔術で周囲の気温調節する術を使ってみたが、気休め程度にしかならなかった。


「駄目だ、このままじゃ凍死まではいかなくても霜焼け必至。しかもメルがまだ起きない」

 とりあえずメルは毛布で巻いてあるが、移動するユーリたちは毛布をかぶって移動するわけにもいかない。動きにくいし、魔物が出た場合初動が遅れるのは命取りだ。


「この辺りは……ホワイトベアーの生息地ですねぇ。えーっと、あの山が多分メルクリオ山脈だと思うからぁ……こっちに行けば一応町があったはずですぅ」

「ちなみにどれくらいで到着できそう?」

 寒さで鼻水が出そうになり、思わずすすりつつ問いかける。

「そうですねぇ、今からだと休憩なしで急いでいけば……まぁ、日が変わる前には?」

 レシェが何とも不安げに首を傾げつつ言う。レシェ自身はボレアース大陸出身なので雪の上での移動も慣れているかもしれないが、慣れていない者がいるとなるとその分時間もかかると見越したのだろう。


「わかった。案内お願い」

 流石にいつまでもここで話をしているわけにもいかない。ボレアース大陸に着いたとはいえ、次の目的地というものは明確に決まっているわけではないのだ。ならばまずはどこか人里へ行く必要がある。


 クロフォードとしては穴が出るかもしれない所へ一刻も早く行きたいだろうとは思うが、流石に今の状態では準備不足としか言いようがない。ボレアース大陸と繋がっている、という情報は知っていたとしても、まさかこれほどまで寒冷地だったとは思っていなかったらしくよく見ると彼自身小刻みに震えていた。

 雪が降っていたものの、吹雪くまではいかなかったのが良かったのかもしれない。魔物との遭遇も片手で数える程度で済んだため、レシェが予想していたよりは少しだけ早く町に着いた。


 メルキュールという小さな町は、到着した時点でかなり静かなものだった。

 営業しているのはかろうじて宿屋が経営している酒場くらいか。それでも建物の外まで響く喧噪というものはなく、精々がかすかに漏れ聞こえる程度である。

 宿屋に駆け込みどうにか部屋をとる。合計六名ではあるものの、男女に分かれると四人部屋というのがないために三部屋とって分かれる事になった。


 メルは未だに眠っている。あまりにも起きないので体調不良を疑ってみるも、熱があるわけでもなければ顔色が悪いわけでもないので、医者でもないユーリには判断がつかない。

 ベッドにメルを寝かせて、とりあえずは一階の酒場へと向かう。アイテムボックスに食料はあったが、流石に外で食べるような余裕はなかったし、こうして人里に来たのだ。どうせなら出来立ての温かい料理がいい。


 別にユーリだって料理くらいはできる。けれど自分で作ったものよりも人が作ってくれたのを食べる方が好きなだけだ。自分で作れば自分の好きなように味付けできる、とは言うけれど、まず自分で作るのがめんどくさいんだ。料理って、後片付けまで含めて料理なんだよ……?

 それに何より、ここの宿屋の女将さんが作ってくれたシチューはおふくろの味とでも言おうか。どこか懐かしい優しい味がした。自分で作るシチューとはどこかが違っている。


 食後に温かいココアもきめて、今なら即座に横になれば眠りに落ちそうな気がする。移動の大半は馬車にトロッコだったが、それなりに疲れも溜まっていたのだろう。クロフォードは食べ終わると早々に部屋へ戻っていったし、テロスも眠気がきているのかどこか不機嫌そうな顔をしている。アリスとレシェはシチューのおかわりをしていた。

 それ三杯目ですよね……? と思わず二度見してしまったが、考えたら魔物が出てきた時率先して動いて切り込み隊長のような事をしていたのはこの二人だ。すっかり夜も遅く、普通の女性なら太るからという事で食べるのを控えるような時間帯にいい食べっぷりを披露していたので、宿の女将さんも、

「あらあら、一杯動いてお腹空いちゃったのねぇ。たぁんとおあがり」

 にこにこと笑いながら、これはサービスよとカゴにパンを盛って出してきた。


「あざーす」

「ありがとうございますぅ。やったねぇ、アリス」

「あっ、普通に食べても美味しいけどシチューにつけるともっと美味しい。どうしよう、もう一杯シチューおかわり頼んじゃおうかな。というかおかわりお願いします」

 悩む素振りをみせたのはほんの一瞬で、更なるシチューおかわりが発動した。


 多分放っておいたら鍋の中のシチュー全部注文し尽くすのでは? そう思える見事な食べっぷりだった。

 ……まぁ、レシェはさておきアリスは長い間棺桶に封印されたわけで。その間自分の時間というものが停止していたからそもそも空腹が続いていたとかではなさそうだけど、やっぱり本人に思う部分があるのだろう。足りない何かを取り戻すようだ、と少なくともユーリには思えてならない。


 女将さんは連れていたメルの分に、とポテトサラダを挟んだパンを渡してきた。できれば温かい料理を食べさせてあげたいけれど、ここもそろそろ店じまいする時間だから。

 そう言われてしまうと、何だか申し訳なくなってくる。そのそろそろ店じまいする時間帯にラストオーダー無視してませんか、そこの二人。いや、それは女将さんも気にしてなさそうだけど。

 ありがとうございますと礼をして、薄い紙で包まれたパンを手に部屋へと戻る。



 てっきりまだ眠ったままなんだろうなと思っていたユーリが見たものは、ベッドの上で静かに号泣するメルだった。

「うわっ」

 声もあげずにぼろぼろと大粒の涙を零しているメルに、ユーリはとりあえずどうしたものかと左右を見回しドアを閉めて鍵をかけ、

「ちょっと……メル? どうしたの? お店そろそろ終わるから温かい料理はもう出せないけどメルの分のポテトサラダパンならあるよ……?」

 そっと目の前にパンを差し出す。見た目がハンバーガーを包んでいるかのような感じだから、期待させると申し訳ないけれど。


「どこか痛いの?」

 目の前のパンにはあまり目を向けず、ただただ声もなく泣いているメルにお腹が空いて泣いているわけではないのか、と考えていやいやお腹が空いて泣くってどこのこどもだよと即座に脳内でセルフ突っ込みをしたものの、事態の解決には至らない。

 見た目は幼女だけど女神の年齢考えたらこども扱いは流石に問題がありすぎる。

「むしろ飲み物の方が良かった? そんだけ泣いてたら水分補給した方が良くないかな?」


 ふるふると首を横に振られたので、飲み物はいらないらしい。流石にどうしたものかと思い始めたのでいっそ他の誰かに飲み物を取りにいくついでに助けを求めようかと思ったのだが。

 ユーリは転生してからというもの、同年代はおろか年下の知り合いなんていないに等しい。故郷ではまず主人公がいなかったし、年下の少年少女なんていなかったのだから。

 前世のあたりまで記憶を引っ張り出してみても、そもそも兄と姉がいるものの自分より下はいなかった。親戚も同年代とか年上が多い。


 そういうわけで泣いているこどもをあやすなんて事は苦手以前にどうしたらいいのかわからなかった。

 見た目はこどもだが泣いている女性を泣き止ませる方法もやはりどうしたらいいのかわからない。


 わからないので、多分こういう時はこういうのが多い気がする、というふわっとした知識でもってユーリはメルのいるベッドに腰をかけて、メルを抱き寄せた。見様見真似の小さな子をあやすような感じで抱きしめて頭を撫でたり背中をぽんぽんと軽く一定のリズムで叩いていく。


「メル、私そこまで察しがいいわけじゃないから、言ってくれないとわからない。何があったの?」

 言われたからか、それとも人肌に安心したのか、声を出さないようにしていたメルが少しずつではあったが声を出そうとし始める。少しでも気を抜くと大声で泣き叫びそうになるのを堪えるように時々ひきつけを起こしているが、メルの中では少しずつ落ち着いてきたのだろう。ひっくひっくと泣く合間に、つかえながらも言葉を紡ぐ。


「いないのじゃ……いなくなっておったのじゃ……何で、なんで……っ」

 ぐりぐりと頭を押し付けて泣いている。正直そこはみぞおちに近い部分だから地味に痛いなーと思っているが、ユーリだって最低限の空気は読む。


「いなくなった、って……誰が?」

「妾の……わらわの……? ひぅ、ぐすっ、ほかの、世界神じゃ……」

「うん? ちょっとどういう事かわからなすぎて私どういう反応すればいいの?」

 メルが泣いているのだから、いなくなった相手はメルにとってそれなりに大事な存在のはずなのだが、何故かメルは一瞬だけ首を傾げていた。そのほんのちょっとの反応のせいで、ユーリもどう受け取っていいのかわからなくなってしまう。気付けばどういうリアクションをしてほしいのか、なんて今のメルにとってどうしろと、というような事を口走る始末。

 いやそれよりどちらかというとみぞおちのあたりで頭をぐりぐりするの本当にやめてほしいんですけれども、メルさん。

 心情を吐露しないだけマシだと思いたかったが、この場にテロスあたりがいれば間違いなく冷めきった視線とともに、

「どっちもどっちだと思うよ」

 そう、言い放っていたと思う。

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