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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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冬に雪の降る大陸へ行くってもしかして自殺行為じゃない?



 この世界、シエロヴェーラができたあたりまで話は遡る。

 広大な大陸にまだそれほど人はなく、領土を巡っての争いというのはその時はそれほどなかったのだが。

 どちらかというとその頃はまだ天使と魔族の二強時代だったとも言えるらしい。


 そもそも天使と魔族。相反する属性というべきか、基本的に仲が悪い。正直嫌な思いをするためにわざわざ相手をするというのもお断り、というある程度お互いが大人だったからこそ基本は関わらない、を両種族とも徹底していたのだが。


 天界も魔界も、正直言って娯楽と呼べるものがほとんどなかった。つまりおとなしく自宅にこもっていても暇なだけ。同じ種族の友人で遊びに行くとなると、もっぱら地上がメインとなる。当時の流行は人間観察だったそうだ。娯楽……? とそれを聞いていた一同は怪訝そうにしていたが、要するに人間が子犬のじゃれあいを見てるのと同じようなものだとテロスに言われ、それぞれが何ともいえないしょっぱい表情になる。

 人間が子犬のじゃれあいを微笑ましく見ているだけなら別に何ともないのだが、実際見ているのは天使と魔族で見られているのは人間である。途端に消える微笑ましさ。しかもそれが娯楽扱い。娯楽に囲まれていた前世を持つユーリがこの時ばかりは一番酷い顔をしていたと思う。


 当時は世界ができて間もない頃という事もあり、精霊たちも忙しく細かい部分に配慮はできていなかったのだろう。メルの表情から何となくそれが窺える。


 見守るだけなら問題はなかったが、暇を持て余した種族の遊びは人間にちょっかいをかけるまでに至る。それぞれからもたらされた知恵や知識、技術を使い人間は急速に発展していく。ちょっと爆発的に増え過ぎた感が否めないが、そうなると今度は快適に住む場所を巡っての争いが起きた。土地そのものに余裕はあれど、開拓がおいついていないためだ。争う暇があるなら開墾開拓しろよ、と思うだろうがまず快適な住処だ! とばかりに争って、結果焼けた土地もあるのだから本末転倒と言うべきか。

 まぁ、元気一杯開拓するぞと思ってもマトモに休めないような所で暮らしていれば開拓どころではない、という当時の人間の言い分もわからないではないのだが。


 色々やりすぎた天使に魔族は流石にこれ以上の介入は問題があると若干遅すぎではあったものの、大いに反省したようだ。ちょっとお互いがお互いにライバル視しちゃって人間に構いすぎたというのは理解していたようである。

 ちなみにこの時既に少数ではあったが人間とくっついた天使とか魔族がいたせいで、そういった者は流石に伴侶とこどもを置いて自分だけ天界や魔界に帰るわけにもいかず。

 そうした者たちはとりあえず環境が厳しくはあるが普通の人間はあまり住まない土地であるボレアースへと移住する事となる。


 さて、その件に関してはおさまったようだが、おさまらなかったのは人間同士の争いだ。

 土地に資源、労働力、目的のものは違えど奪うという点では変わらない。長きにわたる戦乱の幕開けである。


「もう随分昔の話だけど、異界の門っていうのが作られたんだよね」


 テロスのその言葉に思わずユーリは反応していた。

 異界の門。聞き覚えある……ゲームで。タイトルは確か、紅の輪舞ロンド

 なんてこったあの話もまさかこの世界が舞台だったのか……! 広い世界の各地を舞台にするとなると、ゲーム製作者は楽なのかもしれないけど、ちょっと流石に詰め込みすぎではないですかねぇ……! ゲームは異文化交流とかいう交流とは……? って言いたい感じのが原因であったとしても。

 テロス曰く、随分昔との事だから流石に登場人物までは出てこないと思うが。あの話に出てくる長生きして今も生きていそうなのって魔導生命体の身体の中に魂を入れられてしまった天使だけだと思う。身体が維持できていればだけど。


「当時はまだ魔術っていうのもあまり浸透してなくて、地域によっては異端だなんだで迫害されていたらしいんだけど。じゃあそうなると人間同士の争いって基本的に武器振り回すのがメインだろう? そこでより強力な武器を作ろうとした結果、魔剣を生み出してしまった者がいた。

 その製造方法が、異界の門から呼び寄せた魂を剣に封印するっていう、今から見れば完全な邪法だよね。しかもその魂の大半は魔界の魔族を強制的に、っていうんだからある意味凄いと思うよ。

 しかもその魔剣を作り出した国は迫害されていた魔術士を受け入れてた事もあり、戦力は増強される一方。当時にして最大の軍事国家となったわけだ。滅んだけど」


 かなり端折られている気がするが、テロスの話は確かにゲームの内容通りではある。

 主人公が幼い頃に別れてしまった友人がその魔剣を作り出した張本人だったはずだ。最終的に彼は異界の門に飲まれ行方不明になったんだったか。主人公は仲間とともに友人を探す旅にでる、あたりでゲームは終わっていた気がする。続編でそうと思いつつでなかったタイトルである。どう考えてもスタッフは続編考えて作っただろと信じていたのに。


「異界の門もその時に壊されたから本来ならそこで終わるはずだったんだ。ただ、完全に壊れたわけじゃなかったらしくてね。それからというものその国を中心として時々時空のひずみというか、穴としか言えない物が発生するようになった。門が壊されてすぐの頃は特に。

 改めて門を破壊しようにも、門そのものは既にないから壊しようがない。魂だけとはいえ強制的に召喚するようなものを不完全に残したようなもの、っていうとまぁ危険性はなんとなくわかるかな?

 それでももう随分前の話で、穴が発生するのは最近じゃほとんどないと言ってもいい。

 そしてその穴にうっかり不幸にも落ちたのがカリンってわけさ」


「最近じゃほとんどないはずの穴に三度も……カリン運悪すぎない?」

 ゲームの主人公やってるとそういうものも引き寄せてしまうんだろうか。常人なら死んでるところを生きていたのは主人公補正が仕事したからか。

 そう考えるとシュウは大丈夫なのかと途端に不安しかない。


「その穴は異界に繋がると言われているけれど、実際はどうなんだろうね? カリンの話だと一度はボレアース大陸の北部あたりに行ったんじゃないかって思うけど。

 あぁそうそう、異界の門があったあたりは今は湖になってるから行っても何もないと思うよ。穴の話が今そこまで知られていないのは、穴が出現するのが大体湖周辺からボレアース大陸の辺境あたりだから被害に遭う人もそう多くなかったんじゃないかな。

 今回は……凄い確率で事故に遭遇したようなものだと思うけど」


「へー、そんなんあったんだ。詳しいな?」

 話を聞きながら餡掛け焼きそばを黙々と食べていたアリスが感心したように言う。

「あ、聞いてたんだ」

 テロスも完全に食べるのに集中していると思っていただけに、アリスが話を聞いて理解しているという事実に驚いている。


「長く生きてる種族ならこの話は割と有名だよ。一番詳しいのは魔族だと思うけど。何せある日いきなりどこからともなく魂引っこ抜かれるっていう事件なわけだからね。あの国が直接魔族によって滅んだわけじゃないけど、異界の門周辺はかなり警戒されてる。

 話によると魔族だけじゃなく、天使も同じ被害に遭ったらしいからね。情報収集は欠かさないんじゃない?」


 長く生きてる、という部分で思わずメルを見てしまったが、ユーリの視線に気づいたメルはそっと首を横に振った。

 世界ができて間もない頃、精霊も大忙しなら女神もそうだったのだろう。そしてその後も天使と魔族のやらかした諸々で色々と大変だったに違いない。

 何だか世界を創造した女神というと、遥かなる天上界でワイングラス片手に下界を優雅に眺めている印象があったりもするのだが、実際は小間使いとか雑用とかよりも酷いのではなかろうか。

 世界を維持するのは生きる事と同義なため、さぼるなんて自殺行為だし精霊が助けてくれるとはいえお互い一蓮托生も同然。考えようによっては下手なブラック企業より酷いのではないだろうか。人間関係がそこそこ円満なのが心の救い、みたいな。人間というより精霊なわけだが。


「つまり、魔族に聞くのが一番手っ取り早い、と」

 話の合間合間にかに玉チャーハンを食べていたクロフォードが、そっとスプーンを置いた。

「そうかもしれないけど、そのためだけにボレアース大陸に? 着く頃には運が良ければ先輩とやらがまた穴を通って戻って来る可能性の方が高いのに」

「その穴に落ちて、必ずまた戻って来る事ができるなら待つという選択肢も有りだとは思います。でも、絶対じゃないはずだ」

「相手が人間であるなら、魂引っこ抜かれる事もないよ。あの門はほぼ魔族に狙いを定めていた。天使も危険ではあるけれど、それ以外の種族にとっては無害なんだよ。穴に落ちさえしなければ。そして落ちた者は高い確率で戻ってくる。怪我の度合いは本人の運次第だけど」


「穴とやらが事実ならアカデミーは無関係だ。でもだからって大っぴらにできる話じゃない。

 それでも、何もしないのは僕の流儀に反する。手がかりがあるのならボレアース大陸だろうと何だろうと行ってやるさ。なに、別に地の果てまで行くわけじゃないんだ。大した距離じゃない」

 言うなり立ち上がる。その手には伝票が握られていた。


「出発は明日の早朝。待ち合わせはこの街の入口。――巻き込まれてくれるんだろう? しっかり協力してもらうよ」

 言うだけ言ってクロフォードは一足先に行ってしまった。


「そういや巻き込まれてあげるって言ったもんねぇ。それじゃあ仕方ないか」

「あのねユーリ、いやまぁいいけど。どうせそのうちボレアース大陸に行く事にはなってたんだろうし」

「よし、テロスのお説教は回避できたぞ!」

 わーいやったー、と両手を上げて喜んだがあまりあからさまな行動すぎるとテロスの怒りを買いそうなので即座に手をおろす。

 ギリギリセーフだったのか、テロスからは冷ややかな視線を向けられただけで済んだ。



 しかし、明日出発、はいいものの、クロフォードの家は確かにそれなりにお金持ちではあったが船は持っていなかったはずだ。馬車を手配したとして、港町まで行ってもボレアース大陸行きの船は出ていただろうか……?

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