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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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恋愛フラグは立ちません



 どうしてこうなった。

 それが、ユーリシアの嘘偽りない今現在における心境であった。


 レシェとクロフォード。二人が知り合いであるという事実に驚いたのは確かだ。

 そもそもゲームでは何の繋がりもない。同じ世界を舞台にしたゲームであっても、他作品のキャラと繋がってそうなキャラというのはほとんどいなかったのだ。それ以前に時間軸も曖昧だったし。

 もしかしてこの人はあのキャラの子孫とかそういうあれかな? と思うようなのはいた。しかし明確にそうだと断言されていないのだ。あくまでも匂わせるだけ。


 親戚なんです。そうレシェに言われた時、ユーリは嘘だろ、と目が即死んだ。接点として考えると家柄とかそういう繋がりはあるかもしれないが、そもそもレシェは北の大陸出身で、クロフォードは西の大陸出身だ。大陸間を超えてなお交流があるというのは、珍しい事ではないがそれにしたって作品という枠を超えてという部分を含むとちょっと待ってと言いたい。


 そもそも待ち合わせをしてまで会おうとしていた人物と合流した時点でユーリたちは立ち去ろうとしたのだ。だがしかし、丁度いいから、と何故か巻き込まれた。クロフォードに。何一つ丁度良いことなんてないと思っている。



 そうして連れていかれた先はデパートの外。中華風の建物でも一際目立っていた店だった。

「流石に甘い物ばかりだとどうかと思ったからね。とりあえず点心あたりはお勧めだよ。量も多くないし」

 まだ食えと。

 クロフォードなりの優しさなのだろうとは思うが、いかんせんもう少し時間を空けて欲しかった。小籠包とか確かに美味しそうではあるけれども!

 ガラス製の茶器の中でふわりと花を咲かせているお茶とか確かに飲みやすいけれども。


 事前に予約でもしていたのか、案内されたのは個室である。レシェと二人で会うにしては広い個室だが。

 有無を言わさない流れでクロフォードは名前を名乗ると、こちらも名乗らないわけにはいかない。ユーリとしてはしぶしぶ自己紹介をしつつ、まったく先の見えない事態に警戒するしかない。


「見た所君たちは旅人だよね? あまり物々しい雰囲気もないからギルドで一旗、って感じでもない」

「一部ギルドに登録してる人はいるけど、まぁそこまで躍起になってはいないかな」

 テロスがこたえる。

「ところで君たちはどこから? こっちに来たのはいつ頃?」

「世間話か? 生憎そういうのは間に合ってるんだ。回りくどい事をしないで簡潔に言ってくれないか」

 次にこたえたのはアリスだった。


 確かにクロフォードの目的がわからない以上、軽い世間話程度のものから本題に入ろうとしているにしても……とは思う。自分たちの情報は明かしたくないけれど、こちらの情報は欲しい。そういった思惑も薄々とだが感じられるせいで、余計にアリスが警戒した気がする。

「おや、思った以上に案外鋭い。馬鹿面晒した騙しやすい連中かと思ったんだけどなぁ」

「本性さらけ出すの早すぎやしませんかねぇ!?」


 ユーリが突っ込むのはもう仕方のない事だった。そもそもこちらはゲームとはいえクロフォードがどういった人物かというのは既に知っているのだ。さっきまでさも人のよさそうな顔をして話をしていたが、裏では何を考えているか……本当に、何で選択肢次第とはいえカリンとアリエルはこいつとくっついたんだ。

「レシェ、君この人たちに僕の事話した?」

「いいえ、人と待ち合わせをしているとは言いましたけど、貴方の事なんて詳しく言うわけないじゃないですか。説明しがたいですし」

「ふーん、となると勘はいい方、って事かな? わかった。簡潔に話そう。

 人を探している。そしてその情報が欲しい」


「人、ですか? ギルドに行った方が早くない?」


 ユーリの言葉はもっともだった。まず人を探すならギルドの方が目撃情報も集まりやすい。例えばメルのようにいもしない両親を探すとかいうのであればともかく、本当にちょっとした情報でも欲しいというのであればギルドに足を運ぶ事は決して損にはならない。


「それがちょっと特殊案件でね。下手するとアカデミーが色々と……うん、一部の馬鹿のせいでホント何一つ悪くない生徒が可哀想な事になるんだ。っていう部分であっても君たちが周囲に漏らそうものならやばいんだけどね?

 仮に君たちが何も言わなかったとしても、その情報がどこかから漏れれば当然疑いは君たちにも向けられる」

「えげつないの。つまりあれじゃな。そなたがどこかで情報を漏らしたついでに妾達を巻き込むと。そういう事かえ?」

「おいクロフォード!!」


 だぁん、とテーブルに手を叩きつけ、レシェが立ち上がった。レシェからすればせいぜい藁にも縋る思いで情報が欲しいからユーリたちも連れてきた、程度の認識だったのだろう。だがしかしこれは、協力してほしいというよりは明確な脅しである。


「ごめんね。こっちもちょっと余裕なくて。強引だろうと何だろうと、とにかく手を貸してほしい。下手に話だけ聞いてやっぱりやめておきますね、じゃ困るんだ」


 強引ともいえる手段に怒りを見せたレシェだったが、クロフォードも負けてはいなかった。殺気、とは違うが冷え冷えとした何かがクロフォードから発せられている。敵意ではない。決意か、後悔か。

 その目は確かに何かを覚悟した者の目であった。


 厄介な事に巻き込まれたなぁ、というのを一切隠さず表情に出していたのはテロスとアリスだ。メルは何かを探るようにクロフォードとレシェを見ている。そしてユーリは――


「うん、いいよ。巻き込まれてあげる」


 にこりと微笑んでいた。ユーリがそうくるとは思っていなかったのだろう。テロスが反射的に二度見する。

 何も知らなければこの状況、ユーリだってうわめんどくさっ、と思っている。けれども目の前にいる人物はゲームでとはいえ知っている人物なのだ。

 クロフォードに関しては、特に。別に気にいっているキャラではない。ただ、ゲームのクリア達成率を埋めるためにはシナリオを隅々まで見なければならないわけで。そうなると、わけのわからないキャラであってもそこはかとなく愛着は生まれるわけで。


 あの、行動基準がいまいち理解しがたい存在だったクロフォードが、よくわかんないけど何かの目的をもっている。そのために他人であっても利用する事を選んだ。頼りにしていたのは先輩と呼んでいたシュウくらいだったのに……手段はさておき他人に頼る事を覚えたんだね……ほろり。

 最早完全に母親の心境である。血の繋がりなんてもの一切ないが。

 そして確信する。クロフォードがこういう行動に出たという事は、まず間違いなく雄黄のファーブラそのものは終了しているのだと。

 目的のためになりふり構わない、というのは雄黄のファーブラでのクロフォードにはないものだった。

 うっかり巻き込まれて化物と戦ったり死ぬかもしれないフラグは消滅している……!

 先程見てきたデパートも、店内に戦いの跡といったものは見受けられなかった。それならば原作終了してからそこそこ時間経過していると見ていい。


「え、ちょ、ユーリ、いいの? よく考えて!? クロフォードが何抱え込んでるか知らないけど、間違いなくめんどくさい案件だよぉ!?」

 レシェが騎士っぽい口調と本来の素が混じりつつも問うてくる。クロフォードの前で取り繕う余裕も消えたのだろう。レシェにとってはそれ程までの衝撃であったようだ。


「何抱え込んでるかっていうのはまだ聞いてないからわからないけど。でも、頼れるのが身近な人じゃなくて他人しかいないっていう中で、じゃあ一人でどうにかしようって思うかもしれないところをそれでも自分一人じゃどうしようもできない、って思ったから他人を巻き込む事にしたんでしょう?

 たまたま見知ったレシェと一緒にいたからって、本来見知らぬ他人なんてそう簡単に信用できないけどそれでもそうする他なかった。

 つまりそれくらい追い詰められてるって事じゃないの?」


「え、そうなの? クロ、そこまで酷い案件だった? 相談したい事って」

「勘がいいにしても、限度ってあるよね……」


 えっ、当たってた? ユーリとしてはそんな心境である。それっぽく適当にこじつけただけなのだが、どうやらクロフォードの内心に割と当てはまっていたらしい。一気に疲れ果てたようなぐったりした口調でそれだけを呟くと、かたりと小さな音をたて、椅子を蹴って立ち上がる。

 そうしてユーリのすぐ近くまで移動すると、クロフォードは唐突に膝をつき、ユーリの手を握った。


「結婚しよう」

「だが断る」

 迷う間もない即答だった。

「そうか。残念だ。こんなにも僕の内面を理解してくれる人はそういないと思っただけに」

 すっと手が離れる。お試しで言ってみました感が凄い。

「いや、正直内面を理解とか無理じゃない? 初対面だからね?」

 ゲームで見ていたけれど、それでもクロフォードに関して理解できるかというととてもじゃないが無理がある。正直そこら辺の魔物と意思疎通してみせろと言われた方がまだ簡単に思えるレベルだ。


 しかしクロフォード、選択肢次第ではカリンやアリエルとくっつく男。まさかここで唐突にプロポーズしてくるとは思ってもみなかった。正直ユーリからすれば恋愛フラグより死亡フラグが立った気分であったが。


 即答でお断りされたにも関わらずクロフォードは平然としたまま椅子に腰を掛ける。


「結婚は駄目でも協力はしてくれるらしいから、ちゃんと話をさせてほしい。

 まず事の発端は――」

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