続編が出てたら大体前作主人公が死んでるやつ
クロフォードが語った事の発端とやらは、ユーリが知る雄黄のファーブラの内容とほぼ同じであった。ちなみにその事件が起こったのは先月だそう。思ってたよりは最近だった。
アカデミーで研究されていた魔導生命体が間違ってこちらに送られてきた事。
タマゴであったそれが孵化してしまった事。
アカデミーから研究員がそれを回収しに来た事。
ゲームと違うような部分もあったが、細部まで何もかもゲームと同じであるわけがないというのはユーリも理解している。ゲームならそういう表現をするであろう部分であっても、現実だとそういうわけにもいかないというのはわからなくもない。
最終的にその魔導生命体を撃破して、デパート内部に被害が出てしまったものの建物の損壊はそうでもなかったらしく。一部の店は一時的に閉店を余儀なくされたものの、修理自体は数日で終わり今現在は何事もなかったかのように営業している。
そうした事はあったけれど、今はもう平和なもの。ゲームの後日談としてならそれで終わるのだが。
現実はそうではなかったようだ。
事件が起きた三日後だったか。カリン・セルシオンが行方不明になった。それに対して発狂したのは当然彼女に想いを寄せるシュウ・クリムゾンだ。
当日の彼女のシフトは一日中勤務であったため、デパートの開店から閉店まで。そして帰りに行方をくらまし――翌日、出勤していないカリンがてっきり自宅で倒れている可能性を考えて、カリンと仲の良いアリエルが家を確認しにいったがカリンが帰ってきた形跡はなかったらしい。
そうして当然の事ながらその次の日も次の日も、カリンは来なかった。
これに対してシュウは、
「くそっ! なんて事だ、カリンの自宅はここから近いのだからまぁ大丈夫だろうなどと思わず素直に家につくまでを見守っておくべきだった!!」
と、大層後悔していたようだが、それは世間でストーカーっていうんだぜ……? とは生憎その時そこにいたクロフォードは突っ込む事すらしなかった。
そこは家まで送るとかじゃなかったのか、と聞いてみたところ、
「先輩にそんな度胸があるわけないじゃないですか。それができてればとっくに告白の一つや二つしてさっさと玉砕してますよ」
クロフォード、まさかの即答である。本当にお前はその先輩を尊敬しているのかと問いたい。少なくともユーリの知ってる尊敬している先輩に対する態度ではないという事は確かだ。
「カリンの行方を捜すために先輩はそれはもう尽力しました。職務放棄をするわけにもいかないため時間は限られていましたけれど、ギルドにも依頼が出てたんですよ。先輩普段お金使う事あまりなかったようですから、それこそ金に物を言わせた人海戦術ってやつです。
その結果、カリンは発見されました。無残な姿で」
「えっ!?」
「あぁ、生きてはいますよ。一応」
「言い方」
無残な姿とか言われたら大抵は死んでるのを想定するのでは……? いや絶対今誤解を招くとわかってて言ったでしょ、と詰め寄りたいが相手はクロフォードだ。素手でクラゲを掴むような命知らずな真似はしないに限る。
「もう一つ。一応、カリンは女性ですが考え得る限りの女性に対しての凄惨な事というのはされていないようです。先輩が聞いていれば安堵の涙を流し天に祈りを捧げ女神への賛歌を高らかに紡いだ事でしょう」
「キミのその先輩とやらに対する扱いがわからないんだけど」
テロスが眉をひそめる。ユーリとしてはテロスでもやっぱわかんないかー、と意味もなく頷きたいところである。
「ちょっと待て、先輩が聞いていれば、というのはつまり、そのシュウというやつはギルドに依頼を出したのにカリンの無事を確認できていない?」
「その通りです。ギルドに対しての報酬金は支払われているので借金取りが如く冒険者が押し寄せたりはしていませんが、カリンが発見される前日に、今度は先輩が消えました。僕が探しているのは先輩です。
あぁ、ちなみに先輩が消えて七日経ってます」
「さらっと言ってるけど、結構なおおごとでは……?」
前世の割かし平和な世界でだって七日も行方不明になってたら事件に巻き込まれてると思われるか最悪死んでる可能性も疑われる。それでなくともこちらの世界、魔物が普通にそこらをうろついているのだ。何かの拍子に街の外に出て魔物に襲われて死ぬ、という展開はないわけではない。
「さて、先輩がギルドにカリン捜索を依頼していたのに先輩に関してそれができない理由を言いましょうか。
アカデミーが関わってる可能性があるんです。そのためアカデミー関係者ではない者を多く関わらせると、最悪アカデミー閉鎖の危機です。そうなると何の罪もない学生が行き場を失いますね。姉妹校でもある魔術学院に生徒受け入れの要請をするにしても、大陸を超えてあっちに行ける生徒はそう多くありません。結果としてアカデミーが閉鎖するような事態になると、大半の生徒が困るような気がするんですよねー。
まぁ卒業した僕からしたら関係ないけど」
最後の一言がとても余計である。だがしかしそれを言い切るあたりがクロフォードらしいというかなんというか……
「ちょっと待て、何故アカデミーが関係している可能性がある、と?」
「あぁ、レシェ、その中途半端に取り繕う口調やめて大丈夫だけど。むしろ笑いをこらえるの大変だから早いとこ戻してくれる? まぁどっちにしても笑うけど」
「…………そうですかぁ? それじゃあ戻すついでに一つ言わせてもらいますぅ。
月夜ばかりと思うなよ、どころか太陽が昇っているから安心だなんて思わない事ですぅ。背後はおろか側面正面上面と、ありとあらゆる方向に気を配る事ですねぇ」
「めんどくさいから奇襲攻撃かけるなら素直に背後からきなよ」
「…………そういや小耳に挟んだんですけど、クロフォードってアカデミーで生徒してた時、パンいちで屋根に突き刺さったってホント? 深夜だから目撃者はそんなにいなかったらしいけど」
がたぁぁぁぁあああん!!
ユーリの放った言葉にクロフォードは椅子ごと盛大に倒れた。倒れて床に転がって両手で顔を覆っている。
「ああああああ僕の黒歴史が! はぁ!? 何それどこ情報!? 誰が言ったのそれ、今すぐ消しに行かなきゃ!」
「小耳に挟んだだけなので誰とか知らないです」
実際はゲームからの情報ですが。レシェも流石にそれは知らなかったのだろう。ほんの数秒前まで険悪な雰囲気だったはずが、途端に憐みの表情を浮かべている。
「わかった心当たりのある同期はそのうち消す事にする」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら立ち上がり、倒してしまった椅子を元に戻してクロフォードはユーリの前までくると、またもや膝をついた。そして再び手を取る。
「結婚しよう」
「だが断る」
「どういう経緯かわからないが僕の黒歴史を知る以上野放しにしておくのもなって思ったけど、やっぱダメか」
「プロポーズの動機がさっき以上に酷い」
お試しで言ってみただけ感が凄かったので、今回も断られると同時にユーリから離れる。
「ちなみに今のは奇襲攻撃を正面から仕掛けてみただけなんだけど。レシェと言葉遊びするのは後にして話の続き、いいかな?」
「もしかして僕は敵に回してはならない相手を味方に迎えようとしている……?」
「納得いかないみたいに首傾げてるけど、それが事実ならとても心強いものなんじゃないの」
うっかり黒歴史暴露あたりから、テロスのクロフォードに向ける視線は完全に馬鹿を見る目である。おかしいな、ゲームではもうちょっと賢さがあったような気がするんだけど。頭はいいけど馬鹿、というよりは頭良すぎて常人には理解できない、みたいな感じの。
思った以上に話が横にそれてしまったためか、一旦仕切りなおそう、という事でお茶の追加を注文して。
新しいお茶がそれぞれの目の前に運ばれた後、クロフォードも多少は気分が落ち着いたのかようやく話を再開させる。
「アカデミーが関わってるかもしれない、って所までだったね。まず最初に行方をくらましたカリンだけど、彼女は別に街の外には出ていなかったそうなんだ。カリンは行方不明になる前、仕事終わりにアカデミーへと立ち寄った」
「アカデミーってそんな遅くまでやってるものなのか?」
「授業はやってないけど研究棟とかは時間関係なくやってるよ。事実カリンが訪れたのは、そこに所属する研究員だ」
クロフォードは説明をざっくりと省いたが、カリンが訪れたのはメヴィメリルの所だった。カリンが行方不明になった時に最後に会った人物として一応メヴィからも話を聞いたらしい。シュウが。
メヴィは何故デパートの方に魔導生命体のタマゴが送られたのか、という疑問を抱いていた。普通に誰もが思う事だからそこはおかしくもない。そうなると次は誰がそちらへ送るようにしたのか、という疑問になる。
最初にタマゴが入っていた箱を受取ったのは、カリンだった。アカデミー行きの荷物が紛れてこちらに来たのだろうと気にも留めていなかったようだが。
「少しいいか? アカデミーからデパートに送られてきたのではなく、アカデミーに送られるはずだった、というのはつまりどこから送られたものなのじゃ?」
「アカデミー内の研究棟じゃない別の所の研究所だけど。今回はベルンシュタインの研究施設だったかな」
話の腰を折られたものの、クロフォードは気にした様子もない。当然その疑問に誰かは口を出すだろうとあらかじめ把握していたからだろうか。
「で、色々と探してたらその間違った伝票が見つかったらしくて。それをメヴィに届けに行ったみたい。カリンはその後消息不明。アカデミーを出た形跡もない。
にも関わらず発見された場所は街の外だったんだよね。誰かに連れ去られたにしても不自然すぎるし、そもそも発見された場所はここから北に進んだ所にある洞窟手前。徒歩で行くなら十日はかかる距離だ。
先輩がギルドに依頼を出した時点で捜索しに行った冒険者はそれなりにいるし、何ならそこで発見されるより前に発見されていたっておかしくないのに誰も洞窟手前までの範囲でカリンを見かけた者はいなかった。
自力で行くのもおかしいし、誰かに連れ去られたにしてもそんな場所に放置する意味がわからない」
そこまで言うとお茶をぐいっと飲み干して喉を潤す。まだ熱かったのか、眉間に皺が寄った。
「大怪我をした状態で発見されたカリンだけど、ちょっと前に意識を取り戻したみたいだから話を聞きに行ったんだ。そしたら彼女、アカデミーから出る前に別の所に行ったっていうんだよ。
しかもそこで先輩と会った、とも」
「えぇえ? じゃあ今いない先輩の居場所とか既にわかったも同然じゃないですかぁ。それで、どこに居たんですかぁ?」
その話が本当ならば、確かにレシェの言う通り既に解決の兆しが見えている、はずだ。けれどクロフォードの様子からはそういった感じが一切しない。
「どこだと思う? カリンはこう言っていたよ。
まるで地獄のようだった……ってね」




