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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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全ての女性が別腹を搭載しているわけではない



 砂糖がまぶされた普通のドーナツにチョコレートがかけられたドーナツ。チョコの種類はビターにホワイトそしてストロベリー。チョコだけがかけられた物の他に、更に砕かれたナッツがたっぷりくっついている物もある。クリームの入ったドーナツに、あんドーナツ。オールドファッション。かぼちゃやさつまいもを生地に練り込んだ物。エトセトラエトセトラ……様々な種類の味のドーナツがあるため、意外と飽きはこないがいかんせんどれもこれもがドーナツである。

 ずっしりめから軽い食感まで。美味しいが、揚げ物である。それなりにお腹一杯、という状況になってくるともうドーナツに手を伸ばそうと思えなくなってくる。無理をして食べれば胃にとんでもないダメージがきそうなので、自身の健康を考えると余計に手が伸びない。


 それでもユーリはかなり健闘した方だった。メルはユーリの半分程でギブアップしたし、テロスに至っては更にその半分程で食べ続けている面々を信じられない生命体でも発見したかのように見ている。

「女性の甘い物は別腹っていうアレ、本当なんだ……別腹ってどこにあるの? 亜空間? 女性の別腹はアイテムボックスと同じ存在だった……?」


 テロス自身、そこまで甘い物が苦手という事はなかったがいかんせん量が多すぎた。

 用法容量を守って甘い物を摂取する分にはドーナツだろうがケーキだろうがアイスだろうがどれでも美味しく頂けるが、限界を超えるギリギリまでいけば身体が勝手に拒絶反応を示しだす。

 結果としてドーナツ屋の二つ隣の店でブラックコーヒーを注文して現在それをちびちびと飲んでいる。


「流石にアイテムボックスにはなり得んよ、別腹というのは言葉の綾のようなものじゃからの」

「だろうね。それくらいボクだって知ってるよ。でも、そう思えるようなこの状況にちょっと言ってみるくらいいいじゃないか」

「うむ、まぁ、気持ちはわからんでもない。何事も程々が一番じゃな」

「だね。ユーリもそろそろ限界みたいだし。しかしそれでもようやく半分か……まだ半分も残ってるとか」


「そこはもう半分も食べたって言って欲しかったかな」

 そう言うとユーリはあらかじめ用意しておいた飲み物を口にする。ブラックコーヒーでも良かったのだが何となく胃にダメージを多く受けそうだったので、ミルクを追加したものだ。


「それにしても、以前どっかで聞いた話なんだけどさ。前向きな人と後ろ向きな人の話っていうのがあって。

 例えばコップの中の飲み物をね、半分飲むじゃない。そこでまだ半分あるって思う人が前向きで、もう半分しかないって嘆く人が後ろ向きっていうのがあったんだけどさ。

 今回の件に関してはまだ半分もあるって思うの後ろ向きじゃない? もう半分しかないんだよ? あと半分で終わるんだよ?」

「でもそこでダウンしてたら結局あと半分が終わらないだろ」

「ですよねー」


 テロスが同意を示してくれないのは言う前からわかりきっていたので別に心が痛いとかそういう事は全くない。むしろ予想通りの反応すぎて安心したくらいだ。


 脱落組はなおもドーナツを頬張っている二名を見た。

 アリスはあまり表情には出ないが、ちょいちょい口元が笑みの形になるのでドーナツそのものはお気に召したようだ。正直しばらくドーナツはいいかなと思っているユーリですら、ここのドーナツは美味しいと思ってはいる。だからといってこの量はどうかと思うが。


 もう一人、アリスが誘ってきた女性はある意味で予想外だった。

 こちらも幸せそうにドーナツを食べているが、その顔にユーリは見覚えがあったのだ。

 ゲームではこんな場所で遭遇する事はない。というかそもそも商業都市は来ても目ぼしいアイテムが売ってるとかイベントがあるとかがないのだ。当然ここで仲間になるキャラと出会う事もない。


 だからこそ遭遇したという事に驚く。


 後ろ姿からして騎士のような衣装だなと思っていたが、正面から見る事になった彼女はまさしく騎士のようだった。とはいえ、鎧といったものは特に身につけていない。実戦向けというよりは儀礼的なものだ。

 美味しそうにドーナツを食べる姿は正直想像すらしていなかった。ゲームでの彼女はあまりそういったキャラではなかったから。


 レシェ・プリムローズ。蒼碧のパラミシアに登場する仲間キャラである。

 本来ならば彼女はボレアース大陸で出会い仲間になる、ゲーム製作者曰く白雪姫モチーフのキャラである。

 とはいえ白雪姫との共通点は雪のように白い肌とか美人であるとか、その程度なら他のキャラでも当てはまるのでは? と思えるようなもので、あとは精々実家が果樹園とかそれもうこじつけでは? といったものだが。


 ユーリが前世でゲームをプレイしていた時に彼女の事は仲間にしたものの、他のキャラの好感度上げに勤しんでいたし順番に育てていこうと思っていたので放置状態だった。そのため彼女がどういう人物なのかというのは正直わかっていない。

 ゲームではクールな女性騎士といった感じだったはずだ。一切の弱みを見せず、隙のない女性。

 なので今現在幸せそうにドーナツを食べている彼女とゲームでの彼女が一致せず、ユーリの中で別人説が浮かび上がりつつある。

 いやでもさっき自己紹介したよ、間違ってないよ……と即座に別人説はセルフ却下されたが。


 彼女が仲間になる経緯は実家の果樹園が魔物に襲われているのを助けるという、とてもよくありそうで安直な流れからだ。それ以前に過去魔物の襲撃にてそこそこの功績を上げていたらしく、階級は一番下ではあるものの騎士の称号を得ているので決して彼女はなんちゃって騎士ではない。

 正直前世ではくっ殺系薄い本の餌食になりそうなキャラだという感想しか抱いていなかったのだが、こうして見ているとあまりそういうイメージはない。


 そうしてユーリたちが見守る中、アリスとレシェは見事にドーナツを完食してみせた。周囲でどよめきがおきる。


「マジか……あの満腹セットを食べきった……だと……!?」

「以前あれを食べた奴は八人で挑戦してどうにか食べたけど、四日ほど胃が食べ物を受け付けなかったっていうのに……」

「すごい……あの人たち、すごい……メリッサ、仇はとれたよ……!」



 誰だメリッサ。気付かれないように視線を巡らせると、ワッフル食べてきゃっきゃしてたアカデミーの学生だった。そうこうしているうちに他の学生たちや周囲の店の従業員もこちらを見ていたらしく、気付けばスタンディングオベーション。拍手喝采。

 途端集まる注目に耐え切れず、ユーリたちは席を立つとそそくさとその場を立ち去ったのであった。


 どうせこういう扱いを受けるなら、せめてどこかの町や村を救ったとかそういう展開が良かった。そう思うのも無理はない。何せこんなに喝采を浴びた事は、今までの人生でなかったのだから。




 とりあえずあのフードコートから離れたのはよかったが。

 流石にあの場に取り残すのもどうかと思ってついレシェも連れてきてしまっていた。


「あ、ごめんなさい。つい」

 手を引いてきていたため、ユーリは慌てて離す。

「いいええ、助かりましたぁ。あんなに注目浴びちゃうと流石にちょっと、ねぇ?」


 誰だ。キャラが違いすぎないか。

 レシェの言葉に反射的にそう思うのも仕方のない事だった。

 いやだって、貴女もっとこう、威厳ある気高い女騎士みたいなキャラだったじゃないですか。何このおっとり系。大抵の事は「あらぁ?」とか「うふふ」で済ませそうなのほほん具合。

 同姓同名の別人を疑い始めるが、名前が同じ挙句外見まで同じ人物というのは中々いるものではない。


 ちょっと女神様ー、これ一体どういう事ですかー?

 そんな思いでメルを見たが、メルもまた己の知る蒼碧のパラミシアの中のレシェと大きく違いすぎるせいで不思議そうに首を傾げている。


「ついこんな場所まで連れてきたけどレシェはこれからどうするつもりだったんだ?」

「どう、も何も、私ここで人と会う約束をしてまして。まだ時間があったからちょっと甘い物でも食べていこうかなーって思ったんですけど、ほら、私今こんな格好でしょう? あまり見た目のイメージ崩すのも駄目かなって思いましてぇ。

 だからアリスが誘ってくれて助かりましたぁ。改めてお礼を言わせてくださいねぇ」

「待ち合わせ場所はあのフードコートではないんだな? なら良し」


 折角離れたのにまた戻っては無駄に注目を集めかねない。気にする所はそこだけなのかとアリスに突っ込みたかったが、よく考えるとそこくらいしか気にする点がなかったのでユーリはそっと口を噤む。


「それにしてもよくあんなに甘いの大量に摂取できたよね」

「えぇ、私甘い物はだーい好きなんです。でも普段は人の目を気にしないといけなくてぇ。ああいうお菓子は中々食べられないんですよねぇ。食べても何も言われないの、果物くらいで。

 あ、そうそう。もしボレアース大陸に来る用事があったらうちに是非寄ってみてくださぁい。うち果樹園やってるので季節によって物はかわりますけど果物、お安くしておきますよぉ」


 お立ち寄りの際は是非プリムローズ園をご贔屓に、とさらりとセールストークされた。


 ゲームでは彼女の実家のある町は行けるが果樹園には選択肢が出なかったので行くことはできなかった。機会があれば一度は足を運んでみたいところである。


 ちなみにアリスが言ったこんな場所まで連れてきたけど、という言葉の通りここは階段付近の通路。

 一応エレベーターにエスカレーターがあるのでこの階段は非常階段とかそういう扱いになるのだろうか。利用する者もほとんどいないせいか、他に誰の姿もないし静かなものだ。


 だからこそ、静かであるが故にその足音は高らかに響いた。


「あぁ、ここにいたんだね。さっきフードコートにそれっぽいのがいるって聞いたからもしかしてとは思ってたけど」

 その声につい視線をそちらに向けて。

 ユーリとメルが固まったのはほぼ同時だった。


「あ、あぁ、すまない。少し注目を集めすぎてしまってな。避難していた」

 先程までの口調とはがらりとかわるレシェは、ユーリが知ってるゲームのレシェで。

 だがしかしその言葉を向けている人物は、蒼碧のパラミシアではいるはずのない人物だった。けれどもユーリはその人物を知っている。知識として、ゲームで見ていたのだから。

 そしてメルにも話をしたばかりなのだ。忘れるには早すぎる。


「それにしても、休憩か?」

「いや、今日はもうあがりだよ。だからこそこの後の時間を選んだんだ」

「そうか……ん? 終わりにしては早すぎないか? 人手不足だとか言ってただろう。そこはどうなっている? サボりに利用されるような事はごめんだぞ、クロフォード」


 そう、雄黄のファーブラに出てくる人物にして、ユーリの中では一番わけがわからないと思っているメインキャラ。クロフォード・キャル・セテュリュースである。

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