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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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胸焼けフラグが立ちました~



 アイトリアデパート。見た目は何だか前世で沢山見かけていたビルのような建物だから、中もきっと前世のデパートのようなものなのでは? とユーリは密かに思っていたのだが。

 流石にそこまでではなかった。確かにフロアごとにそれぞれの店が並んでいるしそういう意味では前世のデパートっぽくもあるのだが、ユーリからするとこれじゃない感が大きい。


 まずデパ地下がない。恐らく地下室そのものはあるはずなのだが、それはきっと建物の内部の灯りとか、空調設備に関係するあれやこれやとか、確実にスタッフオンリーどころか関係者の中でも限られた一部しか立ち入る事のない部屋しかないのだろう。


 デパ地下がないので食料品関係は大体一階に集中している。

 デパートの各階案内板を見ると、上の階には食事処もあるけれどそれよりは一般の生活雑貨や武器防具といった冒険者向けのものが多く扱われているらしい。生活用の魔道具などというものも扱っているようだが、前世の家電コーナーと違い高級品に該当するのかそちらへ向かう人の数はそう多いものでもない。

 建物としてはビルそのものだがこちらは精々五階建てだ。ユーリの知ってるデパートはもう少し上の階もあったので、建物を見た時も思っていたが案内板を見て「やっぱり五階までしかないのか」と期待していたわけでもないのにガッカリしたほどだった。

 おもちゃ売り場もあるらしいけれど、こっちの世界のおもちゃというと本当にこども向けの対象年齢5~6才くらいの物が多い。知ってた。こっちの世界にゲームソフトなんて無いって。

 あったらあったで間違いなく手を出す予感しかないので、なくて良かったくらいだ。むしろここがゲームと同じ世界みたいなものだった。そういや自分も転生したらゲームキャラに該当する存在になってたんだった。


 理解していたつもりの現実を再度わざわざ突き付けて無駄に精神にダメージを負っている場合ではない。


 まずは一番上の階から、という事で最上階へ行きそこから下に降りていく形で各フロアを見てきたわけだが。

 正直目を惹くものは特になかった。高級品に該当する生活用魔導具に関しては少しだけ目を惹く部分もあったのだが、精々が洗濯機が星見の館にあるやつよりちょっとだけ多く洗う事ができる大容量、といった程度だ。

 今現在の所持金で買えない事もないが、わざわざ買う程のものか? という風に思った時点で買う必要もないだろう。それならまずはボレアース大陸かノトス大陸へ行くための船賃として今の所持金は使うべきだ。


「なぁユーリ、小腹空いた」


 デパートを見てくる、という言葉に何故かついてきたアリスが、一階に着いた時点でそう言い出した。

 確かに食料が多く売ってるし、目に色々と飛び込んでくる光景はお腹が空きそうではあるのだが。今の今までほとんど無言で店内を見ていたから危うく一緒に行動していたという事実さえ忘れそうになっていたところでのお腹空いた、いや、小腹空いたコールである。


 手前では普通に野菜や果物、肉に魚といった生鮮食品が売られていたが、奥の方では持ち帰り用の菓子などを扱っている店が並んでいる。

 飲食用のスペースもあるらしく、そこには同じ制服を着た一団がきゃっきゃしながら買ったばかりのワッフルを食べていた。

「あー、もうお昼か。言われてみると私もお腹空いてきたな……というかあれマジックアカデミーの制服だよね。お昼にわざわざ抜けてきたのか、それとも授業はもう終わったのか、どっちなんだろ」

 まさか堂々としたサボりではないだろう。一応ここアカデミーが関わってるお店だし、そんな所でサボっていたら色々と問題になりそうだ。


「なぁなぁユーリ、あれ食べたい」

 くいくいと袖を引いてあれ、と指さすアリス。いや貴女、外見年齢で言えばこのメンバーの中で一番年上じゃないですか……母親にお菓子ねだるこどもみたいな真似はやめて? と言いたいが言ったところで聞き入れてくれる気がしないので諦める。

「あれってどれ? え、うわぁ、ちょっとアリス? 小腹空いたからのあれは小腹ってレベルじゃなくないかな?」


 アリスが食べたいと指さすそれは、ドーナツだった。普通のドーナツならば別にユーリだってうわぁ、とか声を漏らしたりしなかったがそのドーナツは【パーティーパック! ここでしか食べられない当店限定の味を是非!】なんていう手描きの看板でこれでもかと存在を主張している。そしてそのすぐ近くの商品受け取り口にはパーティーパックの実際の大きさの空箱が置かれていた。

 看板通りの商品であるのなら、通常サイズのドーナツより半分程小さいドーナツがあれやこれや色々入ってるっぽいが、いかんせん箱が大きい。色んな味を楽しめる、とポジティブに考えてもあれ一体何人で食べる事を想定しているのだろうか? というかあれ頼んでる人他にいなさそうなんだけど、味はどうなの? 誰か他にも食べてる人いればまだしも、誰もそこの店のパーティーパックじゃないドーナツすら注文してない時点で不安しかないんだけど……? という考えが絶えず浮かぶ。


「ちなみにアリス、あれ以外で他のメニューにしてって言われたら?」

「ドーナツの気分」

 譲歩する気は一切無いようだ。そっかー。

「何もユーリに奢ってほしいと言ってるわけじゃないぞ。ただ私も流石にあれを一人で食べきるのは無理だけどでもドーナツが食べたいから一緒に食べようと誘っているんだ。ダメか?」

「奢れって言われた方がまだきっぱり断れる分マシだった……!」


 即座にユーリはデパートに一緒にやって来た他の面々を見る。

 テロス。うわぁ、あれ食べきれるの? という顔をしている。

 メル。甘い物は嫌いではないが、流石にあれは多すぎないか? という顔をしている。

 結論。アリス以外は全員あれ本当に食べきれる? 大丈夫? って顔しかしてない。


「持ち帰って全員で食べればどうにか……」

「今食べたい」

「アリス、自由が過ぎませんかね?」

「ちょっと人生謳歌しようと思って。だってもう一緒に年を取っていくんだと思ってた友人もいないし、私が馬鹿やらかしても叱ってくれる身内もいないし。でも独りじゃないなら、巻き込むよ?」

 にこりと笑ってはいるが、アリスもアリスなりに色々と思う事があるのだろう。方法は微妙だがアリスなりに歩み寄っているんだろうな、と思ってしまったらでもあのドーナツは駄目ですとも言い難い。


「今。今かぁ。せめてもう一人か二人援軍が欲しい」

 残ったやつを持って帰るのも考えたが、ある意味食べかけを持って帰るというのもいかがなものか。これが気心知れた身内ならそこまで気にしないが、流石に今館にいるメンバー相手にそれをやるのは少し気が引ける。

 今星見の館で一緒に行動する人からは嫌われてはいないだろうけれど、親しき中にも礼儀あり。そこまで親しいとも思えない相手ならばもっと礼儀は必要になってくるわけで。


「残ったのはウォルスに食べさせようか?」

「アリス、気軽にウォルスを残飯処理班みたいな扱いにするんじゃありません」

「はーい、マッマ」

「誰がママだ。というかナチュラルに私を母親ポジションにしないように」

「わかったユーリ。じゃあドーナツ頼もうか!」

「あっ、ちょっと!?」


 言うなりアリスはスキップでもしそうな勢いで例のドーナツ屋へと行ってしまう……かと思いきや、少しそれて別の場所へ行ってしまった。

「何か聞いてた話だとアリスってもっとおとなしい感じじゃなかった?」

「あぁうん、棺桶から出た直後はおとなしかったように思う」


 メソン島での事はテロスはユーリから話を聞いただけで、一切関わっていなかった。

 そしてメソン島メンバーはほぼダンジョン探索に回っているので、テロス本人も直接話す機会はあまりなく。

「春はまだ先だけど、一足先に頭のねじ飛んだ?」

「テロスも大概失礼だよね」


 などと言いつつもアリスの姿を視線で追う。見るとドーナツ屋の近くにいた女性に声をかけているようだ。

 女性は後ろ姿しかここからでは見えないが、黒い髪をポニーテールにし、黒を基調とした……というかほんのり騎士っぽく見えるような服装をしているように見える。

 対するアリスは星見の館に来てから喪服をやめて白系統の服を着るようになった。全体的に白っぽくなっているのでメルが「雪の精霊もあんな感じじゃったな」などと言う程だ。

 ちなみにアリスは今現在ピンヒールを履いているし、何なら手にはやはり白い日傘を手にしている。

 歩きにくくないのかな、と思って聞いたら、

「慣れるとそこまででもないぞ。何より普通の靴より威力がある」

 と大変物騒な返答をしてきた。ついでに日傘も武器らしい。

 それを聞いたメルはすぐさま「雪の精霊はそこまで物騒ではないのじゃ。ユーリ、くれぐれも誤解はせぬように」と何故かこちらに言い聞かせてきた。


 流石にそんな物騒な方面にやる気満々な雪の精霊とか想像できないので安心してほしい。


 アリスは彼女に何やら話しかけているようだ。ここからでは何を言っているのかまでは聞き取れない。背後しか見えない彼女の反応はよくわからないが、少しばかり腰が引けている。

 しかしアリスはそれを気にした様子もなく、更に言葉を重ねているようだ。結果として、アリスが彼女の腕を掴む。


「おーい、この人もドーナツ食べるのに加わってくれるって」

「なるほど、これがナンパってやつか」

 テロスが納得したように頷いているが、ナンパとは違うような……いや、ナンパ?

 そもそもナンパとは……? 女性に対してお茶をしませんかとかそういう系統の話がナンパであるならナンパなのか? 声をかけた方も同性であったとしても?

「ユーリ、目が死んでおるぞ」

 メルが小声で告げてくる。

「あ、ごめん。ナンパの定義ってなんだろうって考えてた。概念的な感じで」

「拉致とか誘拐じゃなければもうどうでもよくないか?」

「……せやな」


 考えれば考えるだけ泥沼に沈んでいくような感覚に陥ったので、ユーリはそれ以上考えるのをやめた。

 しかしながら、流石別ゲームの主人公。流れるように人を誘ってなおかつ成功させてきた。やっぱり主人公って凄い。

 もういっそこの先仲間になりそうな相手を勧誘するの全部アリスにお任せしたい。割と切実にユーリは思っていた。

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