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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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死亡フラグはかろうじて回避



「――それで、一体どういう事かしら? 厄介事に首突っ込んでるってメモは見たけど」

 サフィールの問いはもっともであると言えた。

 無人であればガーゴイルが出現するホールにいきなり血まみれの人間抱きかかえて現れたユーリとメルに驚かなかったといえば嘘になる。

 一見しただけでは男か女かいまいちわからなかったが、今にも死にそうな人間抱えて現れるなり助けを求められれば無視するわけにもいかない。

 一体どこで何をしていたのかわからないくらい埃っぽくてじゃりじゃりしているユーリに事情を聞きたくとも、呑気に話をしている余裕もなさそうだったのでまずは治療をする事にしたのだ。

 ユーリの治癒術をメインにサフィールは手持ちの薬草を調合した物を使ったし、足りない物はグラナダにメルクリウスへひとっ走りお使いに行ってもらった。


 結果としてかろうじて助かったであろう彼――流石に服に穴が開いたままなので着替えさせる時に性別は発覚した――は今現在空いていた部屋に寝かせているが……当分の間目を覚ます事はないだろう。

 かろうじて助かりはしたが、意識が戻るかどうかは別の話だ。むしろ生きてるだけでも上出来だと言ってもいい。サフィールは最初見た時点で少なくとも「あぁ、これは駄目だな」と即座に諦めたのだから。


 その後は薄汚れたままのユーリとメルを風呂に突っ込み、その間に後片付けをしたサフィールとグラナダはネフリティスを部屋から呼び出した。この館の書庫で時間を忘れて読書をしていた結果おかしな時間に寝る事になってしまったが、流石に起きてから事後報告もどうかとサフィールが判断したからだ。ネフリティスと共に読書していたセシルも叩き起こした。

 これでこの館にいる全員が揃ったわけだ。


「……テロスは?」

「彼なら二、三日近場で用を済ませてくるって言って出てったわ。どこにいるかまではわからない」

「そっか……良かったというべきか、なんというか……」


 何があったのかサフィールにはわからない。わからないが、何らかの面倒事をもってしてここに戻ってきたのだ。その後は彼の治療に魔力を費やし、落ち着いてからは風呂場に叩き込まれたユーリの表情には疲労が色濃く残っている。恐らくテロスがここにいた場合、説教は確実な気がした。だからこその良かった、なのだろうか。けれど同時にテロスは意外と頼りになるという事もサフィールは知っているので、いないという部分でユーリがかすかに落胆したのもわからなくはない。


 そうしてユーリは話し始めた。メソン島についてからの一連の出来事を。


「え、あの暴れ馬車で行ったの……? 何でそんな蛮勇を?」

「ダンジョンですか、何だか面白そうですね!」

「薬師たちが集まる都市メルクリウスには一度足を運びたいと思ってたから丁度いいわ。でも、随分とごたごたしてるのね」

「え、それってじゃあその隠れ家にいる人たちも危ないのでは?」


 上からネフリティス、グラナダ、サフィール、セシルの順である。それぞれ着眼点が違うが全員に共通しているのは、ルーチェに関して触れていないという点だ。

 悪人ではないのだろう。多分、恐らく、きっと。だがなんというか怪しすぎた。彼の外見が女性に見えない事もないからまだ酷い嫌悪感を抱いたりはしていないが、これが年老いてなお嫌な感じにギラギラしている男であったなら、もっといえば禿げているとか太っているとか顔の造形があまり整っていないとか、目に見えて分かりやすい欠点があれば金に物を言わせて手籠めに出来そうな女を囲おうとしていると思った事だろう。

 事実貴族の中でもそういう輩はいるのだ。悲しい事に。地位と権力でもって市井にいる気に入った娘を無理矢理……という事件は今でこそそれなりに減ったが昔はよくある話だったらしい。


 宿代に馬車代、食事代。出会ったその日から当たり前のようにそれらの代金を支払うような相手となれば、一体どんな下心を抱いている事やら、と勘繰られても仕方がないとも思える。

 けれども怪しいのはその部分だけでそれ以外の行動を見る限り、善良な人間に見えない事もない。むしろそのせいで余計怪しさを爆発させているというのは否定できないが。

 とはいえ人間、窮地に陥った際は本性が出るとも言われている。命の危機に陥った際ルーチェはユーリに逃げろと言った。自分はもう死ぬからという諦めから出た言葉ではないように思える。あれは、今なら少なくとも危険人物は自分がいるから多少抑えにはなるだろうというところから来た発言だったのだと、少なくともユーリはそう思いたいし信じている。


「とりあえずその、ルーチェ? まぁあの性別不明なお兄さんについては置いておくとしましょう。仮に目が覚めてもいきなり暴れだすような人じゃなさそうだし、話が通じそうなら大した問題じゃない。

 それで? ユーリはこれからどうしたいの?」

 頬杖をつきながらネフリティスが問いかける。まるで深淵を覗き込んだかのように目は死んでるが、それはいつもの事だ。そしてその表情からは薄々ユーリが言う事を予想しているのだろう。

 ユーリもまた一拍ほどの間をおいて、恐る恐るといった感じに口を開いた。


「ウォルスだけなら多分今までも何だかんだ一人でやってこれてたから大丈夫、って言うと思うの。でも、アリスはまだ何が何だかわかってない部分多いと思うし何よりミリィたちがずっとマトモに外も歩けない状況なのもどうかと思う。関わった以上はできる限りの手助けをしたい。

 それに、ダンジョンは多分私たちにとってもそれなりに利益があると思う」

 そこまで言ったがネフリティスの表情は変わらない。それで? と先を促すように少しだけ顔を動かす。


「手を組めればいいなと思ってる。ネフリティスがこどもの声とか苦手なのはわかってるんだけど、ミリィたちもできれば匿いたい」

「あぁ、そこ。別に構わないけど? 聞いた話じゃ別にその子たち常々騒々しいわけじゃないんでしょ? 場所もわきまえずにぎゃーぎゃー騒ぐタイプなら断固拒否するけど」

「あー、うん、ミリィが元気一杯なのは確かだけど、言われてみればちゃんとおとなしくしないといけない所ではおとなしくできる子だと思う。……って事は、いいの?」


「いいの? ってだってここ元々館の所有者はメルのご両親で今は使わせてもらってる身だけど決定権ってかなりユーリが握ってるじゃない。引きこもってるのが性に合ってるから留守番役を引き受けてるけど、権限とかそういうのないのは理解してるわ。お互いに妥協できる範囲で譲り合って、それでもどうしようもなければどっちかが出ていくだけのこと。違う?」

「ですよねぇ。まぁ、出て行くにしても住む場所確保するのに少しばかり期間はもらうかもですけど、ユーリはこっちの事情も一応考慮してるんだしそう酷い事にはならないと思ってるですよー」


 ネフリティスがあまりにもあっさりと言うものなので、ユーリはぽかんとした顔をしたままだ。グラナダが付け加えるように口を出して、そこでようやく理解したらしい。


「えーと、あの、ワタシが言うのもなんですけど、だったら尚更早いとこその隠れ家に行って話つけてきたほうがいいんじゃないでしょうか」

 おずおずとセシルが存在を主張するようにそっと挙手をするように手を上げて言う。館に戻ってきた時はルーチェの容態をどうにかする事にのみ集中していたせいで気付かなかったが、森から森を放浪して人里に行けなかった時と違い随分と小綺麗になっているせいで、メルもユーリも一瞬セシルを認識するのが遅れた。そこらの魔物から獲れた毛皮を加工して作っていたであろう服は大変ワイルドだったが、今はそういったものではなく至って普通の服になっている。

 すっかり見違えたセシルに何か言うべきか悩んだが、それよりもセシルの言う通りであった。ルーチェの怪我をどうにかした後、風呂に突っ込まれそれから今までの事を話し、気付けばかなり時間が経過している。

 本来なら人様の家を訪ねるには遅い時間だが、状況が状況だしある意味で今更でもある。

「わかった、ちょっと行って勧誘してくる」

 椅子を蹴って立ち上がり宣言する。

「とはいうものの、じゃ。上手く辿り着ければいいんじゃが……途中でまたあやつと遭遇するような事にならねばいいがの」

 今回はポータルストーンが仕事をした結果、ユーリにとっての本拠地とも言える星見の館にワープした。けれど本来のポータルストーンはウォルスの隠れ家とダンジョンを繋ぐだけの物だったはずだ。転移先の本拠地変更をした覚えもないし、本来はダンジョンの中か拠点でしか使えない物のはずなのだ。

 ポータルストーンを目の前に出してみる。無理な使い方をしたからか、透明なはずの石は今はそこはかとなく曇っている。まるで中に煙を閉じ込めたかのように。


「遭遇しない事を祈るしかないよね」

「そういえばそこら辺さらっと流したけど、結局そのヤバい感じのシスターは何者なんです?」

 グラナダも立ち上がりユーリの近くまでやって来る。ついでに興味深そうに長机の上に置かれたポータルストーンを指でつついているが、特に何の反応もない。


「私もふわっとした情報しか知らないんだけど、トルテ・ファンデミリオンであってると思う。政府役員の中でもそこそこ上の地位にいるはずの人で、得意な魔術、って言っていいかはわかんないけど自分の身体能力を底上げするのが得意だとか」

 曖昧に濁してはいるが、ゲームでのトルテは身体能力の強化がえげつないキャラだった。見た目は虫一匹殺せそうもない外見をしているくせに、暗殺部隊を率いている。あの時の光景を思い出すに、塀が粉々に砕けたのは彼女の左手が原因だろう。


 だからこそユーリは言いかけたのだ。

 ゴリラと。


 トルテが己の能力をどう受け止めているかはわからないが、あの時の様子からすると使える能力であるとは理解しているが完全に受け入れているかというとそれは別の話なのかもしれない。というか過去にきっとゴリラ呼びをされている可能性は高い。ユーリはゴしか言っていないのに随分と反応されたからだ。


 そこまで思い返して、ではあの黒ずくめはトルテの部下だったのかと今更把握する。てっきりルリの他の部下かと思っていたが恐らくは借りたのだろう。


 隠れ家のあたりは雑然としているし入り組んでいるしで今の所居場所は突き留められていないが、下手をするとバレる可能性もあるという事実にユーリは思わず顔を顰めていた。ルーチェあたりは気配を読むのが上手かったが、ユーリにあれと同じくらいの芸当はできない。

「ごめんメル、気配とかそこら辺気を付けてもらっていい?」

「うむ、承知した」


 メルの方もこれから隠れ家に行くにあたって気を付けないと本格的に危険であるという事は把握したらしく、重々しく頷いた。気配の察知程度ならメルの負担もそうかからないはずだ。


「それじゃ改めて、行ってくる」

 使おうにも無反応のままのポータルストーンを握りしめる。今は使えなくてもどこかで使えるようになるかもしれない。アイテムボックスに入れておくにも入れたままでは使えるようになっても即座に気付けないので、しっかりと握りしめたままにしておく。


「とりあえずルーチェの事は任せておけ。サフィールが適切に看病するから」

「ちょっと、自信満々にいうなら貴女も手伝いなさい」

「そうだな、目が覚めたら状況の説明くらいはするさ」


「あー、まぁこっちはどうにかするです。ユーリ、くれぐれも気を付けて戻って来るです」


 言い合いを始めたネフリティスとサフィールを止めようとおろおろしていたセシルを見ながらグラナダが手を振る。


 何というかとても平和的なやり取りだなぁ、とできる事ならこの場にもう少しだけ留まりたかったがそういうわけにもいかず。星見の館経由でメルクリウスへと戻る。


 そうして戻って外に出ると、すっかりと日が暮れていた。

「ダンジョンとか時間の流れ遅いしあちこち飛ぶと何か、時間の感覚おかしくなるね」

 移動時間の短縮は大変便利ではあるのだが。

「そればかりは仕方あるまい。ところでユーリ、向こうの方角にウォルスと思しき気配があるのじゃが」

 そう言ってメルがすっと指し示したその先は、上層の教会があるはずの方角だった。


「どうもウォルス以外にもおるようじゃが」

「……なんでそうなってるの?」

「わからぬ。行ってみるしかないじゃろ」


 確かにメルの言う通りだ。下層の教会ならともかく上層の教会には多分もう行く事もないだろうと思っていただけに、足取りは軽いものではなかったが。

 流石に辿り着いた時には全てが手遅れでした、なんて事になられても困るので無理矢理にでも足を動かす。


 そうして辿り着いたそこは、何故か戦場になっていた。

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