表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/219

ドキドキ逃走中



 そうしてそれぞれがそれぞれの思惑とともにダンジョン探索への参加を表明したわけだが。

 その後はもう一度ダンジョンへ赴いた。今度はミリィ達にダンジョンの内部がこんな感じだよー、というのを案内するためだ。ゲームだと参加メンバーというのはアリスとウォルスが主要パーティで、サポートキャラにあたるミリィたちは誰か一人しか連れてくる事ができないのだが……

 そういうシステム的なものは特になかったらしい。

 そもそも最初の時点でユーリはメルとルーチェ、それからルリと四人でダンジョンの中を移動していたのだから、そこは本当に今更なのだろう。


 ちょっと様子見て帰ってくるだけなら、という事でユーリはアリスにポータルストーンを渡そうとしたのだが、何故かアリスはそれを受取ろうとはしなかった。

「いや、それはユーリのだから」

 本来は貴方の所有アイテムですよ! と声を大にして言いたいが冷静に何で? とか返されたら言葉に詰まるので言うに言えない。というか、ダンジョンから自由に戻ってこれる便利アイテムを受取らないとか意味がわからない。ユーリのとか言う以前にダンジョンに行く人が持つべきでは? とも言ったのだが何故かウォルスにまで、

「いや、それはユーリが持っておくべきだろう」

 などと言い出す始末。


 ここだけ何か別のシステムとか神の意志とかそういう謎の力働いてない? と思わずメルを見たが、メルも不思議そうにしていた。その表情を見る限り別にメルが不思議な力でもって彼らの意識に介入しているとかではなさそうだ。むしろメルにそういう芸当ができるのかは疑問なのだが。

 しかし世界を創る神なのだから、その世界の内部に生まれた生命に干渉するくらいはできそうだと思っても仕方がない。冷静に考えてみれば以前災厄の荊姫に関しての情報を脳内に直接送り込んできた件はそれに近いのでは? とも思うのだがメルもあれは地味に疲れるからあまりやりたくないと後日言っていたので、メルの仕業ではないとも言える。

 ユーリ一人に対して実行して疲れるというのであれば、複数人の意識に干渉などもっと疲れるだけなのだから。


 最初のボスを倒して戻ってくればいいだけの話だったのでアリスからすればポータルストーンは必要ないという事だったのだろう。けれども浅い階層だけにいつまでも潜るわけにもいかないはずだ。既にその階層ではありえないアイテムが出現してしまっているが、アリスが望む一族関連の情報は深層に行かなければ得られない。

 それどころか今後は政府の役員たちも何名かダンジョンで遭遇するはずだ。

 というか先程した。


 ミリィたちにちょっとダンジョンを紹介するくらいの軽い気持ちで行っただけなのだが、そこでルリとばったり遭遇してしまったのだ。ルリの方は三人程黒ずくめの性別すらわからない相手を連れていた。


 この時点でルーチェたちがウォルスと既に繋がりがあるという事実がバレた。以前はたまたま遭遇しただけでその後は一切関わってませんという誤魔化しで乗り切りはしたが、流石にダンジョンの中でまた一緒になりましたなんて話は信用されるわけがない。


 それ以前にルリはこのダンジョンはあの教会の地下からしか行けないと思っている。他の都市や他の場所とも繋がっているには繋がっているのだが、まだそういった他の入口の発見報告はされていないのだろう。アリスが見つかった場所を確認しにきたにしても、全員でぞろぞろと教会に行けば流石に目立つしそれ以前にルリはここに来る前に見張りを二人程残している。

 その見張りを倒したか、掻い潜ったか、どちらにしてもウォルスたちとルーチェたちが別行動した後に遭遇して一緒に行動することにしたというのはあまりにも不自然だった。


 実際はポータルストーンでウォルスの隠れ家から直接来たのだが、ルリがそんな事を知る由もない。

 結果として怒りの導火線に簡単に火が付いたルリたち一行と戦う事となったのだ。


 ところでメソン島に生まれた者の大半は、他の大陸よりもマナ濃度が高い土地で生まれ育つためか制御さえできればほとんどがかなりの実力ある魔術士となりうるのだが。

 反面得手不得手がとてもハッキリしている。魔術なんて構成次第でどの属性であれどうとでもなりそうなものなんだけどなぁ、と思っているユーリの考えをうっかり口にしようものならメソン島住人の半分は恐らく敵に回りかねない。

 例えば得意な属性の魔術を扱うならば超一流と呼んでも過言ではない相手がいざ苦手な属性を克服しようとする。これが他の大陸で生まれた者であれば、それなりに苦労した結果まぁそこそこの結果を出せたかもしれない。だがメソン島住人であるというただそれだけの事実が、その結果に辿り着かせてはくれないのだ。

 魂に刻み込まれでもしているのかと思う程に、苦手属性は高確率で暴走させる。自滅するだけで済めば良いのだが(本人的にはさておき)、場合によっては周囲を巻き込むのだ。だからこその制御タグを装着する事を義務付けられているとも言えるのだが。


 制御タグをつけた状態で苦手属性にチャレンジすると、それはそれで魔術が発動しない結果になる事の方が多い。かろうじて発動したとしても、威力はお察し案件だ。

 だからこそメソン島住人は基本的に得意分野を伸ばした方が結果的にマシ、という考えに落ち着く。


 そうして得意属性を伸ばした結果、ルリは炎や氷を出したりする魔術よりも重力を操る方が向いていた。

 移動の際は重力を軽くしてふわふわと飛んだり、攻撃に転ずる際は逆に威力を増加させる。自分と精々周辺の重力を変化させるくらいしかできないようだが、これが離れた場所にいる相手にも干渉できるような能力であったなら――下手をすれば今頃は誰か一人くらい圧死していたかもしれない。


 ゲームでのシステムがどこまで反映されているかわからないが、やる気をだしているルリを相手にするのは少しばかり厳しいものがあったので逃げつつボス部屋に駆け込んだ。ボスと戦う事になってしまうが、戦闘が終わるまでは外からの干渉を受けないらしく倒したら早々に転送装置がある小部屋へと走る。



 そうしてどうにかルリから逃げきったわけだ。ウォルスあたりはいずれ決着をつけなければならないと思っているようだが、流石にミリィたちがいて巻き込みかねない状況では戦うつもりはないらしい。今回連れていた黒ずくめの三人もそれなりの実力者ではあった。人数が少数だったのでどうにか切り抜ける事ができたようなものだが、いつまたダンジョン内で遭遇するかわからないので警戒はしておくべきだろう。

 隠れ家の場所を突き止められていないのが救いかどうかはわからないが、今の時点でルリがとりそうな行動は二つ。

 ひとつ、ルリたちも転送装置で外へ出てメルクリウスを部下を使ってくまなくこちらを捜索している。

 ふたつ、その裏をかいてまたもダンジョンに逃げ込む可能性を想定してダンジョンで待ち構えている。


 可能性は半々といったところか。どっちを想定して行動しても運が悪ければすぐさまルリと戦う事になる。


「んー、とりあえず、さぁ。僕たちは一旦外に出るよ」

「……本気か?」

「だってこのままここにいても狭いし。数日落ち着くまで籠るにしたって狭いし。今まで使ってた宿はもう場所割れてるから他の宿に移れば多少の時間稼ぎにはなるんじゃないかな。金さえ払えばそこら辺どうとでもなる宿はないわけじゃないし」

「二度も言わなくていいぞ、狭いのは仕方ないだろう。ここは元々俺一人で行動する事を想定して用意したものなんだから」


 ウォルスの言い分ももっともだ。自分一人が隠れるために使うのであれば、この一部屋があれば充分なのだから。ウォルスだって想像できなかったことだろう。まさかこんな大勢がやって来る事になるだなんて。多分誰かが来るとか匿うにしても精々一人か二人くらいだと思っていたに違いない。


(ゲームならそれで良かったんだけどねぇ……私たちがうっかり介入したばかりにまさかの人口密度が凄いことに……)


 余計な事をした、と思わなくもないがあの時はまさか別タイトルも同時進行で始まるとか思ってもいなかったし、好奇心もあったし心配もあった。多分大丈夫だろうと見ない振りをしていたら後々になって後悔していただろう。そうなるとどこかでメンタルが不安定になって肝心な所で使い物にならなくなっていたかもしれない。

 要するに自分の精神衛生上の安定をとったわけだ。こう考えると清々しいまでに自己中心的である。


 ユーリがそんな事を考えている間にルーチェとウォルスの会話はほぼ終了していたらしい。ほとんどを聞き流していたユーリはとりあえず外に出るという部分は理解していたが、どこに行くのかはわかっていない。ちゃんと話を聞いていたメルはユーリが半分以上聞いていない事をわかっていたのだろう。「こっちじゃ」と言いながら手を引いてくれる。

 メルクリウスはシェメッシュと比べると閑静な所だ。時折遠くでこどものはしゃぐ声がしたり、通りを歩けば井戸端会議をしている主婦の集まりと、ギルドの依頼関係で立ち寄ったらしき冒険者風の一団を目にする事はあれど、露骨に警備していますといった感じの人間は見当たらない。

 見かける住人に然程の違いはないはずなのだが、中央都市は何というか無言の圧力というか圧迫感があった。

 星見の館を繋ぎはしたものの、あの都市に行く事はほぼないだろうなーと漠然と考えながら前を行くルーチェを見る。ウォルスの隠れ家から割と近かった宿は既にルリに居場所が割れているので他の宿へ行くと言っていた。けれど、政府の役員が他の宿を探した時に手を回しているのであれば、どこを選んでも無駄なのでは? と思わなくもない。

 それならばいっそある程度事情を話してルーチェも星見の館に誘うべきだろうか。今から勇者を仲間に引き入れると魔王を仲間にするフラグがへし折れるのでは? と思っていたがそうも言っていられない気がする。


「ユーリ、メル、落ち着いて聞いてくれる?」

 歩く速度を少しだけ落としたルーチェがギリギリこちらに聞こえる程度の声で言う。何だろう、と思わず足を止めそうになったがすぐさま「止まっちゃダメ」と言われたので何とか足を動かす。数歩分の距離が開いていたがルーチェが速度を落としたためにその差はほとんどなくなった。


「隠れ家を出たあたりは問題なかったんだけど、さっきの角を曲がったあたりから僕たち尾行されてるかもしれない」

「えっ?」

 言われて後ろを振り返らなかったのは既に歩みを止めるなと言われていたからだろう。止まったら駄目というのなら、振り向くのはもっと駄目に決まっている。なので振り返らずに周囲の気配を探ってみたが、ユーリにはよくわからなかった。手を繋いだままのメルに視線を向ける。


「いる、ようないないような……?」

 メルにもよくわからないらしい。明確な殺意や敵意といったものが向けられていないからかもしれない。

 すっとルーチェがユーリの手を取る。メルと手を繋いでいない方の手を。

「走るよ」

「って、うわっ!?」

「おっ……と!?」

 速度的には普通に走る程度だが、急に手を引かれてしまったので身体が咄嗟についていかない。メルと繋いでいる方の手に力をこめて離さないようにするので精いっぱいだった。

 周囲にいた他の人からは特に不審な目を向けられてはいない。急に走り出したとはいえ精々が次の目的地にちょっと急ごう、といった感じにしか見えなかったからだと思う。


 けれど走り出して少しもいかないうちにユーリにも理解できてしまった。確かに誰かがついてきている。正確な数はわからないが、一人二人といった少数ではなさそうだ。

 相手の狙いがわからないので、人の多い場所を避けた。そうして走っていくうちに、中層から上層へ。もっというなら限られた時にしか人が来ないような上層の教会付近へとたどり着いていた。


「これは……もしかして向こうの狙いに乗っかっちゃったかな」

 足を止めたのは完全に囲まれてしまったからだ。見える範囲にそう人はいないが、気配だけは感じ取れる。

「ユーリ、先に言っておくね。もしもの時は僕の事は見捨ててメルと二人で逃げるんだ、いいね?」

 その言葉にユーリはぐるりと周囲を見回して。同時に教会から外に出てくる数人の姿。服装だけで言うならそれはとても見覚えがあった。ルリが連れていた黒ずくめととても似ている。

(無理じゃないかなぁ……)

 ルリが連れていた人数を余裕で上回る。胸中でそんな感想を漏らす。声に出さなかっただけマシだと思いながらもここから逃げる算段はどう考えても出てこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ