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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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週刊少年ほにゃらら



「よい、しょーっと」

 気合を入れるというよりは正反対の間延びした声。立ち上がる時につい出しましたとばかりのその声を出した人物は、しかしそんな声を出したとは思えない程にあっさりと小屋の壁を切り裂いた。

 木造だからとはいえ、そんなあっさり斬れるものだっけ? という疑問は口から出ることはなかった。今はそんな事を言っている場合ではないからだ。


 いきなり内部から壁を切り裂いて出てきたルーチェに、すくなくともそれを目にした一部の連中は驚き、動揺し、初動が遅れた。ユーリもそちら側であったならば、確実に即座に動く事はできなかっただろう。

 一瞬の隙が生じた。たったそれだけの短い時間の間でルーチェは正面の一団に接近し、


「ぐっ!?」

「かはっ!?」

「うげぇっ」

「ひっ……!?」


 手近な所から次々と沈めていく。破壊できそうな武器もついでとばかりに壊しているという、何その芸当どこで身につけたの……!? と戦慄するしかない状況にユーリはただ見ているだけだった。


「あれさ、いきなり壁切り裂いて出てきた美少女が恐ろしく強い、とか思いそうだけど実際は野郎だからよく考えると向こう側からしたら悪夢だよね」

「おぬしそんな事を言っておる場合か……? 火矢が飛んでくる事はなくなったとはいえ、普通に魔術で攻撃される可能性は残っておるのじゃぞ?」

「あ、うん大丈夫。それならどうにか防げると思う」

 既に構成は完成している。あとは発動させるだけだ。


「何者だ!? ウォルスじゃない……だと……!?」

 いかにもな武装集団の中で一人だけ場違いに思える女が叫ぶ。

 男性物のスーツを着て、ネクタイもきっちり結んでいる。黒い髪は長く、毛先の方で結ばれている。

 髪型はどちらかというと、巫女などの和装をしている人物がしてそうな感じだった。暗い色をした紅い目が怪訝そうにルーチェに向けられている。


 ミリィと同じように彼女の耳も尖っていたが、エルフではない。メソン島は他の大陸と比べてマナ濃度が高く、その影響でたまにこういった身体的特徴を持って生まれてくるものがいる。それは蒼碧のパラミシアではなく藍緑エクエルドで語られる話だ。


 先程ウォルスが口にしていたルリという名は、紛れもなく彼女の事だろう。

 ルリ・レイターフェン。藍緑エクエルドで最初に遭遇する政府の人間で、要するに敵という認識で問題ない。


「うわちょっとひっどいなー、何者だ、とかいうような相手をいきなり火だるまにしようとしたわけでしょ? メソン島ってそんなあからさまに物騒だったっけ?」


 小屋を包囲しようとしていた他の者たちも、騒ぎを聞きつけ集まって来る。包囲網はやや崩れているがルーチェに戦力が集中しつつあった。けれどもそれを気にした様子もなく、ルーチェは平然と武器を破壊し、間合いに入った相手を容赦なく蹴り飛ばす。基本は双剣で攻撃を受け流し、自分が攻撃する際は足技で相手を気絶させるに留めているようだ。

 明らかに向こうはこちらを殺そうとしていたが、だからといってこちらが反撃に出て殺してしまった場合、後で向こうに都合のいい情報を流されて指名手配でもされたらたまったものではない、という考えもあるのだろう。

 だからといって本当に誰も殺さずに倒すだけ、という事ができているのも恐ろしいものを感じるが。


 ルーチェが切り裂いた壁部分から見える範囲にいるのはユーリとメルだけだった。外から中を見た時に見える範囲からはそれ以外の誰かの姿が見える事はないはずだ。だからこそ余計にルリは戸惑っているのだろう。いるはずの人物の姿が見えないのだから。

 流石に小屋の壁一面全てを切り裂く事は……ルーチェならできるかもしれないが、現時点ではしていなかった。精々半分程が斬られている。そもそも壁を斬る前にウォルスたちは部屋を出ているので、仮に壁が全面破壊されたとしてもルリがアリスやウォルスの姿を認識できることはないのだが。ユーリも正直さっさと外に出たいのだが、今は下手に動いて注意をこちらに向けるべきではない。


「いや確かにタグの反応はここから……構わない、その小屋もろともそいつらを――」

 襲った人物が人違いでした、というのであればまだ今ならギリギリ謝罪の言葉が出ればそれなりに収まったかもしれないというのに、ルリが下した判断は目撃者諸共消す、というある意味でとてもわかりやすいものだった。ここでユーリたちが死んだとしても死人に口なし、むしろ廃棄予定だった小屋に勝手に入り込んだ賊か何かとして処理するというのがわかってしまっただけに、

「メソン島闇深すぎじゃない……? ねぇ?」

「妾にそれを言われても。直接関与したならともかく、のびのびと育った結果がこれなのは確かに妾もちょっと言いたい事はあるにはあるが」

 軽快なステップを踏みつつルリが連れてきた兵士たちを吹っ飛ばすルーチェを見ながら、ユーリは闇深すぎ、と再度繰り返した。

 ルリが再度指令を下そうとしたのをまるで遮るように、離れた場所から悲鳴が上がる。

 部屋から直接出ていったルーチェと違い、ウォルスたちは部屋から玄関の方へ戻り外に出た。ルーチェに注意が向いているその隙に、今度はウォルスたちが背後から襲い掛かったに過ぎない。


「よぅルリ。相変わらず任務こなすの雑すぎないか?」

 自分の背丈程ではないが、それでも巨大な剣を片手で軽々ぶん回し男たちを吹っ飛ばしたウォルスがもう片方の手を上げる。よっ、と気軽に挨拶でもするかのように。

 ユーリの視界には壁があるため半分程遮られているがそれでもウォルスの姿は確認できた。まだ小屋の入口のあたりにいるのか、アリスやミリィ達の姿は見えない。


「ウォルス……! やはり貴様ここにいたのか!!」

 ルーチェが吹っ飛ばした男が勢いあまってルリの方へと飛ぶ。嫌なものを見たとばかりに顔を歪めるルリはしかしそれをあっさり躱した。地面に激しくぶつかった男が「ぐぎゃっ!?」と声を上げ、バウンドしてから転がって――動かなくなる。一瞬死んだかな? とユーリが焦ってそちらを見るも、ぴくぴくと痙攣しているようなのでまだ生きてはいるようだ。


「やはり貴様も何も、政府のお偉方が何かやってる、とか思って見にきたら盛大なキャンプファイヤーしようとしてるのを目の当たりにしただけなんだが? 何だよこれ、部下の慰労にしても雑すぎるだろ。慰安旅行ならもっとマシな場所連れてってやれよ。ヤレアハとかヴィニエーラあたりならそいつらも少しは喜んだだろうに」

「慰安、慰安旅行だと!? 貴様本気で言っているのか!?」


「まさかいきなり小屋燃やしにかかろうとか犯罪にしか見えないけど、俺とお前の仲を考慮して精一杯プラスに考えた結果が慰安旅行に落ち着いたんだが。見たままそのまま犯罪行為でいいならそれはそれで」

「うるさい、こっちには報告が上がってるんだ! 貴様があれと一緒にいるというなっ!! あれを素直に引き渡すなら良し、ここで苦しまずに殺してやろう」

「ははは、雑魚が何か言ってる。それができてたらとっくに俺は死んでるさ。それができないからこうして俺は今ここにいるんだろうに」

「うるさいうるさいうるさい!! 既にあれがここにいないとしても、どうせお前の潜伏先なんだろう!? それならこっちは総力をあげて探し出して潰すだけだ! 構わない、やれ!」

 最後の言葉はかろうじてまだ残っていた部下に向けてのものだった。


 ルリとウォルスが言い合っていた間にもルーチェがせっせと倒していたので、気付けば随分と寂しい事になっている。


「エクスプロージョン!」

「堅牢たる檻よ、我らを護り給え」

 部下の一人が発動させた術より少し遅れてユーリが術を発動させる。小屋全体を包むように展開された障壁は本来小屋を燃やし尽くすはずだった術を受け止め消滅させた。

「よし、タイミングばっちり。今の私いい仕事した」

 ゲームならコマンド入力するだけだが、実際はそうもいかない。タイミングを外せば折角防げる強固な障壁であっても無意味になる事だってある。

 げひゅっという何とも言えない音が聞こえてついそちらに視線を向けると、術を発動させたルリの部下がルーチェによって蹴り上げられたところだった。

「……あやつ結構えげつないな?」

 こてんと首を傾げてメル。今の光景を見る限り否定できる部分がどこにもなかったので、ユーリも無言のまま頷く。

 同じくその光景を目にしていたウォルスの表情はわかりやすいくらいに引きつっていた。まぁ、無理もない。


「私たちがやる分にはまだ、まぁ、わからないでもないんだけどさ。いくら見た目美少女でもルーチェって男性だよね。なんでああも躊躇いもなく急所蹴り上げられるかな」

「人の心を無くしたのでは?」


 なんて会話をしているうちに、まだマトモに立っていたルリの部下であろう最後の一人がウォルスによって叩きのめされた。

「さて、これで残るはあんただけだが。どうする? やるかい?」

「くっ……! 今回は退いてやる。だが! 次はこうも簡単に事が運ぶと思わない事だな!」

「今回は、じゃなくて今回も、だろう。まぁいいや。ルリがいなくなったあたりで俺たちも撤収するから、その後でこいつら回収しにくるといい」

「気を遣っているつもりか!? ふざけるな死ね!! うっかり遊び半分で高所に住んでる子どもが投げたレンガに命中して死ね!!」


 言うなり走り去るルリの背を見送って。

「何ていうか、とても清々しいまでの捨て台詞だったね」

「あぁ、そしてウォルスに対する死ねという願望がやけに具体的であったな」


 かくして数の上では圧倒的に不利だったような気がするこの状況は、ユーリが何かするまでもなくほぼルーチェが片付けた。勇者様々である。

「ルーチェって控えめにいって美少女の皮かぶったゴリラだよね」

「ゴリラも輪切りにしそうじゃがな」

「あっは、ドラゴンくらいなら輪切り可能だけど?」

 清々しい笑みを浮かべて戻ってきたルーチェが会話に加わってくる。ゴリラ呼ばわりを鮮やかにスルーしているルーチェのメンタルは、果たしてどれくらい強靭なのだろうか。


 あまり深く掘り下げるべきではないだろう、とユーリが心に蓋をそっとかぶせた所で唐突に思い出す。

 藍緑エクエルドのメインステージである地下ダンジョンへは、確かここで数の不利による撤退から行くのではなかったか……? と。

 それ以前に地下ダンジョンは本当にあるのだろうか、とすら思えてくる。ここまで藍緑エクエルドの展開だったのにダンジョンがありません、という事は流石にないだろうとは思っているのだが。しかしここからダンジョンへ行く流れになるわけもないだろうし、そうなると――

(あれ? 藍緑エクエルドのストーリーここで中途半端に終了しちゃう流れか、これ?)


 俺たちの戦いはこれからだ! 完!!

 〇〇先生の次回作にご期待ください。


 そんな文面が見えた気がした。

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