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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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焼き討ちフラグを回避する



「えーと、それでそちらの……何か思いっきり寝過ごしたせいで身体バッキバキだな、とか思ってそうなお姉さんのお名前聞いても大丈夫です? 自分の名前、言えますか?」


 ランプの灯りに照らされているとはいえ、それでも圧倒的に黒が目立つ彼女に向けてユーリは声をかけた。

 服は上から下まで黒一色。深々とかぶっている帽子も黒。その帽子には目元を覆うようにヴェールがついているせいで、よく見ないと彼女と目を合わせるのは難しい。ヴェール越しに紫水晶のような色の目がこちらを見ているが、ただ見ているだけだ。特に何かの感情が浮かんでいるわけでもない。


 黒じゃない部分と言えば白い肌と、銀色の髪ぐらいだろうか。長い髪は丁寧に編み込まれていて、少し動物の尻尾のようにも見えた。


「アリス・エレミアだ。ユーリといったか、あんたには何が見えているんだ?」

「何、とは? 今見てるものはアリスさんだけど」

「アリスでいい。そうではなくて、何というかまるでこちらの事情を知っているかのように思えた」

「詳細はわかりません。でもミリィが政府の人に追われてるっていうのと、さっきルーチェにウォルスが牽制した時の発言から政府が絡んで狙ってるのはアリスかなと。あとはウォルスもあわよくば消したい感じなのかなー? とは思ったけど」


 詳細はわからないどころかよく知っている。けれど今ここでそんな事を言えばユーリが政府と繋がってる可能性を疑われかねない。政府の人間ではない、という部分はウォルスなら否定してくれそうではあるが。

「そうだな。どうやら私は狙われているらしい。ウォルスとはこいつらと逃げてる時に遭遇して、そのまま手を貸してもらっている」


「ミリィとはぐれた後だったから、ミリィが知らなくても仕方ないよね」

 レンが付け足す。恐らくアリスは途中でこどもたちとは別れて逃げるつもりだったのだろう。けれど上手くいかなかった挙句ミリィだけがはぐれた、というところか。


「その、何でまたそんな状況になったのじゃ? 接点なさすぎてさっぱりなのじゃが」


 メルが心底不思議そうに首を傾げる。何も知らなければその疑問は最もだ。そしてメルの様子を見るに本当に藍緑エクエルドに関しては履修していないのだろう。知らない振りをしている風には到底見えなかった。

 メルの疑問に一同それぞれがお互いに視線を合わせる。アイコンタクトかと思ったが何というかその表情からそれぞれがその疑問はこっちが聞きたい、とばかりだったので説明に困っているというのはユーリでも察する事ができた。


「とりあえず、時系列でまとめてみましょうか。事の発端って何だったと思います? あぁ、根本的なって所まで深く掘り下げなくていいです。そこまでいったら多分誰もわからないだろうし、説明しようがなくなるんで」


「えぇと、それなら多分、ミリィ達がアリスをみつけたところからなんだと思う」


 おずおずと手を上げて発言するミリィに少しだけ微笑ましいものを感じる。

「そっか、それじゃあそこからちょっと話してくれる?」

「わ、わかったよ」


 責任重大とばかりに意気込んで頷いたミリィが語った事は概ねユーリが覚えてる出来事と一致していた。


 メルクリウスは下層・中層・上層と分かれた区画で成り立っているが、そのどの区画にも教会が存在している。とはいえ、人々が多く足を運ぶのはもっぱら中層だ。下層はむしろ建物だけが残っているといった感じで既に朽ちたと言ってもいい。そんな教会でミリィ達は遊んでいたらしい。

 古くなっているという事は脆くなっている部分も当然あるわけで、何でも地下に続く通路を発見してしまったのだとか。隠されていたらしいそれにミリィ達はテンション上げて探検しに行った。


 地下の一室、そこにはガラスでできているらしい棺桶に入ったアリスの姿が。死んでいるようには見えなかったので咄嗟に蓋を開けたらアリスが目を覚ました。

 これが、ミリィ達とアリスの出会いだ。


「正直な話、記憶があやふやなんだよな。確かじじいの葬式に参列してたはずなのに、気付いたら全然見知らぬ場所にいるし。どうなってんだ? って思ってそこのちびたちに話聞いたらもっとわけわかんないし。もうちょっと話のわかる大人がいないかって言ったらミリィの保護者の所に案内するって言われてさぁ」


 ミリィの話が終わった直後、アリスが発言を引き継ぐ。


「そんで保護者のセレンだったっけ、そいつから話聞いたらどうも私は封印されてたんじゃないか、とか言われるし。なんだそりゃって思ったけど、聞けば聞くほどそれっぽいんだよな。大体、私が知ってるメソン島にメルクリウスなんて都市なかったし。っていうか都市七つもなかったはずなんだ。確かに都市を建設しようって話は出てたけど、その時はまだそれぞれが小さな町とか村だった」


 そうだった。アリスは確か何者かの手によって永い年月を強制的に眠りにつかされていたんだった。内心でそのあたりを思い出す。誰の手によってだったかは覚えていないが、その人物が黒幕になりえるかというと既に存在していなかったはずなのでそこら辺については深く掘り下げる必要もないだろう。


「そんで確か――これ以上詳しい事はわからないだろうし、メソン島に関して調べるのであれば中央都市が一番いいって言われたんだ。ただ、その直後に政府の者だという連中が襲い掛かってきた。私の身柄を引き渡せ、とか言ってたはずだけど、同時に余計な事を知った奴らは殺せ、みたいな事も言ってたからとにかく逃げようとしたんだ。ただ、その時にセレンが……な」

 そこだけを言いにくそうにしていたアリスだったが、ミリィの前であっさり言うわけにもいかないだろう事はこの場の誰もが理解していた。


「まずあいつらを撒いて、それから今後について考えようと思ってた。途中でそこのウォルスが乱入してきて一応助けられた形になるんだろうな」


「ミリィ達とアリスに関してはわかったけど……ウォルスは何だってこの人たちに? 事情はわからないけどこどもが危ないっていう理由で首突っ込むにしても危険すぎるし、そこのアリスが君の好みのタイプだったから下心ありでっていうならまぁ理解しないこともないかな」

「いやそういうんじゃないから……あー、と、どこから話せばいいものやら……そうだな、俺はかつて政府の関係者だった」


 政府の関係者、という部分で反射的にこどもたちが身構える。当事者であろうアリスは何の事かわかっていないようだった。で? と話を促している。


「まぁ今は追放された身だ。そういう意味ではただの市民さ。……もっとも、それでも目障りらしくて隙があれば仕留めようとしてくる相手はいるんだが。

 それで、政府にいた時にアリスを見た事がある。透明な棺桶に入ったままの状態でな。あれ魔導具だったみたいで開けるのに何らかの条件か手順が必要らしいって言われてたからそのまま保管されてたはずなんだが、ある日賊が侵入、アリスは盗まれてどこかに持ち去られた。後日賊の方は処分したらしいけど、棺桶の方は見つからず。

 けどまさか今日その中身が動いてるのを見た以上、気になるだろ? 何が起きてるんだろうかって。だからまぁ、俺がここにいるのはただの好奇心ってやつだな。いやぁ、しかしまさか教会の地下に隠されてたなんてなぁ。今まで見つからなかったってのもある意味で凄いものだ」


 感心しているように見えたが、どちらかというと呆れているように言っているウォルスに、気持ちはわからんでもないと内心で頷いて。ここまではユーリが知る展開と一致している。これなら別にそこまで奮闘せずともこの件は勝手に解決しそうだな、と思ってしまうほどだ。


 そこまでの情報を全員で共有できた。本来ならばここにいないはずのユーリたち含めてではあるが。

 そうして確かユーリの記憶だと、ここら辺はゲームだとサクッとモノローグで流されて、地下ダンジョンに行く流れになったはずだ。あれは確か政府の人間が――


「……ちょっとまって、ミリィ達、そのタグのセキュリティ解除してる!?」

 その言葉に三人の視線が咄嗟にそれぞれに向けられる。メソン島は他の大陸と違い、マナ濃度が通常時でもかなり高い場所だ。そのせいで生まれつき魔術士として高い実力を持つ者が多く生まれると言われているのだが、反面制御が上手くできず暴発させる者も多数存在した。

 結果としてメソン島で生まれた者は政府から支給される制御タグを渡されるのだ。島にいる時は身につけるのが義務となっている。必ず見える範囲につける必要はないので、制御が上手くできるのであれば別に持たなくても問題はない。

 他の大陸に行く際に外す事も構わないが、マナ濃度の変化でやはり慣れないうちは魔術の制御に失敗する者もいるので、大抵の人間は身につけているタグなのだが。

 このタグ、前世で言うならGPS機能のようなものが備わっていたはずだ。政府の地位がそこそこある者だけがその機能を使う事ができていた、ようにユーリは記憶している。


 確かミリィは魔術の制御ができていたし、こっそりセキュリティと称されるその居場所を特定できる機能を解除していたはずだが他の二人に関してはしていなかったように思う。


 ユーリの言葉の意味をそこでようやく理解したのだろう。わかりやすいくらいに二人の顔が青ざめた。

「下手したら居場所割れてるよね、これ」

「おや、泳がされてたって事? でもユーリ、よく気付いたよねそこに」

 感心したようなルーチェが分厚いカーテンのかかった窓際へと近づく。そこからそっと外を覗き込んで、

「あぁ、来てるっぽいね。囲まれてる」

 なんてあっさりと告げるものだから、レンとルッセの表情は蒼白を通り越して真っ白になる。


「あ、あぁ、どうしよう……すっかり忘れてた……!」

「ボクも……そもそも魔術使わないし制御する以前の問題だけど、一応つけてますよってのがわかれば変に目をつけられないからってそのままだった……」


「ミリィは大丈夫そうだね。そのタグの居場所わかっちゃう機能とか解除したの誰?」

「解除自体はミリィとレンもできるよ。でもそんなすぐにはできないよ。少し時間かかる」

「少しってどれくらい?」

「えー、うーんと……五分くらいあればなんとか……?」


 自信なさげに首を傾げつつ言うが、ミリィだけでなくレンも解除できるのであればそれくらいの時間なら稼げそうだ。


「ルーチェ、囲まれてるっていうけど、すぐ動きそう?」

「んー、どうだろ。今はまだ包囲中って感じかなぁ? あ」

「なんじゃその、あ、って。言葉の最初に言うならともかく最後に言うと嫌な予感しかしないからやめい」

「多分あれがあの中のリーダーかなー? って思えるのがいるんだけど、その両横にいるのがヤバい。弓とか持ってる」

 カーテンを揺らさないようにしつつ外の様子を確認していたルーチェが告げた言葉に危機感を抱いた者は、果たしてどれくらいいただろうか?


「弓? いや弓とかそれくらいなら別に」

 ウォルスも実際そう思ったからこそつい口から出たのだろう。もっと凶悪な武器であれば警戒したかもしれないが、弓でこの小屋を射た所で小屋が粉砕されるとは到底思えない。


「うん、片方が多分油の入った瓶矢につけてるし、もう片方は火矢打つ気だし、もうこれ確定してるわ」

「はっ!? ちょ、魔術じゃなくて!? あえて魔術じゃなくて火矢を!?」

 思わず声を荒げてしまったが、多分外には聞こえていない。ウォルスが慌てつつも窓際へ向かう。ルーチェが場所を譲ると同じように外を確認し――


「うわ。本気で焼き払うつもりかよ……ていうかそこにいるのルリだな!? あいつ任務果たす気ないなこれ!?」


 小声で叫ぶという器用な事をしながらも、窓際から離れる。

「時間がないから手短に告げる」

 言いつつ、先程まで座っていた場所に置いたままだった剣を手にとる。

 そうして告げられたウォルスの言葉は、少々無茶ではあるがここを切り抜けるためのものだった。

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