6月15日
俺、神無祐人の退院後の初登校から二日。今日は日曜日。
俺は部屋の掃除をしながら一昨日のことを思い出していた。
あの日は大変だった。
問い詰めてくる道野辺にまず俺はマリアのことから説明した。
暴漢に襲われたのはマリアでそれを助けに入った俺が頭を打ち入院といった具合に。
マリアとは彼女がお見舞いに来てくれたことで知り合った。
逃げた暴漢がまた襲ってくるかもしれないからあの時助けた俺が近くにいると安心するんだと。
道野辺はそんなの警察に任せればいいじゃない、と少し不満気だったがとりあえずは納得してくれた。
いや、俺だってまさか転校までしてくるとは想像していなかった。
おかげでクラスの奴らにはいじられ、他クラスの奴らからも好奇の目で見られる始末。
そりゃ園田高校みたいな凡庸な学校に五条ヶ丘みたいなお嬢様学校の生徒が転入してくりゃもの珍しくもなる。そのお嬢様が男目当てで来たなんて話になったらなおさら。
いろいろ質問責めにされるマリアから野次馬共を追っ払うも担任の胡桃先生にも見つかり放課後呼び出され何の騒ぎかと叱られる始末。
土日休みだからとりあえず騒ぎは一日だけで済んだけど来週から憂鬱になりそうだ。
「もう11時か。そろそろ着替えないとな。」
今日はでかける用事があるのだ。
おしゃれに疎い方なのでこういう時どういう服装がいいかわからないけどとりあえず無難そうな服装に着替える。髪型は美鈴さんは俺の頭をぼさぼさだというがこれはまあ癖っ毛でどうしようもない。
梅雨に入ったが今日は曇り。念のためショルダーバッグに折りたたみ傘を入れていく。
「さて、待ち合わせ場所に行くか。」
待ち合わせ場所は濱戸駅西口。園田高校の最寄駅でウチの生徒も利用者が多い。
ポケットに入れた携帯を取り出し時間を確認する。時刻は11時20分。
俺は人を待つのは嫌ではないが人を待たせるのを嫌うので最低でも約束の10分前には待ち合わせ場所にいるようにしている。
五分程待っていると
「神無様~!」
遠目から金髪の少女が手を振りながらやってきた。周りの男性連中がこぞって彼女を見る。
はたから見れば美少女だから仕方無いと思う。
「申し訳ありません!お待たせしてしまいましたでしょうか?」
「いや、俺も来たばっかだよ。」
長袖シャツに短めのスカート、いかにも最近の女子高生といった感じだ。
長袖なのはやっぱ傷を隠すためなのだろうか。
彼女は高津マリア、十日程前指名手配中の殺人犯トワに襲われた少女。
俺の力のように不思議な力の持ち主だ。
俺はマリアを助けた縁で知り合い、何の因果か一緒にこの殺人犯トワを捕まえようなんて話になった。
そのためわざわざ自身のいたお嬢様学校から俺の通う高校に転入したちょっとぶっ飛んだとこがある。
「さあ、行きましょう。」
「あ、ああ。」
今日の誘いはマリアから提案されたものだった。
――――6月14日
ぷぉんぷぉん ぷぉんぷぉん
夕方、部屋でくつろいでいた俺は着信音のなった携帯を手に取り確認する。
着信はマリアからだ。
「もしもし」
「あ、神無様!突然で申し訳無いのですが明日お暇でしょうか?」
「明日・・・まあ特にこれといった用事は無いかな。」
「それは良かったですわ!明日、私と付き合っていただけませんか?」
「え?どこに?」
「どこにというわけではありませんが・・・とりあえず一度これからのことお話したいと思いますの。学校ですとなかなかお話できないですし。」
「なるほどね、わかった。いいよ。」
「では明日濱戸駅の西口に朝11時半待ち合わせにいたしましょう。」
「ん、りょーかい。じゃあまた明日。」
「では、神無様、ごきげんよう。」
・・・うーん、何事も無ければいいが。
――――といった感じ。
「そういえば神無様、お腹は空いていらっしゃいますか?」
「ん?ああ、もうすぐお昼だしな。」
それを聞きぱぁっと笑顔になるマリア。
「でしたら私、行きたいとこがありますの!」
そうして彼女に案内されたのは。
「ダムダムバーガー・・・」
激化するファーズトフード業界の中でもレアな店舗と化したチェーン店だ。
攻めたメニューが主で濱戸市はおろか東の方でも数店舗しかない。
「私、ここのもんじゃ焼きバーガーが大好きですの!」
「俺もここのポテトパイ好きだよ。甘くて。」
店内で注文し、席を取る。
俺はさっそくポテトパイの箱を開けかぶりつく
「いただきます。」
マリアが丁寧に手を合わせ言う。育ちの良さが伺える。
そういや、母さんが亡くなってからごはん時にいただきますだなんて言うこともなくなったな。
基本一人でメシを食べることの方が多いし、誰かとメシなんて美鈴さんとたまに一緒に食べるくらいだ。
美鈴さんは遠慮せずに来なさいとは言うけどやっぱなるべく面倒をかけたくない。
結果的に俺は自炊するようになったし、悪い事だけではない。
「んー、美味しいですわ!」
満面の笑みで食べるマリア。
「どうかいたしましたか?」
「あ、なんか仮にも五条ヶ丘にいた子なのにこういうジャンクフードも食べるんだなって。」
「あら、それは偏見ですわ。」
マリアが口にソースをつけたままプクっとむくれる。
指摘すると恥ずかしそうに口元を紙ナプキンで拭く。
「皆様五条ヶ丘、五条ヶ丘と言いますが私達も皆様と変わらない女子高生ですの。帰りがけにファーストフード店にも行きますし、ショッピングもいたしますわ。」
うーむ、確かにこの子の話を聞くまで俺もあそこは漫画みたいに午後は紅茶を入れて手作りクッキーとかを食べてるイメージだったな。
「さて、話を始めようか。」
「そうですわね。」
お互い食べ終わった所で早速本題に入る。
「あれから、12日・・・か。今の所あの日以降被害者は出ていないみたいだ。」
「そうみたいですわね。神無様に与えられたダメージが残ってるのでしょうか。」
「いや、確かにあの時アイツは足にきてたみたいだけど、そこまででは無いと思う。」
「ですと、私に対する襲撃の失敗が尾をひいてるのでしょうか?」
「・・・今までの事件の話を俺なりにまとめてみたんだけど。」
俺はバッグからノートを取り出す。
「まず殺人の生放送が行われたというのが確か5月24日だ。
確かニュースで報道された他二名の被害者が殺されたと思われるのが5月7日、そして5月18日。」
俺は文字を書きながら説明する。
「こうして見ると特に決まった法則があるようには感じられない。が、いずれもだいたい十日ぐらいで犯行におよんでる。」
「そうしますと私を襲った日から少し間が空いているように感じますわね。」
「ああ。何があったかはわからないけど犯行の周期が遅れているとは思う。」
もしトワが十日以内を前提に人を殺しているというのであれば不謹慎な話だがもうすでに次の被害者が出ていてもおかしくはない。
「・・・一体、あの方は何が目的なのでしょうか。」
「さあね、それだけはアイツ自身に聞かないとわからないな。」
知りたくもないがアイツの目的は全く不明だ。
一人目は大学生の女性、二人目は小学生男子、三人目はサラリーマンの中年男性。
そして、四人目として狙われた高津マリア。
被害者の年齢層や性別もバラバラだ。
そして三人目だけ行われた殺人の生放送。
そういや、トワは何で3回目の殺人だけ放送をしたんだ?
前の2回はそんな話はニュースはおろか噂ですら聞いてない。
そして4回目・・・マリアの襲撃。あの時もいろんな人の話を聞いてる限り放送は無かったようだ。
もし放送されていたら俺やマリアも映っていたはずだから話題にならないわけがない。
変わったことも特には・・・。
――――クソ、なんで電話がつながらないんだ!
「電波、障害・・・?」
「え?」
「マリア、あの日救急車に連絡する時あの場所で電波はつながったのか?」
「へ?いえ、そういえば神無様を治療したあと電波が悪いので公園の外へ一度出ましたわ。」
「そうすると・・・もしかしたらあの放送は一回目からやろうとしたのかもしれない。」
「放送って殺人を生放送したという?」
「まだ想像の域だけどあいつの犯行は十日以内ではあったけど今のとこ被害者に共通点は無く、無差別だ。」
「もし突発的に行ってたとしたらたお粗末な話だけどたまたま電波が悪くて放送できなかったってだけなんじゃないか?」
「では殺人は放送することが目的ということなのでしょうか?」
「わからないけど殺人を放送するのが目的・・・だとしたら何のために?」
一回だけ放送された放送、道野辺から聞いた話だとトワはなんて言っていた?
思い出せ。
――――オレのこと、忘れんじゃぁねぇぞ!
忘れるな・・・
そしてあの時は
――――テメェもオレのこと覚えておけ!
覚えておけ・・・
「そんな、まさか。こんなくだらないことで・・・。」
「何かわかったのですか?」
「まだわからない、ただもしかしたら。」
「あいつはただ、[自分という存在をこの世に知らしめたい]というだけなのかもしれない。」
「そんな・・・。そんなことで三人もの方を?私を襲ったのもただ自分をアピールしたいだけだと!?」
「・・・あくまで現在わかることで考えるとそれくらいしか思いつけない。」
これが事実だとしたらくだらない、本当にくだらない理由だ
あいつは・・・トワは・・・ただ自分の承認欲求を満たすためだけに・・・人を殺している。




