友達
転院し二日目、今日は朝から検査ということで少しだけ慌しかった。
何事も無く終わり、検査結果は後で出るとのことで俺は自分の病室に戻っていった。
今は午後2時をまわったところだ。
何度か入院しているがほんと入院生活っていうのは何をして時間を潰すかといつも悩んでしまう。
本を読むのが一番いいんだけど長時間読んでると目が疲れてくるのがネックだ。
ぷぉんぷぉん
なんとも間の抜けた音が病室に広がった。
「いけね、マナーモードにしとくの忘れてた。」
今のは俺の携帯の着信音、かわいいと思うんだけど周りからは不評だ。
「誰からだろ。」
コミュアプリにクラスの友達から連絡が来てた。そう、殺人放送を見てた例の友達。
「お見舞いに行くから病院教えて!」
ああ、美鈴さん病院教えてないのか。
暇を持て余してたことだし、病院名と号室を伝える。
「ふぅ、まだ四日しか経ってないのにずいぶん会ってないように感じるな。」
飲み物でも買いに行くか。
下まで行かないと飲み物買えないから面倒なんだよなぁ。
ちょうど下りのエレベーターが来ている、先に乗っていた人が俺に気づき待ってくれた。
「ありがとうございます。」中にいた青年に礼を言う。
「いえ。」
チーン
エレベーターが一階に着く。
「お先にどうぞ。」
青年が俺に促す。
「すいません、どうも。」
病人ってわけでもないから気を使わせてしまいちょっと悪い気がした。
さほど大きくない売店でも何を飲みたいっていうのが決まってないと結構迷うんだよな。
「うーん、コーヒーにしよう!」
コーヒーは疲れてる時は甘いの、それ以外はブラックという感じで飲むことが多い。
今日はブラックだ。
共有スペースに足を運び、買ったコーヒーを口につける。
ここならあいつらが来た時すぐ見つけやすい。
ここには大きなテレビが置いてあり、ニュースがやっている
《ここで臨時ニュースです、以前変死体として発見された2名の遺体が現在指名手配中の容疑者トワ氏によって殺害されたものと警察から発表されました。》
「・・・!」
橘さん達が言っていた確証というのがとれたのだろうか。でもあんな風に言うからもっと時間がかかるものだと思っていた。
「怖いわね~」
「早く捕まってほしいわ。」
ニュースを見ていた人達が不安を口々にしている。
次の被害者で出る前に早く捕まってほしい。俺も切に願う。
「何だ、ここにいたのか。」
聞いた声に振り向く、そこには二人の友人が立っていた。
一人は丸坊主で眼鏡をかけた大柄の男・荒田鬼人
鬼人なんて名前だがとても真面目でクラスの委員長をしている。
荒田は同じ中学出身だが話すようになったのは卒業間際の頃だった。
「アンタの部屋に行ってもいないから探しちゃったわよ。」
もう一人の小柄でショートボブの高校生に見えない少女が道野辺流花。
高校に入ってから3年間同じクラスで新聞部だかに入っている。
ちなみに殺人放送を見たのはこの道野辺である。
「ああ、悪い悪い。ここなら二人を見つけやすいと思ってたんだけど見落としてたわ。」
「思ったより元気そうだな。」
「そうね、暴漢に襲われて入院したって聞いてたからもっと大怪我してるものかと思ったわ。」
「まあ、運良くね・・・。」
俺がトワに襲われたことは伏せられている。これは橘さんが言うにはマスコミ対策だという。
確かに今話題のトワに襲われたなんて言ったらこぞってマスコミ達は聞きにくるに違いない。
「とりあえず、俺の病室に戻るか。ここだと落ち着いて話せないし。」
「そうだな。」「そうね、そうさせてもらおっかな。」
三人で病室に戻る。
「へぇー結構良い個室じゃない。あたしも入院する時はここにしよっかな。」
「おい道野辺、縁起でも無いこと言うな。」
荒井が軽く窘める。
「たはー、ミンゴミンゴ。」
道野辺がペロっと舌を出す。ペシって頭をはたきたくなる顔だ。
「おっと、そうだ。忘れないうちにこれを。今の所渡されてるプリントだ。」
荒井が持ってた鞄からごそごそと数枚のプリントを差し出す。
「サンキューな。」
「アンタいつごろ退院できるの?」
「ええっと今日でここに来て二日目だからあと五日後だな。」
「そうか、あんま長引かなくて良かったな。」
「まあほら、見た通りピンピンしてんだろ。」
俺はぐっとひょろい力こぶを作ってみせる。
「アンタもっと鍛えなさいよねー。荒井を見習いなさいよ。暴漢なんてきっと一発よ?」
道野辺がやれやれという仕草で言う。
「いや荒井と比べるのは酷だろ・・・」
「俺はもう悪戯に暴力を振るわん。」
荒井がフンと鼻を鳴らす。
「そうそう、ところでカンナちゃんさぁ」
カンナちゃんは女の子みたいで嫌だから止めてくれと2年以上言ってるがこいつは一向に止めない。
「なんだよ」
「暴漢に襲われた時の様子を聞きたいんだけど!」
「道野辺、さすがにお前なぁ・・・」
荒井が呆れている。
「いや、これは新聞部のとは別でやっぱその、相手も逃げたって言うし・・・不安じゃない。」
道野辺の言うことは一理ある。でも。
「・・・あー、ごめん。その暗かったから相手の顔良く見てないんだよ。」
「そうなんだ、それじゃあ仕方ないね。」
言えない。言ったらたぶん巻き込んでしまうと思うから。
あんな非現実な出来事に友達を巻き込みたくない。
しばらく談笑し、帰る二人を見送りにまたエレベーターで下へ戻る。
とてとてと先を行く道野辺。遠目から見るとやはり高校生には見えない。
俺と歩幅を合わせて歩いてた荒井がポソリと俺に言った。
「神無。お前、何か隠してないか?」
「…いや、別に。」
「…お前、自分自身で気づいてないようだが実は嘘をつくとき無意識に股関を掻く癖があるんだぞ。」
「えっ!嘘だろ!」思わず股関を見る。
掻いてない。
「ああ、嘘だ。」
くっ、まんまとひっかかってしまった。
「お前が言わないってことは俺達に迷惑をかけまいと思ってのことだろう。違うか?」
返す言葉もない。
「…神無、無理に言えとは言わない。だがもし、何か力になれることがあるならいつでも言ってくれ。俺はお前に恩があるからな。」
「…ああ、ありがとう。」
「荒井ー、置いてくよー。」
「あいつも、ああ見えて結構心配してたぞ。じゃあな。」
「うん。じゃあ、また。」
今でこそ丸くなった荒井だが昔はとてつもなく喧嘩っぱやく周りも手を焼く程だった。俺もあいつとは中学時代に一悶着あったがそれが縁で以降よく話すようになった。
エレベーターに乗り込むと女の子がこっちへ向かってきた。
金色の髪に蒼い瞳、お嬢様学校で有名な五条ヶ丘女学院の制服を着ている。外国人だろうか。
「すみません、ありがとうございます。」
流暢な日本語で少女はお礼を言い、エレベーターに乗り込む。
「何階ですか。」
「あ、五階をお願いします。」
五階、俺と同じ階か。
ふと見ると少女がこちらを見ている。
なんだ、顔に何かついてるのか。
ん?あれ、この子…。
「あの、失礼ですが。貴方様はもしかして、神無祐人様ではございませんか?」
先に少女が話しかけてきた。
そうだ、思い出した。
この子は あの時 トワに襲われていた女の子だ。




