6月5日・6月6日
―――6月5日
俺、神無祐人が入院して二日目。
昼食の後、院内の外へ散歩に出ている時のことだ。
「うーん、いい天気だな。」
来週には梅雨入りって話だし、梅雨入り前最後の晴れかな?
等と思いながらぶらぶらしていると
「ちょっといいですか。」
後から話しかけてくる男の声がした。
「はい?」
振り返ると二人の男が立っていた。
一人は40代位だろうか、いかにも刑事さんって感じの渋い男性。
もう一人は少し頼り無さそうな若い男性だ。
・・・前にゲームでこんな感じの二人組見た気がする。
「神無祐人君、だね?」
渋い方の男性が確認してくる。
「はあ、まぁそうですけど。」
なんとなく察しはついてる。
「警察のものです。」
ドラマよろしく警察手帳を見せる二人。
「あ~えっと、警察の方が来るって話はみ…胡桃さんから聞いてます。あの日のことですよね。」
「話が早いようで助かります。私は橘。こっちの若いのが。」
「工藤です。」
「立ち話もなんですし、あちらのベンチででも。」
橘さんに促されベンチに向かう
ベンチに腰掛けたところで、橘さんがさっそく事件のことを聞いてきた。
俺はあの日のことを余計なことだけ省いて話した。
学校からの帰宅途中、公園から悲鳴が聞こえたため警察に連絡しようとしたが電話はつながらなかった。
なのでそのまま公園を探索したところ指名手配犯のトワが少女を襲っていた所に遭遇。撃退はできたが逃げられてしまったと。
とりあえず俺の力や怪我のこと、あと女の子の怪我に謎の黒い渦に関しては黙っておいた。
言ったところで信じてもらえないだろうし、悪戯に捜査を混乱させてしまうだけだろう。
「ふむ、あの子から聞いた話とほとんど同じ、か。」
少し残念そうに呟く橘さん。
工藤さんの方は俺と橘さんが話してる間一生懸命メモをとっていた。
あの子とはたぶんトワに襲われてた少女のことだろう。
「いやぁ、でも君すごいねぇ。指名手配されるような殺人犯に立ち向かうなんてそうはできないよ。」
工藤さんが軽いノリで喋る。
「いえ、たまたま・・・運が良かっただけですよ。」
俺は謙遜し答える。
「いやいや、君のおかげで4人目の被害者が・・・」
「え?」4人・・・目?
ゴン!
「あだっ!」
「馬鹿野郎!なに余計なことベラベラ喋ってやがる!」
橘さんが怒声を上げ工藤さんに拳骨を喰らわせた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!ニュースじゃ確か殺人の放送があったのが確か一人目って・・・」
「あ、いやその~…」
工藤さんが頭を抑えながら目を泳がせる。
はぁ・・・と溜息をつく橘さん。
「・・・神無君は今回の事件の当事者なのでお話いたしますが。実はまだ、確証は取れてませんがあの放送の殺人の後、別で二件アイツと同じ殺し方の被害者が見つかったんです。死亡推定時刻からみてあの放送より前に殺された被害者がね。」
橘さんが仕方無いと言った感じで話す。
それを聞いて戦慄した。
あの時アイツはもう既に3人もの人を殺していたっていうのか。
何が目的でそんなことができるんだ・・・。
「証拠がかたまり次第警察からも発表しますが、今はまだ誰にも話さないでください。」
「いや、でも…!」
「えぇっと、神無君!君が言いたいことはわかる。僕達も正直早く発表した方がいいのはわかってるんだ。」
工藤さんが横から入ってくる。
「なら…」
「警察っていうのはなんだかんだでやっぱ組織であって勝手なことはできないんだよ。」
「…。」
理解はできるけど納得はできない。
「今日のところはこれで帰らせてもらいますが、また君やあの女の子を狙ってくる可能性はあります。何かあればすぐに連絡をください。」
二人は俺と連絡先を交換すると「では失礼します。」と帰っていった。
俺は一人、ベンチに座ったまま考える。
『あの時、捕まえることができていれば・・・』
と思ってしまうのは責任を感じすぎなのかもしれない。
でも、この先また被害者が出たら・・・。
「くっ・・・!」
やるせない気持ちが広がる。
・・・どっちにしろ、現状俺にできることなんてない。
あれだけ良い天気だった空が、曇り始めていた。
―――6月6日
天気はあいにくの雨。
今日は他の病院へ転院する日だ。
朝から美鈴さんが車を出して迎えに来てくれた。
「すいません、迎えに来てもらって。」
「今更何言ってるの。さ、乗った乗った。」
聞いた所、転院先の病院は美鈴さんの家の近くらしい。
「あそこの先生とは学生時代の知り合いでね、個室も空いてるらしいから。」
「別に一週間くらいだし、相部屋でも良かったのに。」
正直、怪我が無くなってる時点で退院でもいいんだけどな、俺としては
「そう?でもほらやっぱ個室の方がいいんじゃない?男の子としては。」
「・・・は?」
何を言ってるんだ?と思わずいいかけそうになる。
「いやーしかし知らなかったなー。祐人がまさかメイド服やコスプレした子が好きだとはー。」
白々しい程の棒読みな感じで話してくる美鈴さん。
ドドドドドドドドドドドドドドド
漫画だったらそんな感じの擬音が流れそうだ。
嫌な汗がドっと溢れ出る。
そういえば俺の着替えを持ってくるという話で家の鍵を渡してたんだけど。
まさかまさかまさかまさか。
「あ、でも一応保護者として健全なのは嬉しいけどあなたまだ誕生日迎えていないので没収させてもらいましたのであしからず。」
OH NOOOOOOOOOO!!!!
『いやいやいや!男の子だからそういう本持ってるっていうのは当たり前というか男の誰もが一度は通って行く道なんだからいいじゃないかと思うし確かにちょっと俺の好みは若干、そう若干だけ人と違うかもしれないけどでもあの清楚な感じの服や非現実感のある服が俺の琴線に触れてしまうんだから仕方無いだろってか着替えを取りに行っただけのはずなのに何でわざわざ隠してた本見つけてあげくの果てに没収とか悪魔的所業を行ってるんだよおおおおおおおお!!』
っていう心情を声に出したいのをひっくるめて
「アッハイ」
とちからなく答えるのが精一杯だった。
グッバイ、マイフェイバリットブックス
美鈴さんが運転する車は悲しみに暮れる俺を乗せ転院先の病院に到着。
結構大きい病院だ。
手続きを終え、荷物を病室に持っていき着替える。
「何か飲み物買ってこようか?」
「じゃあ、何か炭酸がいいな。」
「オッケー。」
財布を片手に病室から出て行く。
「ふう。」
一息ついた
美鈴さんに俺の家から持ってきてもらった本を手に取る。
こう見えて本を読むのは嫌いじゃない、推理小説が特に好きなのだが最近はアニメで見て以来もっぱらライトノベルばかり読んでいる。
コンコンコン
とドアをノックする音がなる。
誰だ?美鈴さんじゃないよな。まだ3分も経ってないし。
「失礼します。」
眼鏡をかけた聡明な感じの男性が入ってきた、白衣を着てるってことは恐らくこの病院の医師だろう。
「やあ、こんにちは。君が胡桃さんの言っていた子だね。確か、神無君だったよね。」
「こんにちは、神無祐人です。」
「私は当病院で医師を務めている城ヶ島といいます。よろしくね。」
「はい、どうも。こちらこそ。」
うーむ、爽やかな眼鏡の似合うイケメンで大人な感じ。しかも医者とか非の打ち所が無さそうな人だ。
「検査入院ということだけど君の場合は意識を失ったという風に話は聞いてるから主に頭に異常がないか確認するという感じになるかな。」
「はい。」
「一応明日脳波を調べたりするので今日は特に何かする必要はありません。他に気になることや心配なことはあるかな?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
今日は本でも読んで過ごすかな。
「あ~・・・ところで、神無君は胡桃さんとはどういったご関係なのかな?子供ってわけでも無いでしょうし。」
「あ、美鈴さんは亡くなった母の昔からの友人でして、僕の面倒を見てもらってるんです。」
「な、ということは胡桃さんとはひとつ屋根の下で生活を!?」
若干城ヶ島さんが興奮気味になる。
これはまさか。
「いえ、僕は中学を出てから一人暮らしをしてまして。胡桃さんとは一緒に暮らしていません。」
「そ、そうなのかい。それは良か・・・い、いや大変だねその歳で一人暮らしとは。」
少しほっとしたような表情になる城ヶ島さん。
「お待たせ、パイナップルサイダーで良かったかな?」
美鈴さんが戻ってきた。
「く、胡桃さん。ど、どうもお会いするのはお久しぶりですね。」
「あら、城ヶ島君。今回はありがとね、個室用意してくれて。」
「いえいえ、胡桃さんの頼みとあらば断る理由なんてありませんよ!」
ははぁ、この感じ。城ヶ島さん、美鈴さんに惚れてるのか。
そりゃ血縁者でも無い少年のことなんて頼んできたら気になるよな。
・・・まあ、美鈴さんが独身で過ごしてるのは俺の面倒を見てるせいだと正直責任は感じてる。
城ヶ島さん、美鈴さんのことになるとアレかもしれないけど悪い人では無さそうだし頑張ってほしい。美鈴さん自分のことに関しては鈍いから大変だろうけど。
「あら、もうこんな時間。じゃあ私はそろそろ行くわね。」
「あ、そう、ですか。」
城ヶ島さん、露骨に残念そうだ。
「じゃあまたね、祐人。城ヶ島君、この子のことよろしくね。」
「は、はい!僕に任せてくだしゃい!」
噛んじゃったよ城ヶ島さん。
寂しそうに美鈴さんの背中を見てる。
「あの、城ヶ島さん。」
「あ、な、何かな?」
「美鈴さんはああ見えて結構お酒が好きですよ。」
その言葉に全てを察したのか城ヶ島さんの顔がパァっと明るくなる。
「ありがとう!」
ぎゅっと俺の手を両手で握る。
「ようし、今度のオフは評判の物を探しにでかけるとしよう!」
るんるん気分で病室を去る城ヶ島さんを俺は目で見送る。
俺なんかのせいで美鈴さんに自分の人生を犠牲にはしてほしくない。
・・・俺もあんまり美鈴さんに心配かけさせないようにしないとな。
そう思いながら俺は美鈴さんが買ってきてくれたジュースに口をつけた。




