さいていの男
帰ったのか?
特に問題も無く目的地である黒楼谷高校に着いた俺達。
しかし、俺達三人を後方からつけてきていたマリアのSPである二人がいつのまにかいなくなっていた。
問題無いと判断したのだろうか。
いや、護衛対象のマリアに帰れって言われてもしっかりつけてくるような護衛がここまで来て帰るとは思えない。
…マリアに確認してもらうか。
「マリア。」
「どうなさいましたか?」
「さっきの二人に連絡取れるか?」
「さっきの…佐森様と右城様のことですか?」
「ああ。」
「取れますが…何かあったのですか!?」
「いや、ずっと俺達の後をつけてきてたんだけどいなくなってるんだ。」
「まあ!気づきませんでしたわ。」
俺から結構バレバレだった辺り、あの二人は尾行は苦手なのかもしれない。まあ見た目からして荒事向きっ感じだったしな。
トゥルルルル トゥルルルル トゥ
「あ、佐森様!?ご無事ですか?…え?はい。わかりましたわ。
いえ、無事なら特には。では。」
「二人共無事だったか?」
「はい、この学校まで来てたようですが帰られたそうです。」
「そうか、なら良かった。」
俺の考え過ぎか。
さて。
「校門は…開かないね。」
「お父様から聞いた話ですと入っても大丈夫みたいですが急な話なので鍵までは用意できないようなので。」
「え!じゃあ校舎には入れないじゃない。」
「とりあえず調べてみるか。もしかしたら鍵がかかってないとこがあるかもしれないし。」
校門はそんなに高いわけではないから登って入れるか。
「二人共、いけるか?特に道野辺。」
「それ身長見て言ってるんでしょうけどこれくらい登れるよ!」
「頑張ります!」
三人校門を乗り越え、まずは昇降口に向かう。
「つっ!」
突然指先に痛みが走る。
「どうしたの!?」
道野辺達が心配そうにかけよる。
「たぶんさっき校門を登った時にどっかぶつけたんだと思う。」
「治療しますか?」
マリアが鞄から針を取り出す。血を使おうと思ったんだろう。
「いや、これくらい大丈夫だ。」
別に酷い怪我でもないし、それにできればマリアに力を使わせたくない。
「まったく、あんな力の話聞いた後だから心配したじゃない。」
「悪い悪い。」
気を取り直し俺達はどこか校舎内に入れそうなとこを探す。
「どこも鍵がかかって入れそうにないな。」
昇降口はもちろん、窓もほとんど鍵がかけられている。
「こうなったら割って入っちゃう?」
「いや、さすがにそれはマズイだろ。」
でも、やっぱりここまで来たからには中も調べたいんだが。
「あら?」
「どうしたの?」
「ここ、開きますね。鍵がかかってないようです。」
「マジか!?」
ぐるっと周り終わりそうなタイミングで見つかるなんて。
逆からまわれば良かった。
がらがら
すんなり開いた・・・。
外から中の様子を伺う。
「…人がいそうな感じはしないな。よし、入ろう。」
入って部屋を見回してみる。
「ここは、美術室か?」
部屋に充満する匂いで予想はしてたが石膏像や絵画が置きっぱなしになっている。
「まだ夕方で明るいとはいえ不気味ねー。それに油絵のにおいかなこれ。」
「私は趣味で絵を描きますのでこの独特の香りとか好きですね。」
「へー。あたしは絵心まったく無いからなあ。」
などと机に座って話だす二人。
がらがら…
ドアを開けそっと廊下に出てみる。近くに人の気配は無い。
「とりあえずは一階から順に見て行くか。」
「手分けした方が早くない?」
「いや、もし探してるやつがいるとしたら襲ってくる可能性もある。その時は二人がいた方が俺も力が使えるから守りやすい。」
「あー…なるほどね。」
一階を一部屋ずつ見て行く。
どうやら一階は職員室、校長室等の職員用の教室と一年の教室が主のようだ。変わったとこは…あるにはあるけどまずは他の階も見ておこう。
「よし、一階は全部見たな。次は二階だ。」
静かな校舎内は俺達の足音しかしない。
まずは二年生の教室から見ていこう。
「ねえ、カンナちゃん。」
机を指でなぞりながら道野辺が話かける。
「どうした?トイレか?」
「ちっげーわよ!その、カンナちゃんの力って自分の意思で使えるの?」
「…どうだかな。俺の力は『誰かを守りたい』って想いが条件で発動するけどその効果も俺が受けるダメージもバラバラだからなんとも言えねえな。」
「やはりそれは力が強くなったり足が早くなったりするするものなのですか?」
なにやら窓を眺めていたマリアもこの話は気になるようだ。
「俺の経験上だとそれが多いかな。ただそういう時は骨折や切り傷とかの怪我が多い。」
「ふむふむ。」
「もちろん強い力程、俺が受けるダメージも大きい。」
「あのさ、もしも、例えば火事があったとしてそれを助けるためにカンナちゃんから水が出るとかは無いの?」
「今のとこ火災現場に遭ったことはないけど、ありえなくはないかもな。ただ、人の力を超えた奇跡を起こすと俺自身がどうなるかわからない。たぶん、最悪死ぬな。」
「さらっと死ぬとか言わないでよ…。」
「実際マリアを助けた時にお俺はその、【瞬間移動】したんだけど」
「瞬間移動!?え?マジなの?」
「そう言われますとあの時目を開けたら目の前おられましたね。」
「たぶん、あの時マリアを助ける最良の効果だったのかもしれない。けどその代わり払った犠牲もなにが起きたかわからないけど血を吐くくらいのダメージを受けたよ。」
「万能の力ってわけじゃないのねー。」
「あの時マリアが力を使ってくれてなかったらたぶん、死んでたと思う。」
「なるほど、死ぬかもってそういうことなのね…。」
そんな感じで力の説明をしながら俺達は二階の探索も終えた。
二階は二年生の教室、音楽室、更衣室など一階と特に特に変化も無く誰もいなかった。
残すは三階か。
階段登ってすぐ横にあった生徒会室に入る。
「ここらで少し休憩するか。」
各々残されたままの椅子に腰かける。
「一階、二階って見たけどさぁ。この学校ちょっとおかしくない?」
最初に切り出したのは道野辺だ。
「私も気になることが…おそらく、同じ意見かと思います。」
どうやら俺も感じていた違和感を二人も感じていたようだ。
「なんでこの学校、こんなきれいなの?」
「数年前に廃校となったのでしたら埃など積もっていてもおかしくないと思うのですが…。」
「ああ、業者も入ってないって話だからな。」
そう、今まで見てきたどの教室も人がいないはずなのにきれい過ぎるのだ。
「それに。」
道野辺が部屋にあった棚からファイルを取り出す。
「荷物もおかれたままだなんて。まるで昨日今日いきなり人がいなくなったみたいじゃない。」
道野辺が持っているファイルには生徒会役員名簿と書かれている。
「ちょっと見せていただけますか?」
マリアが道野辺からファイルを受け取りぱらぱらとめくりだした。
「どうかしたのか?」
「歴代の役員の方が載っているのであれば、恐らくこの学校が廃校になった年でページが終わってるはずなので廃校時の正確な年月がわかるかもと…。」
ぱらぱらとページをめくってくる。
「…ここが最後のページみたいですわ。」
第23代目生徒会、今から5年前か。5年も経っているならやっぱりきれいすぎる。
「あ、この生徒会長の我妻帝って人、昔テレビで見たことある!」
道野辺がそう言って指差した先には爽やかな笑顔の美少年が載っていた。
「そんな有名なのか?」
「うーんとね、確か当時国会議員の息子で性格良し、イケメン、成績優秀で教師、生徒からの信頼も厚いってことでテレビに取り上げられてたわ。クイズ番組とかも出てた。」
「なんだよそれ、無敵かよ。」
この写真を見る限りじゃ確かに見た目からモテそうな感じがする。いつも眠たげな顔とか言われる俺とじゃ大違いだな。
「でもその議員の父親が汚職事件かなんかで逮捕されたんじゃなかったかな。その後この人も見なくなったし。」
「そうなのですか。そんなことがあるとこの方も肩身が狭かったでしょうね…。」
「…。そろそろ行くか。」
生徒会室をあとにし探索を再開する。
視聴覚室に被服室、化学室、あとは三年生の教室か。
やはり他の教室と同じようにきれいな状態だ。
誰か来て掃除でもしてるのか?って思ってしまうくらいに。
残すは三年生の教室。
3-1、2、3と順に見ていく。やはり誰もいない。
「はぁ、この分じゃ無駄足になりそうね。」
道野辺がため息混じりで愚痴る。
「やはり噂は噂なんでしょうか。」
マリアも少し疲れがみえる。
「まあ一応ここまで来たんだし最後まで見て行こうぜ。次は4組だ。」
がらがら
「っ!」
扉を開け俺達の目に飛び込んできたのは花瓶の置かれたボロボロの机だった。
机には罵詈雑言の嵐の落書きがされている。
死ね、犯罪者の息子、最低の男などこの机の持ち主に対するあらゆる批判の言葉がマジックや傷で書かれていた。火であぶったような跡まである。
「酷い…。」
「優秀な学校と言ってもこういうイジメってあるのねぇ…。あ、噂のさいていの男ってもしかしてこの机の持ち主が元?」
「かもな…。」
花も本当に亡くなったわけではなく、そういう意図で置いたのだろうか。…だとしたら陰湿だな。
「あ、見て!ここ!」
道野辺が指差した部分。
犯罪者の息子・我妻帝
「我妻帝…さっきの生徒会長か!」
「・・・さっきのテレビの話からすると信じられないわね。」
「父親が逮捕されたことで会長を嫌っていた人間がここぞとばかりに出てきたのか、それとも掌を返されたのか。」
「…どちらにせよ、可哀想ですわね。この方自身に罪があったわけじゃないでしょうに…。」
皆から信頼されてたはずがこの仕打ちか・・・酷いもんだ。
俺達は我妻の教室をあとにし、残す教室を調べ終えた。
「誰もいなかったわねぇ…。わかったのは5年前に廃校になったのと当時の会長が親の罪でいじめられてたことくらい?」
「でもこの校舎がどうしてきれいなままのかという謎が残りますわ。」
確かに謎はあるが力を持っている人を探すのが目的だしな。もう暗くなってきたし、これ以上は危険かもな。仕方無い今回は引き上げるか…。
「!!」
何かに気づく道野辺。
「どうした?」
「何か…感じない?」
俺とマリアは顔を見合せたが何かを感じとっているのは道野辺だけのようだ。
「なんか、嫌な感じがする…。こっちから。」
そう言って道野辺が指差した先は。
「屋上…。」
そういえば屋上は行ってなかった。
「一応、見に行ってみるか。」
階段を上がり、立ち入り禁止の紙が貼られたドアの前に立つ。
「…たぶんこの先に誰かいる。」
「!!本当か!?」
「うん…。」
道野辺が少し怯えた感じで言う。
俺は二人の前に出てドアノブを握る。
ガチャ
鍵はかかってないようだ。
ドアを開けたその先には。
乱雑に積み重ねられた机と椅子、その上で男が一人横になっていた。
「…誰だい?」
男が起き上がりこちらに向かって聞く。
ワイシャツにくたびれたネクタイ。
胸ポケットにペンを差したその男は。
「あんたは…。」
さっき名簿で見たばかりの顔。
黒楼谷高校最後の生徒会長 『我妻 帝』だった。




